第百一話 凶爪
突然だが王城に招待されることになった。
着の身着のまま転移したせいで無一文だし、宿を提供してくれるのは非常にありがたいのだが――――だからといって王城の一室を借りることになるとは……。
そんなに気を遣う必要はないと(ユキヤと口を揃えて)言ったのだが、「ここで会ったのも何かの縁ですから」とマリアさんはニコニコ微笑むばかり。断れなさそうだなぁ……。
ちなみに一室というのは言葉の綾ではない。一部屋に私とユキヤで泊まることになったのである。姫付きの騎士だから部屋を離すのはまずいだろうと苦心しての対応らしいが、それにしても…………いや、部屋を借りている立場だし、何も言えないのだけれど。
ありがたいことだ。本当に。
マリアは王城の手前で馬車を止めると、すぐに降りて「お父様に話を通してきます」と言って走っていった。清楚で上品な見た目とは裏腹になかなか活発な気質らしい。
「なにか胸騒ぎがするのは私だけ?」
「奇遇だな。俺も仄かな面倒事の匂いを感じていたところだ」
「他国の内部事情に深入りするのはまずいからね? それだけ心に留めておいてね?」
「善処する」
「不安な返事だなぁ……」
一応ある程度の常識は身につけているようだし、大丈夫……かな?
そんなことを考えている内に、マリアさんが駆け戻ってくる。
「許可をもらってきました。遠慮なく王城に入ってください」
「ありがとう、マリア」
「ありがと」
「困っている人を助けるのは当然のことですから」
可憐に微笑む姿が、風に揺れる花のように綺麗だった。でもそこには、折れてしまいそうな危うさも感じられた。
……どうしてだろう。
マリアに続いて大広間へ入ると、突き刺すように煌々と光を撒くシャンデリアが目を引いた。豪奢で壮麗な内装だ。こうして見ると、イリエスの王城は穏やかな装飾だったのだなと感じる。
「――――ようこそ、ヴェルマージへ」
広間の奥の椅子に、頑強な体躯を持つ獣人の男性が脚を組んで座っていた。
「国王のゼルド=ヴァルファリアだ。お二人の名前を訊いてもいいかな?」
「イリエス王国第一王女、レティシアと申します。こちらは付き人のユキヤです」
手のひらを向けて紹介すると、彼は恭しく礼をする。
……貴族式の作法を知っているとは思わなかった。かなり様になっている。
「レティシアとユキヤ……了解した」
そう言って頷くと、ゼルド様は椅子から立ち上がった。
そして――――床を蹴り、赤黒い光を纏った爪を私に向けて振り下ろした。




