表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/93

28.蕾は開かず


 お婆ちゃんは、私に話してくれないことがたくさんある。

 教会の教えてとか、生きていくのに必要な知識は詰め込むみたいに教えてくれた。

 でも、昔一緒に旅をした勇者様たちの話とか、森に住む精霊様と何をしているのかとか。徳を積んだ聖人だけが使える聖なる力の使い方は……今のところ才能がないらしいので一旦保留にしても、昨日森に出たヤギ頭の魔物がいったい何なのかも教えてくれない。


 私にはわからない何か難しいことを考えているんだろうけど、何も教えて貰えないのは少し寂しい。なんで私には何も言ってくれないんだろう。

 確かに何かが起こっているのに何も教えてくれない。言ってもわからないと思われてる? それとも私には聞かせられない? うんうん悩んでみても結局お婆ちゃんが何を考えているのかはわからないまま。


 ライナー様がお婆ちゃんに連れられて教会の中に入っていくのを見送る。一緒に外に来たアスターおじ様が婆ちゃんに付いて行かなかったのが気になったけど、キカもいるし残ってくれたのかな。

 昨日の話だし、あのヤギのこともお婆ちゃんはライナー様に話すと思う。もしかしたらあれが何なのかも。私には話してくれないのに。仕方ないとはわかってる。でもやっぱりちょっともやもやが残った。

 十四歳ってそんなに子供? 後二年でお婆ちゃんが勇者様たちと旅をしていた年になるのよ? 何なら今の私の年にはお婆ちゃんはすでに聖女として教会の総本山で色々やってたんでしょ? なんで私はダメなのかな。


 あー、やめやめ。考えたって何にも変わんないんだし。いつまでも外に至って仕方ない、教会の中に入ろう。

 馬を繋いだり荷物を下ろしたりしている騎士様たちも疲れているだろうし、早く部屋に案内して休ませてあげるべきだわ。気持ちを切り替えて、なんて言ってもすぐには出来ないけど、動いていればその内なんとかなる、はず!


「皆さま、お部屋に案内しますね」


 キカはキリルとアスターおじ様に任せて、世間話を交えつつ騎士様たちを先導して二階への階段を上がる。皆気のいい人たちなので私にも気さくに返してくれる。ありがたいね。

 多分後でお婆ちゃんに話を聞いたライナー様から伝わると思うけど、ヤギ頭の魔物、魔物? の話を騎士様たちにもしておいた。

 最近どうだって聞かれて話さない方がちょっと不自然だし。とはいえ私は見ただけであれが何なのかわからない。


「おいおい、大丈夫なのか」

「お婆ちゃんたちが確認しに行った時にはもういなかったらしくて、ちょっとわからないんです」

「まぁ俺たちがいるうちは絶対守ってやるし、心配すんなよ」


 皆優しい。前に来ていた騎士様たちは本当に仕事ですって感じの人たちだった。でも今の騎士様たちは皆優しいお兄ちゃんみたいな感じ。

 ちゃんとお礼をしたいけど、大したこともできないし、とりあえず今晩のご飯でおもてなししよう。


 頑張って掃除したお部屋に騎士様たちを案内して、ご飯の時間までゆっくり休んでもらう。

 アスターおじ様が色々食材を持ってきてくれたしご飯自体はいっぱい作れる、と思う。豪華な料理ってどう作ればいいのかわかんないから、私の思う「豪華な感じのする料理」になるけど。

 一息ついてキッチンに降りて行けば、キカたちが揃っていた。まだ夕飯まで時間もあるしこっちに混ぜて貰おうかな。


「おかえり」

「ただいまー、何してるの?」

「特に何も」


 本当に何かやっているわけではないらしい。素っ気ない返事をするキリルに何もしていないならば、夕飯のリクエストを聞いておく。キリルはアスターおじ様の持ってきた甘味の魅力に気付かされたみたいだけど、そればっかりというわけにもいかない。

 お菓子はご飯にはならないのが困りものよね。いっぱい食べて大きくなってほしいし、出来るだけ好きなご飯食べさせてあげたい。


「二人が見た魔物ってどんなのだったの?」

「どんなって……ヤギの頭をした人?」


 あれはヤギだった。頭だけなら完璧なヤギ。でもちゃんと服を着てて手足は人っぽかった。と、思う。頭のインパクトが強すぎて他の所をそんなにまじまじ見てたわけじゃないのであんまり自信ない。

 人っぽいのに人じゃない。キカはすぐに魔物だって判断して矢を放ったらしいけど、そもそも人と人型の魔物の見分け方ってどうやるんだろう。

 こういうのが分かんないところが、才能がないって言われる理由なのかな……。


「明らかに人の気配ではありませんでしたわ。ただ、魔物というには少し異様で」


 キカが困ったようにそう言った。

 やっぱり以下の目から見てもあのヤギは何かおかしかったみたい。


「精霊って本当に人間の味方なの?」


 不意に聞こえたキリルの言葉に空気が固まったのがわかった。

 さすがに、私にもわかる。これはあんまりよくないやつだ。何を言い出すのかと視線を向ければキリルはいたって真剣で。

 何がどうして、いきなり精霊様の話になったんだろう。



「僕が言えたことじゃないけどさ、森に何かが入り込んでいても精霊は教えてくれないんじゃないの?」


 それは、そうかもしれない。もうずっと、長い間あの森にはヴァイオレットが隠れ住んでいる。お婆ちゃんは本当にヴァイオレットを知らない? キリルもしばらくは森の中に隠れていたみたいだし、わかっていて言わないのか、それともヴァイオレットが上手く隠れているのか。

 以前お婆ちゃんが精霊様は、人間の為にいるわけじゃないって言っていた。ただそこにいて見守ってくれる存在なのだと。それってつまり、精霊様は人間を助けない。守りもしない。精霊様は、人間の味方じゃない?

 キリルの言いたいことはわからなくはない。でも、それはいけない。だってここは教会で、私は見習いだけど修道女で、神様と精霊様に仕えていて。


「あんまり滅多なこと言うもんじゃねぇよ」

「そうですわ。今はまだ実感がなくとも、神も精霊も、傍で私たちに寄り添ってくださっているの」

「……わかった」


 アスターおじ様とキカに諫められてキリルが頷いた。その表情はまだ不満げだけど、これ以上何かを言うつもりはない様で。

 なんだか微妙な空気になっちゃった。


 こういう時お婆ちゃんならなんて言うだろう。……あんまり、ちゃんと話してくれないような気もするな。

 確かにお婆ちゃん実は聖女さまで偉い人らしいから、言っちゃダメなこととかもあるんだろうけどさ。もうちょっと言えないなら言えないなりの言い方ってあると思うんだよね。

 大事にはされてきたと思う。危ないことをしたら怒られるし、生きていくのに必要な知識も教えて貰って来た。でも自分の考えや思い出話みたいなのって話してもらってこなかった。


 精霊様にあのヤギ頭の魔物。何なら私のお父さんとお母さんのことも。お婆ちゃんは何にも話してくれない。

 今まではずっと大人になれば教えてくれるかも、とか。知らなくても一緒に暮らしているんだから大丈夫だって思ってた。血なんか繋がってなくても家族みたいなものなんだからって。思ってたんだけどなぁ。

 最近は知りたいことやわかんないことが増えてきた。それに伴ってお婆ちゃんが教えてくれないことも。

 早く大人になりたい。大人になればなんでも出来るようになる。王都にも一人で行ける。自分で解決できるようになる。なんでも、一人で出来る力が欲しいなぁ。


 ため息を吐いてみてもなんともキッチンはなんとも言えない空気を保ったままで。

 多分きっと、アスターおじ様やキカから見ても私やキリルは物事をあまりよく知らない子供のままで。

 あーあ、どうやったら大人になれるのかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ