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54.森へ


 なんだかすごい人が来てしまった。

 勇者様と一緒にいた人だから、きっと偉い人で間違いない。後ろにいっぱい騎士様を引き連れていたし。


 アレックス元帥は、話しやすい感じはない。むしろ威圧感があってちょっと怖いくらい。

 でも、関わらせてはくれるらしい。関係ないって追い出さないで話の渦中にいさせてくれる辺り、本当は優しいのかも。

 後ろにいた騎士様たちは何人かを残して村の警備にあたってくれた。残った人たちはちょっと手狭なキッチンで顔色一つ変えず控えているのはなんだか変な気持ちになる。同じ騎士様たちなのにライナー様たちとはまた雰囲気が違うなぁ。


 状況説明をして森に一番近い教会のキッチンスペースに集まったはいいけど、皆なんだか難しい話をしている。

 ライナー様たちと合流してお互いにの状況を確認するのはわかるんだけど、難しい話はわからないので端の方で大人しくしておく。


 どうやって森に入るのかとか、アレックス元帥と来た騎士様の内何人かは村の人の護衛に置いて行ってくれること。森の中で魔物に遭遇した際の連携とか。基本的にはアレックス元帥がライナー様や他の騎士様たちに指示している感じ。

 正直なんでそんなにてきぱき指示出せるのかなってくらい会話の回転率が速いし、何がどうなっているのかさっぱりだ。

 ただ向こうに行ってなさいって、遠ざけられたりしなかったので少しだけ安心している。大人は皆聞かれたくない話をする時は子供に向こうへ行けって言うもの。


 そういえば、何にも言われないけど自己紹介とか必要なかったんだろうか。

 私は事前にライナー様やアスターおじ様からアレックス元帥のお名前を聞いてたけど、名乗りもしないのは失礼になるんじゃないかしら。そんなことを考えながらアレックス元帥を見ていたら目が合った。


「えっと。私、エリセといいます」


 丁度話も終わり一区切りついたところみたいだし丁度いいかと思ったのだけど何か間違っただろうか。


「アレックス・フォーサイスだ」


 しばらく私をじっと見下ろしてアレックス元帥が口を開いた。

 ああ、よかった。応えてくれた。それにしても仕事以外は無口な人なのかな。アスターおじ様とは気安い感じがしたけど、やっぱり昔一緒に旅をしていた仲だから?

 声をかけたもののどうしようかと悩んでいたらアレックス元帥が小さく息を吐いた。


「先ほどはああいったが、嫌なら断ってくれてもいい」


 断る、とは。森の案内のこと? 私としては役に立てるし、何がどうなってるのか知れたりで願ったり叶ったりなんですが。

 アレックス元帥は偉い騎士様みたいだし私とは何か違う視点で気になることがあるのかも。


「やります。私も、何が起こっているか知りたいんで」

「自分に不都合な事実があっても?」


 この人はそこまで怖い人ではないのかもしれない。

 知りたい。知れば傷付くかもしれない。知るのが怖い。それはきっと皆同じ。知らないままでいることを望まれている。

 でも私は、知りたいと思ってしまった。目の前にいる人は、私が知ることを否定しないでいてくれた。

 あの時アレックス元帥が言った「知らぬままでいるよりは、踏ん切りも付く」という言葉の意味はわからない。アレックス元帥が何を知っているのか、森に行って私は何を知るのか。


「それを知ってどうなるかはわからないけど、知らないままでいるよりはずっといい」


 わからないから、知りたい。知って、全部呑み込みたい。そしたらちょっとは、お婆ちゃんの気持ちもわかるかな。

 なんて、思っているんだけど。やっぱりちゃんとした大人から見ると私の考えはまだまだ子供だって思われるのかしら? 具体性もなければ、行き当たりばったりだって呆れられてしまうかな?


「そうか」


 返事はたった一言。アレックス元帥の表情は変わらなくて心配してくれているのか、興味が無いのかすらわからない。お婆ちゃんとちょっと似てるな。淡々としてて、何を考えているのかわからない感じとか。すぐ傍にいるのにどこか遠くにいるようなところとか。

 アレックス元帥はまたしばらく私をじっと見て口を開いた。


「ソフィリアについてどこまで知っている?」

「正直ほとんど知らないです」


 ずっと一緒に暮らしていたのに、私はお婆ちゃんがどういう人となりをしているのかをよく知らない。

 思えば教会のお勤め以外は特に何かをするでもなく、これといった趣味もない人の様だった気がする。まぁ、この村に娯楽らしい娯楽が無いのも問題なんだけど。

 生きて行くのに必要なことや、教会の教えなんかはたくさん教えてくれた。でも、お婆ちゃんの好きな物や思い出話なんかは全然教えてくれなかった。


「変わったのか、変わらざるを得なかったのか」


 アレックス元帥が少し寂しそうな声で呟いたのはお婆ちゃんを思い出しているからだろうか。

 アレックス元帥やアスターおじ様が知るお婆ちゃんってどんな人だったんだろう。何で魔王を倒した後お婆ちゃんやアレックス元帥たちはばらばらになっちゃったんだろう。

 ヴァイオレットは、どうして。


「村人は全員牧場に避難したぞ」

「ご苦労」


 応接室に入って来たアスターおじ様にアレックス元帥が短く返して居住まいを正す。森へ行く準備が終わったってことでいいのかな。

 キリルはアスターおじ様が牧場に送り届けてくれたらしい。聖書とか持って行ってもらえばよかったな。気休め程度にはなったかもしれないし。

 でもアレックス元帥と一緒に来た騎士様たちが残ってくれるし大丈夫か。私が心配する必要もないのかもしれない。


 お婆ちゃんが置いて行ったロザリオをポケットに忍ばせてある。ライナー様やアレックス元帥を始め、他にも騎士様たちが一緒に森に行く。だから私が心配することなんてほとんどない。

 深呼吸すると、ライナー様と目が合った。


「大丈夫だと思うが、離れないようにな」

「わかりました」


 ぞろぞろと連れ立ってキッチンにある勝手口を出て森へと向かう。

 道案内ということで先頭に立ってはいるけどすぐ傍にライナー様が控えてくれているから安心だ。

 えっと、一先ず精霊様の泉まで行けばいいのかな? きっとお婆ちゃんもそこにいるだろうし。


 森の中は日の光が入りづらくてちょっと薄暗い。ただでさえ曇り空なのになんだか嫌な感じ。

 そんな薄暗い森の中でも騎士様は誰も躓くことなくついて来るんだからすごいよね。歩き慣れている私ですらちょっと慎重に歩いているのに。


 森の中を注意して見回すと、確かにキリルが言っていたように動物の死骸はある。あるけど、おびただしいほどってわけじゃない。

 大騒ぎするほどじゃなかったかな。でも何かあるよりも、早とちりでしたで済む方がずっといいよね。

 同じようで微妙に違う森の中を進んでいくと不意に気の抜けるような声がした。


「おーい、こっちこっち」


 よく知っている声。ヴァイオレットだ。

 声を上げこちらに向け手を振っている。茂みの向こうにいるせいで、見えているのは肘から上だけという変な恰好だ。珍しい。いつもなら木の上にいるのに。

 何気なくそちらに行こうとしてライナー様に止められた。


「様子が変だ」


 振り返れば他の騎士様たちも警戒していて、急に不安になる。アレックス元帥を振り返り何かを頷いた後、ライナー様が前に出た。

 茂みをかき分けるとそこにいたのはやっぱりヴァイオレットで。でもいつも道理じゃなくて。


「やぁ、随分懐かしい顔までいるじゃないか」


 なんて、いつもより少しテンションが高いような声で。

 どういうわけか怪我をしてボロボロになった姿でヴァイオレットが木を背に座り込んでいた。


「アンタ、その怪我!」

「ん? ああ、さすがに数で来られると後手に回ってね。休憩中だよ」


 へらりと笑う犬耳女に思わず声を上げる。

 なんで怪我をしてるの? その怪我ってもしかしてアンデットが? なんでこんな時までへらへらしてるのよ。言いたいことは色々あるのにうまく言葉にできない。

 私がよくわかっていなかっただけなのか、思っていたよりも事態はずっと深刻なのかもしれない。



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