第十話 覚醒前夜
溢れ出る光によって塗りつぶされた視界が回復すると同時に、遺跡内部を見渡す。
大きな変化は生じていないように見えるが……。
「……リーシャ、無事か?」
「……ええ」
「変化がないように見えるが……」
「でも、魔方陣に充填された魔力の量は尋常じゃなかった――世界全土に影響を及ぼせるくらいに」
「そう、だよな……」
立ち上がり、再度遺跡を見渡して――。
「……あ」
祭壇の中心に浮かぶ何かを発見した。
「リーシャ、あれ」
「……あ、本当だ。何か落ちてる……」
警戒しつつ近づき、状態を子細に眺める。
「剣……だよな」
柄から伸びた刀身が妖しく光っていた。柄の中心には、宝石のような物が埋め込まれている。
錆びた様子もなく輝きを放つ長剣。
「……取っていいかな」
「取るしかなさそうだけど……」
膝をついて剣に手を伸ばす。
握ってみると、絶妙な重量を感じる。軽すぎず重すぎず、剣士の理想を形にしたような――。
「でも……俺たちのパーティーに剣士は居なかったんだよなぁ……」
「賢者のあなたに炎神の姉様、拳で語るゼクルに聖女シルヴィアだもんね」
「リーシャ、剣術は嗜まないか?」
「……振れないことはないけれど、褒められるような腕前ではないわ」
「そっか……」
持つだけで業物だと分かる武器なんてそうそうないわけだし、相応しい人に持ってもらえればよかったんだけど……。
「とりあえず俺が持っておくか……」
「あなたが剣技もマスターすればいいじゃない」
「えー……剣はどうなんだろうな……」
賢者になれたのだって異世界転移の恩恵を多分に受けてのことなのだ。
努力は惜しまなかったものの、才能がなければどうにもならない領域というものをこの目で見てしまっている。
「……あの魔方陣はこの剣を召喚するための物だったと思っていいのか?」
「にしては必要な魔力が多すぎるようにも思うけど……でも実際、見たところの変化はその剣しかないし……」
「この剣自体に――あの魔力量に相応する価値があるんじゃないか?」
「可能性はあるわ……でも、どんな価値が……」
リーシャの言葉の終わりを待たずに、ある変化が生じた。
「……リーシャ、これ」
宙に魔力が流れ始め――俺の右手の甲に集中する。
まばゆい輝きが右手全体を包み、ぱっと弾けて消える。
後には――月に寄り添う剣の紋章が刻まれていた。
「新たな聖紋……? でも、そんな紋章は……どこにも……」
左手の楔と、右手の剣。
二つの聖紋が語りかけるように淡く発光した。




