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25.夏薔薇の剪定

xxx


 遠い、遠い夢を見た。

 今もなお記憶の多く底で輝き続けているあの日々。辛い旅だった。決して最良という結果ではなかった。それでも、楽しかった。彼らとの旅は、かけがえのないものだった。


 彼が、ギルバートが手を差し伸べてくれた。そこから私の旅が始まった。不思議な人だった、優しくて誰かのために怒ったり泣いたり出来る人だった。幼馴染のローザとは兄弟みたいに仲が良くて、ずっと教会で聖女として育って来た私には羨ましかった。

 今ではすっかり可愛げのなくなったアスターも、あの頃は幼くて無茶をしてはブルームハルトに怒られていたっけ。アレックスは、一番最後に合流したのもあって少し遠慮がちだったけど、しっかり者でとても頼もしかった。

 それから、あの人。あの人は誰よりも自由な子だった。貴族令嬢なのに家を飛び出すみたいに旅に付いてきて、色んなものに目を輝かせていた。

 そんなあの人を私たちは……。


 ただ魔王を倒せば、世界が平和になると思っていた。皆もそう言っていた。そのための聖女の力だとしか教えられなかった。

 なのに結果は、同じ夢を見ていた仲間を犠牲にした。


 いつだって昔の夢を見た朝は最悪の気分で目を覚ます。

 どうして今更こんな夢を見たのか。次第に覚醒していく脳を動かして思い出す。

 ああ、そうか。今日はアスターともう一人。ローザの孫が来るからだわ。





エリセ視点


 今日はお客さんが来る。

 王都から随分と離れているのに最近はお客さんが多くて嬉しい。

 もちろんおもてなしの準備は大変だけど、その分色んなお話聞かせてもらえたりするし。


 本当は先月アスターおじ様がお婆ちゃんには話してたらしい。色々あってしばらく黙ってたんだって。酷くない?

 まぁ、早めに聞くと絶対私はそわそわするし、そしたらキリルも変に緊張しそうだしこれで良かったのかも。


 この前どんな人が来るのか教えて貰ったけど、フランシスカ様という貴族の女性らしい。お婆ちゃんやアスターおじ様と一緒に勇者様と旅をしていた人のお孫さんなんだとか。

 なんでも挨拶に来るんだって。どんな方かしら? お婆ちゃんは私が小さい頃にも一度村に来たことがあるらしいわ。私は覚えがないし、ずっと前なのかしらね。

 何日か村に滞在するっていうし、キリルにも手伝ってもらっていつも以上にお掃除を頑張った。今まで村にやってくる人って男の人ばっかりだったんだもん。街に住んでる女の人とも話してみたい!


 まぁ王都はもちろん、一番近くの村でも馬で二日以上かかる距離だと考えたらわざわざ苦労してこんな辺境の田舎村まで来ないよね。何か特別珍しい物があるわけじゃないし、村の人も食べ物以外に買い物をそんなにしないし。

 唯一、村以外の人との交流と言えるのがライナー様と、アスターおじ様。どちらもお仕事でだけど、こんな何もない村に行商であるアスターおじ様が足を運んでくれるのはお婆ちゃんが昔の仲間だからか。ずっとお婆ちゃんと仲良しでいてね、アスターおじ様。


 と、まぁそんなことを考えていたら馬の蹄の音が近付いてきて、嘶きと共に止まった。どうやらアスターおじ様と貴族様が来たらしい。

 換気のために開け放っていた客室の窓から頭を出して覗き込めば見慣れた馬車と見慣れたおじ様がいる。

 丁度外に出ていたお婆ちゃんが迎えたのかアスターおじ様と話をしていて、上から声をかけようかと思って、やめた。見慣れた馬車を見慣れない人が下りているところだった。


 ふわふわのドレスみたいなワンピースに、赤毛の髪が日に透けてピンクにも見えた。お姫様だ。まるで何度も読み返した本の中の登場人物みたい。

 なんだかドキドキする胸を押さえて部屋を飛び出す。急ぎ足で会談を降りて礼拝堂の方へ回る。少し扉を開ければお婆ちゃんたちの声が聞こえた。


「よく来たね、フランシスカ」

「お久しぶりです、聖女ソフィリア。暫くお世話になりますわ」


 にこにこと笑うお姫様みたいな人はすごく綺麗で、こんな綺麗な人が本当にいるんだって思った。

 クレアも綺麗だけど、また違う綺麗さ。なんか全体的にキラキラしてる。お姫様って言うかお貴族様ね。王都には綺麗な人がいっぱいいるんだなぁ。


「手紙にも書きましたが、家は私が継ぐことになりましたの」

「そうかい。苦労も多いだろうが、しっかりおやり」

「ありがとうございます」


 なんか、難しい話をしている。

 キリルは興味がないのかそれとも警戒しているのか部屋にこもりっきりだし、扉越しにどうしようかとこそこそしてたら綺麗な人と目が合った。


「あら」


 綺麗な人が私を見て、笑った。それからゆっくりとこちらへ来る。


「あなたはエリセね。覚えて……は、ないわね。あなたが赤ちゃんの頃に一度だけ会ったことがあるのよ」

「そう、なんですね」


 どうしようかと悩んでいる内に扉が開かれて綺麗な人は私の前へとやってきていた。気まずさに目をそらしたくなるのを我慢して、訳がわからずに返事を返す。

 さすがに赤ちゃんの頃は覚えてないわ。


「フランシスカ様」

「あら、そんなに寂しい呼び方しないで。キカでもパキータでも、もっと親しみを込めて呼んで頂戴な」


 その愛称どっから来たの?


「じゃあ、キカ?」

「ええ、何かしら?」


 すごいにこにこしてる。

 見た目はすっごく綺麗なのになんだか可愛い人だなぁ。


「お部屋の用意が済んでるから、好きな時に休んでね」

「準備してくれたのね、ありがとう」


 多分、普段使っている部屋と比べたらかなり質素だとは思う。

 ……教会にも改修費用の出る補償金ってやつはないのかしら。こんなお姫様みたいな人に、うちのオンボロ教会で泊まってもらうのが申し訳ない。

 ちょっとたじたじしてるのがばれているのか、キカの後ろでアスターおじ様が笑った。


「早めに休めよ? 遠回りした分フランシスカ孃も疲れただろう」

「呼び方」

「はいはい。キカ様」

「仕様のない人」


 呆れた声を出しながらキカは笑っていた。二人がどんな関係なのかはわからないけれど、アスターおじ様は誰が相手でも変わらないみたいだ。

 まぁ、お婆ちゃんたちと一緒に旅をしてた人のお孫さんだしアスターおじ様にとっても孫みたいなものなのかもしれない。


「何かあったのかい?」

「ああ、街道沿いに無人の馬車が転がっててな」

「誰もいなかったの?」

「ええ。荷物はあるのに人だけがいないから、大事を取って少し遠回りをして来ましたの」


 キカに扉の外に連れ出されつつも首を傾げる。変なの。どこ行っちゃったのかな。

 さすがに馬車を置いて忘れ物を取りに、なんてことはないだろうし何があったんだろう? 何かに襲われたのなら荷物も荒らされてるはず。そうじゃないなら本当に何? そもそもこんな田舎の村の近くまで何しに来てたんだろう。

 疑問だらけの私の横でキカが小さくため息を吐いた。


「確かに、少し疲れましたわ。部屋まで案内してくださる?」

「もちろんです」


 荷物を受け取ろうとしたら、キカが手早く自分の荷物をアスターおじ様に押し付けた。そしてそのまま私の手を取って教会の中に入ってしまう。この人優しいけど割と自由なのかもしれない。

 とりあえず礼拝堂を抜けて、居住スペースへ。途中で食堂とかお手洗いの場所も話しながら二階へ進む。


「ここには聖女様と二人で暮らしているの?」

「いえ、もう一人」


 言いかけてから、まだ顔を見せていないキリルのことを思い出す。

 ここに住み始めて一か月。読み書きを教えたりして多少慣れてくれたとは思うんだけど、やっぱりまだ話し始める時に一瞬躊躇っている。完全に仲良くなれるのはもうちょっと先かなぁ。


「先月からここで暮らすようになった男の子がいるんですけど、ちょっと人見知りで」

「あらそうなの。ご挨拶は……無理に押しかけない方がいいわね」


 確かに、いきなり初対面の人が来たらびっくりするかもしれない。

 その辺村の人は皆ぐいぐい来るし。この前少しの間一緒に外に出たけど、皆に囲まれたしね。ちょっとキリルも引いてた。あれは申し訳ないことをしたわ。

 でもキカは良い人そうだし、アスターおじ様も意地悪だけど優しいし。キリルにも仲良くなってほしいな、なんて。まぁキリルのペースが一番大事よね。


 その後、案内した部屋で二人でたくさんおしゃべりをした。王都で流行っていることとか村に来る途中で見た景色の話とかを教えてくれて、私もこの時期の村で採れる野菜とか、森の中になっている木の実の話をして過ごした。

 キカが森に入ってみたいって言いだした時は驚いたけど、お婆ちゃんに聞いてみて大丈夫そうなら明日二人で行ってみよう。奥までいかなければ多分大丈夫よね。


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