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51.アンデット


 村の皆を避難させると決まってからは早かった。

 ライナー様たちが教会に残って森から魔物が来ないかを見張っている間に、私とキリルとアスターおじ様で手分けして村の皆に事情を話し牧場に避難してもらう。話す内容は先に決めていたし、あちこち動き回るのは余計なことを考え過ぎずに済んで助かった。


 最初は驚いていたけど、また森に妙な魔物が現れたこと。アスターおじ様曰く、アンデットと呼ばれる死んだ生き物が魔物化したものだということを話せば、ロバートおじ様は難しい顔をしながらも頷いて家と羊小屋の一角を貸してくれた。

 小さい子やお爺ちゃんお婆ちゃんは家の方に、他の人には悪いが羊小屋に避難してもらおう。長引くようなら出来る限り環境は整えるので少しの間我慢してほしい。

 分厚い雲が空を覆っていて少し肌寒いけど、本格的に寒くなる冬じゃなくてよかった。まだ短時間の間なら凍えたりはしない。


 それから、お婆ちゃんについては。アスターおじ様たちと話し合って「異変を何とかするために森に一人で入って行った」って皆には説明した。

 多分、半分アスターおじ様の願望も入っているんだと思う。私だってそうだったらいいなって思ってる。でも本当のところはどうかわからない。



 アスターおじ様の言う通り何でもない顔で全部解決して帰ってくるかもしれないし、キリルの言う通り私が知らないだけでお婆ちゃんは本当はいい人じゃないのかもしれない。

 お婆ちゃんもヴァイオレットも私に秘密があった。アスターおじ様やライナー様、それにキリルにも私の知らない秘密があった。私だって、言わなかったことがあった。

 隠しごとをされたから秘密にしたのか、秘密があったから隠しごとをされたのかと、ぐだぐだと頭の中にいる誰かが問いかけてくる。今更何を言っても遅いし、今は考えている暇はないのにね。


 何度も深呼吸して気持ちを押さえつける。気休めにしかならないけど、別に構わない。

 不安がないわけじゃない。だって相手はアンデット系の魔物だ。最近村の周りではたくさんの鳥や小動物が死んでいたし、森の中もそうだったらしい。

 でも、原因や解決方法を考えるのは私の役目じゃない。確かに力にはなりたいけど、自分に出来ないことがあるっていうものわかってる。

 今やるべきは魔物が出てくる前に皆を安全に避難させること。皆の不安を少しでも取り除くこと。それが私の、修道女としてのお役目。


 家々を回って事情を説明して牧場に行ってもらう。避難って言うとやっぱり皆不安になっちゃうから、念のため。ライナー様たちが安全確認してくれている間だけって付け加えておく。

 まだ他にも魔物がいて村にやってくると決まったわけじゃないもの。そうなった時混乱しないようにって、先に安全確保してるんだって、皆にも自分にも言い聞かせて行く。

 羊や動物たちを小屋に仕舞ったらロバートおじ様やピーターも誘導を手伝ってくれるらしいし、あと少し頑張ろう。


 皆の避難誘導なら前にもやったことがある。私が誘導したのはちょっとだしほとんど教会で皆に大丈夫だよって言っていただけなんだけど。後はトニオたちを迎えに行って、ライナー様とお婆ちゃんに怒られたり。

 あの時は狼の魔物だった。最初に森の中に人とも狼とも取れる魔物が出て、その後狼の魔物の群れがやって来た。

 ……魔物、多いな。お婆ちゃんが旅をして勇者様と一緒に魔王を倒して以来、魔物はどんどん少なくなって行っているはずなのに、ここ数ヶ月で何度も森に魔物が現れてる。狼の魔物に始まり、ヤギ頭の魔物、それから今度はシカのアンデット。何がどうなってるんだろう。

 ロバートおじ様やキリルじゃないけど、こうもたくさん魔物に会うと精霊様はどうして何も教えてくれなかったんだろうって。お婆ちゃんは何も知らされてなかったのかなって思ってしまう。


 頭に浮かんだ不安を無理やり隅に追いやって顔を上げる。私と同じように家を回っていたキリルと目が合った。

 一軒一軒家を回って残っている人はいないか声をかけて行くのは一苦労だ。でも皆一度魔物を見ているせいか、理解は早いし協力的で思っていたよりも早く避難が終わりそう。


「こっち一通り周り終った」

「そっか、ありがとう」


 声を掛け合ってロバートおじ様の家に避難しつつもおじ様たちは何か話し合っているみたいだった。なんだろう。何かあったかな。

 そういえばさっきも男の人たちだけで何かしていたし、何か気になることがあるのかな。話を聞きたいけど、気軽に聴ける雰囲気じゃないし。

 そこまで考えてはたと気が付く。そういえばあの時キリルも呼ばれてたんだ。


「ねぇ、村の外で何をしていたのか聞いてもいい?」

「え? あー、それは……」

「さっき出た魔物に関係あるの?」

「……おじさんたちに怖がらせたらダメだから女子供には言うなって言われてたんだけど」


 そう前置きしてキリルが話してくれたのは、最近村の周りで度々目にしていた動物の死骸の話だった。

 おじ様たちが片付けてくれているのは知っていたけど、その後どうしてたのかまでは知らなかった。村の外にまで運び出してまとめて燃やしていたんだ。キリルはその手伝いに駆り出されていて、実際に火が消えるまで立ち会っていたのだとか。


「あの魔物がアンデットなら、外で燃やして正解だった」


 なんて言うキリルの言葉を聞いて改めてアンデットと呼ばれる魔物を思い返す。確かにそうかも。死んだ動物がアンデットになるのなら、今村の周りには虫や鳥、小動物の死骸がたくさんある。キリルの言う通り燃やしておいてよかったのかも。

 一応倒せないこともないらしいけど、正確に核になっている部分を壊さないといけないって昔お婆ちゃんが言っていた。そしてアンデットにはお婆ちゃんの持っている聖なる力が効果的だとも。

 ただお婆ちゃんは今村にいない。無事だとは思う。怪我とか、してなければいいな。


 そんなことを考えていたらすぐ傍でカサリと音がした。

 何気なく視線をやった先には草陰からこちらを除く野兎の姿がある。野兎は村ではあまり好かれていない。なにせ畑の野菜に片っ端から口を付けるので、見つけ次第村の外に追いやるか捕まえて美味しく頂くかの二択だ。

 でも今回はさすがにその二択は選べない。


「ねぇエリセ、あのウサギってさ」

「うん。ちょっとマズいかもしれない」


 いつだったか、アスターおじ様が人が素手で対抗できる動物のサイズについて話していた。一応中型程度の犬猫なら何とかなると言っていたけど、正直犬猫も素手じゃ大変だと思う。

 なら野兎は? ジッとこちらを窺っている様に見えるが、それにしては視線が低い気がする。あ、もしかしてこれすでに狙われてる。


「うわっ」


 慌てて下がると、ほぼ同時に野兎が飛んで来た。

 頭突きなのか組付きなのかはわからないが、とにかくウサギの脚力はすごいんだ。前に蹴られたことがある私にはわかる。普通のウサギでもかなり痛いんだ。魔物化した野兎に蹴られたら骨だけで済みそうにもない。

 畑にとっては害獣だけど本来ウサギは可愛い生き物だと思ってた。なのに、目の前のウサギは何だ。目が白く濁って、周りもなんだか窪んでいる。


 アンデットって言うくらいだしもっとおどろおどろしい見た目の物ばかりだと思っていたけど、死んですぐだとそうじゃないらしい。

 それでも明らかに生きている感じはしないのだから魔物ってやっぱり他の生き物とは違うんだなって今更ながらに感じた。


 気が立っているのか、はたまた本能的な物なのか。地面をだんだん踏み鳴らすウサギが、二撃目の蹴りの準備をしている。人のいる方へ逃げるのは無しだ。キリルにアスターおじ様かライナー様たちを呼んできてもらう?

 ぐるぐる考えている隙にウサギが飛び上がったのと、後ろからキリルが私を呼んだの。それからあわやというところで何かが光ったのはほぼ同時だった。


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