第百話 祖先
「じゃあ、レティシアとマリア様は会ったことがあるってこと……ですか?」
「敬語は要りませんよ、ユキヤさん。喋りにくそうですし」
「……助かる」
「自然体の方が素敵ですよ。質問に返答すると……三年ほど前、王国のパーティーへ招待された際に少しお話ししたんです」
マリアさんの同行者ということで通行許可をもらい、関所を通ってから十分ほど。流れていく景色を眺めながら会話をする。
「その可愛い猫耳を見て思い出した……。パーティーに嫌気が差してバルコニーに出たときに、話しかけてくれたの」
「……なんか王子様との出会いみたいなエピソードだな」
「思い詰めた顔をしていらっしゃいましたから、心配になって追いかけたんです。暫くお話ししたら笑顔が見られたので、ほっとしたのを覚えています」
……恥ずかしい。客人を招く立場だったのに逃げ出したところが特に。
過去の汚点から目を背けようとしていると、隣から視線を感じた。
「……なに、ユキヤ」
「いや、レティシアにも可愛いところがあるんだなって」
「どういう意味……?」
「なんでもないっす」
こいつぅ……。
「仲がよろしいのですね」
私たちの様子を見て、マリアさんが微笑みながら言った。
「……まぁ、古い付き合いだから」
ユキヤが私のことを見ながら呟いた。じっと瞳を見つめるその姿から、彼の意図を汲み取る。
……召喚の件を隠そうとしてくれたのだろう。確かに、彼が召喚された人間でないとするなら、今日会ったばかりの人と行動を共にする理由が思いつかない。
しかし昔なじみだとすれば無理筋ではない。
機転が利くというか……彼の要領の良さが窺える。
「幼なじみ、というものでしょうか? 私には幼少からの友人が居ないので羨ましいです」
「一緒に居るときに見栄を張らなくていいから気楽だよ」
涼風のような微笑みが私に向けられる。
彼は誰かのことを思い出しながら今の言葉を紡いだのだろうか。本当に幼馴染みがいるのかとか、後で訊いてみようかな。
……辻褄を合わせるために必要な情報だから訊くだけだ。他意はない。ほんと。
「この国――――ヴェルマージは獣人が多いのか?」
馬車の外に見える景色の中では、数え切れないほどの獣人が生活を営んでいた。尻尾や耳が可愛くて目を引く。
「ええ。この国は古くから続く獣人のコミュニティが基礎になっているので、人口構成の大部分は獣人で固定化されています」
「じゃあ、今の王家はそのコミュニティの中心的な役割を担っていた一族ってことになるのか?」
「そうなりますね。何百年も前のことですが、共同体の長の座を巡って苛烈な争いが起きたようなんです。その戦いに勝利したのが、私の祖先――――ライシャ=ヴァルファリア」
マリアさんは遠くを眺めながら呟く。
「――――世界で一番嫌いな人です」




