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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エイリアン・バスターズ


『……ヤマト、全て準備は抜かりないか?』

「ああ。バイタルも安定してる。バイザーも異常なし。心配は要らない」

『……緊張しているか?』

「まさか! むしろ外の世界に出るのが楽しみなくらいだ。……今回の任務ではアイツらとは遭遇しないんだろ?」

『…………そのはずだ。だが、不測の事態はいつだってあり得る。慎重に行動をするんだ』

「分かってるよ! それじゃあ出発するぜ」


 そう言うとパワードスーツに身を包んだ少年が颯爽とシェルターに開いた入り口から飛び降りた。飛び降りた先の大地はその熱さ故か赤く色づいている。スーツを着ていなければ即座に足が溶けていたに違いない。


 ……へぇ、ホントに地面が赤いんだな。生まれてこのかたずっとシェルターの中にいたからね、地上に立ってるっていうのがちょっと感動するというか何というか。うん、悪くない感触だよ。今なら何でもできそうな気がしてきたぜ。……お、通信だ。


『……無事に降下できたようだな』

「おう! とりあえずキャンプに向かえばいいんだよな?」

『その通りだ。キャンプにはサポートとして1人向かわせている。キャンプに到着し彼と合流次第任務の詳細を話す。……要らぬ心配だとは思うが、シェルター外で万が一奴らと遭遇した場合はその場から撤退しすぐに私に報告するように』

「了解」


 そう言うと少年は笑顔を浮かべ通信を切り、キャンプ地に向けて思い切り駆け出した。彼の名前は太刀川たちかわ大和やまと。皆からはコードネームとしてヤマトと呼ばれている機動部隊期待のルーキーである。





 機動部隊。それは22世紀末になって地球上で広く使われるようになった言葉である。彼らはとある敵を倒し人類の平和を取り戻すために世界全体を挙げて作り上げられた特殊部隊なのだ。

 彼らの敵とは何なのだろうか。その説明をする前にまず22世紀後半の地球について説明をする必要がある。



 ――22世紀後半。地球の環境は人が住むにはやや劣悪となってきつつあった。夏の最高気温は40℃を下回る日などなく、一部地域では50℃を計測する場所もあった。

 そのような環境の中でも人々は懸命に生活を送っていた。最早他に住める星を探す他ない。そんな絵空事がどこかしこで囁かれ始めたちょうどその時、外気温の影響を受けないシェルターが発明されたのである。

 そして人々は生きるためにそこへ集まった。その環境であれば人々は生きられたのだ。


 その画期的発明は見る間に広がりを見せ、とうとう23世紀になるまでにほぼ全ての人類のシェルターへの移動が終わったのである。新しい環境に戸惑う人こそいれども、外気温に怯えずに生きられることに皆感動し涙を流したのだ。



 ……しかし、その平和も長くは続かなかった。地球と同じように移り変わっていった自分の星の環境に適応できずその星から逃げ、地球へとたどり着いたものたちがいたのである。そう宇宙人である。


 太陽がじりじりと照りつける真夏に奴らはやって来た。巨大な宇宙船に乗りやって来た奴らはすぐに降り立った地点を拠点としこの星を我がものにせんと侵略を始めたのだ。不幸なことに彼らは熱に対する耐性を持っているようで高温化した地球にすぐに適応してしまったのである。


 さらに奴らは適応しただけでなく、宇宙船内で生育していたであろう未知なる生き物たちを解き放ったのである。

 それらの生き物たちは外部生物と呼ばれやはり彼らも地球にすぐさま適応し瞬く間に独自の生態系を形成し始めたのである。


 このままでは地球が簡単に侵略され尽くしてしまうだろう。それに対して無抵抗で良いはずがない。侵略してくる奴らに対して抵抗するために、全世界を挙げて特殊部隊が作り上げられた。それこそが機動部隊。通称エイリアン・バスターズである。




 ヤマトが出たシェルターの入り口からキャンプまでは一本道である。このルートは基本的に外部生物との接触リスクが極めて低く、数あるルートの中で最も安全にキャンプへ向かうことのできるルートとなっている。今回が初任務となるヤマトにはうってつけなのだ。


「……お、俺の方が早かったかな?」


 目的地であるキャンプにたどり着いたヤマトは誰の気配もしないその場所で思わずそう呟いた。何の気配もしない静かな空間を見ればヤマトがそう思うのも無理はない。何しろヤマトはここに来ることも初めてなのだ。


 キャンプと呼ばれているこの建物は一切の外部生物をシャットアウトする強固な要塞である。ヤマトたち機動部隊はここを拠点として地球へとやって来た外部生物の全てを殲滅するために日夜、調査と訓練に明け暮れているのだ。


「バカ言え。俺よりお前の方が早いなんて100年早い」


 突然聞こえてきた声に顔を上げるとヤマトがよく知る人物がキャンプの照明にぶら下がってこちらを見ていた。なるほど、確かにこの人物ならば気配を感じなくても無理もない。


「なんだアニキが先にいたのか」

「そりゃいるだろ。今回俺はお前のサポートに駆り出されたんだ。ま、俺がいるから安心しな、しくじってもスーツは回収しておいてやるよ」


 そう言うと彼は床に降り立ち豪快に笑った。アニキと呼ばれた彼は佐保さぼ朋也ともや。ヤマトにとって機動部隊の頼れる先輩であり兄貴分である。戦闘能力の高さはもちろん特筆すべきはそのサポート能力の高さであり、彼がサポートに回った任務の生還率には未だ傷ひとつついていない実績を持っている。

 軽口を叩いてはいるが実力は申し分ない。他の人は彼のことをコードネームであるトモヤと呼ぶがヤマトはその実力に敬意を表してアニキと呼んでいるのだ。


「初任務緊張してるかい?」

「あんまり。アニキがいるしな」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。……だが油断はするなよ。訓練で何度も戦ってはいるとはいえ、外部生物との戦闘は命懸けなんだからな」


 そう言うとトモヤはヤマトのみぞおち辺りを指で示した。パワードスーツのその場所にはサーキュレーターが埋め込まれている。外的刺激で簡単に壊れるようなヤワな作りではないが破壊されると命に関わるのである。




 ――パワードスーツ。それは突如地球へと来襲した宇宙人に対抗するために作り上げられた最先端技術の結晶である。これがあることで人間が活動するには無理がある劣悪な環境となった地上においてもシェルター内部と何ら変わらぬ活動ができるようになっているのだ。


 サーキュレーターはそれを実現させるパワードスーツの代表的な機能のひとつである。これが破壊された場合スーツの内部の温度の上昇を止めることができなくなる。外気温の高い場所で活動が制限されるヤマトたち人類にとってそれは死を意味する。


 このサーキュレーター以外にもパワードスーツには活動を円滑化するための様々な機能が搭載されている。それらの機能を正しく活用し、地球の生態系を脅かす宇宙人や外部生物らに対抗できるようヤマトたち機動部隊は日夜訓練に励んでいるのだ。


『……ヤマト、トモヤ。こちらハイジ聞こえるか?』

「ああ、ばっちりだ」

「俺にも聞こえてるぜ」

『……無事に合流できたようだな。よし、それでは今回の任務を言い渡す。今からキャンプ北西エリアにて外部生物フレイムを3体討伐し、その体の一部をサンプルとして持ち帰りたまえ。繰り返す、今からキャンプ北西エリアにて外部生物フレイムを3体討伐し、その体の一部をサンプルとして持ち帰りたまえ。……理解したか?』

「ああ、理解した」

「俺もだ」

『よろしい。それでは早速任務に取り掛かれ』


「……だそうだ。ヤマト、フレイムについての知識はあるか?」

「フレイムって言うと炎を具現化したみたいな見た目のやつだったか? 周りの熱を取り込んでどんどん大きくなっちゃうから定期的に討伐する必要がある外部生物だよな」

「その通りだ。今回は肥大化の傾向が見られるものを中心に3体の討伐任務だ。肥大化についてのサンプルが欲しいからなるべく肥大化の傾向が強まっている個体を狙いたい。……どうした? なにかおかしなことでも?」


 淀みなく言葉を並べていたトモヤだったが違和感を覚えヤマトの顔をじっと見つめた。バイザー越しのためその顔の全てが見えるわけではないが、何となく真剣さを感じない表情であることは分かった。どうやらヤマトはニヤけているらしい。


「いや、ついに訓練じゃない戦闘が始まると思うとつい嬉しくなって」

「……ほお? 嬉しい気持ちは分からなくもないが、舞い上がってると即座にお陀仏だぜ? まさかお前俺にスーツを回収してもらいたい訳でもないだろ?」

「……まさか」

「だったらもっと気を引き締めるんだな。……もっとも今回の任務で回収することはないか。フレイムはお前の戦闘スタイルなら楽勝だろうしな。……ほら早く行くぞ」

「おう!」



 キャンプ北西エリアに到着した2人は岩陰に隠れながら目的の外部生物フレイムの姿を探していた。他の外部生物がいないことを逐一確認しながら静かに北西エリアを探しているとやや広いところでのんびり休んでいるフレイムを発見したのである。


「……標的発見」

「それほど大きな個体ではないな。肩慣らしにはちょうどいいだろ。ほらヤマト、単騎で突っ込んでこい」

「えぇ? サポートは?」

「必要ならするが、お前の実力なら必要ないだろ。ほら相手が油断してるうちにさっさと討伐してこい」


 せきたてられるようにヤマトは岩陰から飛び出した。フレイムは驚いた表情でこちらを見ている。どうやら不意を打てたようだ。

 その隙をヤマトは見逃さない。愛用の武器“氷刃“を手に取るとすぐさま刀身を一気に振り抜いた。直撃である。


 氷刃。それがヤマトが持つ武器の名前である。刀身に冷気をまとった日本刀であり、刀身の温度を保つために定期的に鞘に納める必要があるものの冷気を纏ったその攻撃力は凄まじいものを持っている。

 特に多くの外部生物は冷気に対して無抵抗なことが多く、この氷刃はかなり有効な攻撃手段であるとされている。


 ……ふぅ、一撃だったな。さすがは俺の氷刃。攻撃力が段違いだぜ。

 おっと、サンプルとして体の一部を回収するんだったな。サンプルを回収するためのカプセルはどこにやったかな? ……ええと、お、これだこれこれ。


「ヤマト! 後ろだ‼︎」

「ん?」


 振り返るといつの間にか肥大化したフレイムが間近に迫って来ていた。先程討伐した個体ではないことはすぐに分かった。

 幸い既に納刀は終わっている。ヤマトの特技は居合抜刀。言ってしまえば鞘の中で冷気を纏った刀身をすぐさま振り抜くことである。つまりその攻撃は想像よりも……速い。


 氷刃によって切り裂かれたフレイムは衝撃に耐えきれず弾け飛んだ。かなりの距離まで近づかれていたがどうやら無事に倒せたようだ。


「……まったく危なかったな。俺がいなけりゃヤマトお前危なかったぞ」


 そう言いながらトモヤがゆっくりと近づいてきた。手にはカプセルが握られていた。恐らく先程最初に倒した方のフレイムの一部をサンプルとして既に回収したのだろう。ヤマトもそれにならい弾け飛んだフレイムの体の一部を回収し始めた。


 ……弾丸が落ちてるな。まだ少し冷たい。近くにいて銃を扱うのは……、間違いないアニキだ。サプレッサーが装着されてるだけあってまったく音もしなかったな。こうやってさりげなく戦闘を助けてくれるんだからアニキのサポートはやっぱり一流だよ。


「これで残りはあと1体か」

「いや、もう終わりだよ」


 そう言うとトモヤは隠し持っていたもうひとつのカプセルを取り出した。どうやら知らぬ間にもう1体の討伐と回収を済ませていたらしい。相変わらず仕事が早い。


「……それいつ倒したの?」

「お前がフレイムを倒した余韻に浸って別のやつに近づかれてる間、だよ。ちょうど近くにいたもんでな」

「……近づかれていたのには気付いてたの?」

「ああ、気付いてると思ってたからな。だがお前は全然気付いてなかったな」


 そう言ってトモヤは思い出したかのように笑ったのである。どうやら泳がされていたようだ。そしてということはつまり回収用のカプセルを探していたこともバレている可能性が高いということである。恥ずかしいとばかりにヤマトは少し俯いた。


「ま、最初の任務でこれだけ動けたら上出来なんじゃない?」

「……本当?」

「ああ。……カプセルを見つけるのを手間取っていたことは上官に黙っててやるよ」


 やっぱりバレてるのかよ。……アニキがニヤけてる時は要注意なんだよな。絶対どっかのタイミングで誰かに言うんだぜ。それでその人づてに上官に伝わるんだよ。つまりそれ言ってるのとあんまり変わんねえからな。……ん? 警告音?


 耳元でやや大きな警告音が鳴っている。この音は緊急事態を知らす信号であり、余程のことが無い限り実戦の場で聞くことのないはずの音である。トモヤは顔をしかめている。多分自分もそうだろう。何か良くないことでもあったのだろうか。


『……こちらハイジ、聞こえるか?』

「聞こえてるぜ! 何があったんだ」

『説明している時間はない。2人とも至急その場から撤退しシェルターへ向かえ。繰り返す2人とも至急その場から撤退しシェルターへ向かえ』


 そこまで言ってハイジからの通信はぷつんと途絶えた。やはり何かあったらしい。トモヤとヤマトは顔を見合わせると、どちらともなくキャンプを目指して駆け出した。


 シェルターへの道は何パターンかあるがヤマトが行きに通ったキャンプを経由するルートがもっとも安全でかつ早く通過できる。2人とも相談するまでもなくそのルートを選択し、そして5分とかからないうちにシェルターへと帰還したのである。


 そうしてシェルター入り口へとたどり着いた2人は思わず言葉を失った。空中に迫り出すようにして作られたシェルターの入り口が何者かによって破壊され、無惨な姿で転がっていたからである。


「……扉が破られている?」

「電子ロックとはいえ、あれはただの金属の塊だからな。力でごり押しされれば突破される可能性がない訳ではない。……だが、そうさせないように監視がついているはずなんだがな」

「そうだよね。監視役の職員はどこに?」

「…………っち。ご丁寧に首を飛ばしてやがる」


 トモヤのその声にヤマトも監視役がいる方角に目を凝らした。監視役の職員の胴体と飛び散った鮮血がぼんやりとだが確認できる。いくら目を凝らしても顔が見えないということはそういうことである。


「監視役を処理してから堂々と侵入してきたってことか。そりゃあの信号も頷ける」

「中に宇宙人が侵入してるってことか?」

「その可能性が高い。そして入り口が特に整備もされずこのまま放置されているということは現在進行形で侵略中ってことだ。……中にどれだけの宇宙人や外部生物がいるかは想像もできない」


 淡々と目に入るものを考察するトモヤの姿はかなり冷静に見える。やはりアニキは頼もしい。同じ機動部隊の一員として自分も冷静にやるべきことをこなさねばならない。ヤマトはひとつ大きく息を吐いて自分のはやる気持ちを押さえつけた。


「……怖いか?」

「……いや、怖くなんてない。俺は俺のやるべきことをやるだけだ」

「……ふ、今度は舞い上がってないか。いい傾向だ。それじゃあ俺はお前のサポートに回るとしよう。……通信はまだ途絶えたままか。恐らくメインの電源が落とされてる可能性が高い。まずはシェルターに入ってすぐの予備電源室を目指す。それで通信機能が復活するはずだ。状況を整理しないと下手に動けないからな」


 トモヤのその言葉にヤマトは無言で頷いた。


 恐らくこれはヤマトにとって初めての大規模任務となるだろう。パワードスーツの中の体は少し震えているようにも感じる。だが、恐れてはいけない。これはきっと武者震いに違いあるまい。ヤマトもまた機動部隊の一員なのだから。


 覚悟を決めた少年は頼れる兄貴分と共に敵の巣窟と化したシェルターへと飛び込んだ。長く過酷な戦いはこうして始まったのである。

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