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見習い修道女エリセちゃんは現実が見えない  作者: ささかま 02
田舎娘は王子様を夢見てる
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3.朝が来る


 田舎暮らしの朝は早い。

 日の出の頃にごそごそと身支度を整えて早朝のお祈りを済ませる。

 一字一句覚えるまで繰り返し読まされた聖書とお下がりのロザリオを手にしながら、どこにいらっしゃるのかもわからない神様に朝のご挨拶をするのだ。

 こちらは今日も元気です。何なら眠いです。いい加減何か特別な力を授けてください。敬具。


 はい。朝のお祈り終わり。

 本当はもっと厳格な感じでやるべきことなんだろうけど、生まれてこの方十四年、特に神様に何かしてもらった記憶もないのでほぼ惰性で続けている。

 すごい力を手に入れてパーフェクトエリセちゃんになる夢は諦めてないので、いい加減神様に祈る以外の方法を模索した方がいいのかもしれない。


 朝のお祈りが終わったら朝食の準備。

 お婆ちゃんは朝のお祈りが終わると裏の森に行くので朝食は私の担当だ。

 なんでも森に住んでいる精霊にも神様と同じように挨拶をしに行っているんだとか。実際のところ何をしているのかはよく知らない。

 見えないし恩恵がわからない相手を信仰するのも中々大変よね。それが聖職者のお仕事だって言われたらそれまでなんだけど。



 そんなことを考えながら今日も今日とて一日の分の生活水を裏の井戸から汲んでくる。今日は騎士様たちもいるしいつもよりも多めに用意しないといけない。

 せっせと井戸水を桶に移し替えてそれを裏口すぐのところにあるキッチンの瓶に移し替える。これがまた重労働なのよねぇ。

 毎日やってても、朝は冷えるし何より力仕事ってのが気分が滅入る。


 あー、ねむ。本当はもっと日が高くなるまで寝ていたいし、目覚めてすぐじゃなくても力仕事なんてしたくない。

 まぁ田舎でこんなこと言ったら怠け者の烙印を押されて大変な目に合うのはわかってるので口にはしない。


 この前アスターおじ様が言っていたけど王都の方では、わざわざ井戸水を汲んでこなくてもいい生活が広まり始めたらしい。

 どういう方法なのかしら。その生活が村にまで広がったら絶対楽になるのに。……この田舎の村まで広まるのに何年かかるかな。

 考えなくとも自分でその生活を迎えに行った方が早いよね。


 うだうだ言っていてもお腹が空くだけなのでため息とともに雑念を追い出す。

 桶の中身を水瓶に移していると廊下へ続く扉の開く音がした。


「おはよう、朝から偉いね」

「おはようございます。ライナー様」


 桶を抱えたまま顔を上げると、鎧こそ身に着けていないもののすでに身支度を済ませたライナー様が立っていた。


「言ってくれれば手伝ったのに」

「慣れてますので」


 桶を指さして言うライナー様にそう返事をして桶の残りを水瓶に移す。ありがたい申し出だけどさすがにお客様に頼めない。

 慣れてるし今のところ何とかなってはいる。確かに大変だし楽はしたいと思うけど、楽したいだけだし。


 ライナー様は今度、定期的に村に来てくれるらしい。

 昨日の夕食の時に伺ったけど、先月まで来ていたおじ様は人事異動とか言うので違う場所に行くのだとか。

 ライナー様も他の騎士様たちも皆気さくだしお優しいし嬉しいな。


「すぐに朝食の準備をしますので座っててくださいね」


 手を洗ってお鍋に汲んできた井戸水を注ぎ火にかける。小麦と干し野菜のスープと、スクランブルエッグとパン。あとはベーコンも少し焼こうか。

 お婆ちゃんと二人なら朝はパンとスープで済ませてしまうけど、今日はライナー様たちもいるし少し豪華に。

 と言っても、私にとってはってだけで騎士様たちはいつもこれくらい食べてるのかもしれないわね。男の人だし、夕食もいっぱい食べてくれたし。


 時折ライナー様と話したり、起きてきた他の騎士様たちと挨拶をしながらせっせと朝食の準備を用意する。

 全部出来上がってテーブルに並ぶ頃になると、ようやくお婆ちゃんが裏の森から帰って来た。

 お婆ちゃんと騎士様たちが話しているのを横目に人数分のコップに水を入れる。いつもは二人分しか乗らないテーブルいっぱいに皿が並んでいるのはちょっと圧巻だ。


「お帰り、お婆ちゃん」

「ああ、ただいま」

「もう食べれるよ」


 今日も朝からお勤めご苦労様です。

 雨の日も風の日も、毎朝森に分け入って精霊様のご機嫌伺なんて大変よね。お婆ちゃんも年だしさすがに嵐の時はその限りじゃないとはいえよ。

 精霊様のおひざ元、ってやつだし今まで森で魔物を見たことがないけど、野生の動物はいるし全くの安全じゃないのに。

 私なら絶対無理。まず面倒だし、見えない人のご機嫌伺いとか多分できない。でも特別な力は欲しい。必ずしも聖女様になりたいわけじゃないので他の方法を模索する方向で考えようかな。


「天上より見守りくださる神々よ、我らに日々の糧を与えたまえ」


 お婆ちゃんの声に倣い手を合わせる。

 一瞬騎士様たちは戸惑った後、手を合わせた。

 わかる。お腹空いてる時の食前のお祈りってちょっと面倒だし慣れないと慌てちゃうもんね。


 何処にいるのかもわからない神様に感謝するより、目の前に並んでいる食べ物に感謝したほうが食欲もわく気がするのに。無粋なので言わないけど。

 はい、今日も美味しくいただきます。残さず食べるので許してね。


 形だけのお祈りを済ませてやっとご飯の時間。

 食器のなる音を聞きながら卵を口に入れる。本当はスクランブルエッグにチーズ入れたいけど、今日はなかったので我慢。


「ライナー様たちはお昼までには出られるんですよね?」

「あぁ、準備が整い次第村を出るよ」


 なら軽食をお渡しした方がいいかも。サンドウィッチとかなら移動中でも食べられるかな。

 じゃあ今日の掃除は昼からにしよう。

 森を背中にした教会は木造で雨漏りこそしていないが、いくら掃除してもいつの間にか部屋の隅とかに小さな虫たちが不法占拠している。

 洗濯は達成感があるから好きだけど、掃除はやってもきりがないし好きじゃない。


「そういえば牧場の方の柵が壊れていただろう?」

「うん、ピーターが言ってた」

「近いうちに直すとは言っていたが、お前も少し気をつけておきな」


 隣の席に座ってパンにバターを塗っているお婆ちゃんに注意された。

 一応気にはかけておくくらいかな。野犬とか入って来たって私はなんの役にも立たないし。精々ほうき振り回して威嚇するくらい。

 まぁ私のやることなんて他に壊れている柵がないか気にかけておくくらいかな。


「それは……大丈夫なんですか?」

「今日は妙に精霊様の機嫌が良かったが、どうだかねぇ」


 ご機嫌だったんだ。精霊様のお考えはわからないけど、ご加護ってどのくらいの効果があるんだろう。

 今まで村の中に野生の肉食動物や魔物が入り込んで来たりはなかった。でもそれって今までそうだったってだけで今後はどうなるかわからないんでしょ? やっぱり私は精霊様に会ったこともないし見えないので今一ありがたみがわからない。

 罰当たりって言われても困るし、感謝を忘れられたので守りませんと言われても面倒だし形だけでも感謝しておく。精霊様ありがと。


 村の皆は私が聖女様を継ぐんだって思ってる人もいるみたい。でもやっぱり私は聖女様にはなりたくないかも。

 確かに特別な力は欲しい。でもこの村のことしか知らないままなのも嫌だし、王子様や勇者様にも会いたい。素敵な恋をして幸せに暮らしたい。

 だから聖女様として精霊様に祈りを捧げ続ける人生って言うのはちょっと微妙な感じ。


 そんなことを考えながら騎士様たちと話したりながら朝食も終わりを迎えようとしている頃に、急に外で誰かがお婆ちゃんを呼ぶ声がした。礼拝堂の方に誰か来たみたい。

 何があったのかな。いくら田舎の人間は朝が早いとは言えこの時間に訪ねてくる人なんてそういないのに。

 誰となく立ち上がって礼拝堂に向かえば肩で息を切らした顔見知りのおじ様がいる。


「聖女様、大変なんだ」

「なんだい騒がしいね」


 なんだかただごとではない感じ。

 いつもは奥さんと一緒に野菜を育てているおじ様が、怖い顔をしている。


「牧場がやられた」


 牧場はこの村に一つしかない。

 ピーターの所だ。一瞬やられたって何が、と自問してすぐに答えが出る。

 あの壊れかけていた柵から何かが入り込んだのだろう。いつもの調子で羊が頭突きしたのか、随分とぐらついていた。その結果、羊や、他にも一緒に飼育していた豚が。


「朝牧場を見に行った時にはもう全滅だったらしい」

「怪我人は」

「あ、あぁ。怪我はないよ」

「そうかい」


 それだけ言うと、お婆ちゃんが礼拝堂を出ていく。

 おじ様を疑うわけじゃないけど、その話が本当なら今頃ピーターは。

 お婆ちゃんに続いて教会を出る。通い慣れたはずの牧場への道が長く感じた。

 牧場に近付くに連れて多くなる人だかりと村の皆の視線と反対に、牧場の柵の中には生きている羊は一頭も見当たらなかった。


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