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15.子供と幽霊


 村には娯楽が少ない。

 無いと言い切ってもいいくらいには閑散としているし、やることと言えば日々生活の為にあくせく働くくらい。

 正直こんなに娯楽がないのは何かの嫌がらせなんじゃないかと疑いたくなるくらい何もない。


 だから楽しみと言えば定期的に村へ来てくれる行商のアスターおじ様に本を貰って一か月かけて読んだり、裏の森でぶらぶらしたりするくらい。

 散歩してもいいけど、村の中じゃ変わり映えの無いしうろうろするにしても限界がある。それに村の中を目的無く歩いていると色んな人に暇認定されて頼みごとされるのよね。因みに今もそう。


 ちょっと手が離せないからうちの子見ておいてくれる? と言って三歳幼女を預けて村の若奥様は去っていってしまった。

 村では基本的に子供の面倒は年上の子供が見ている。そういう決まりって程でもないし、私もよく彼女、クレアには構って貰ってきたので嫌とは言えない。

 実際暇つぶしで散歩してただけだし、この後の予定は日が傾き始めるまではないので大人しく幼女とのお散歩に勤しんでおく。


 あちらこちらに興味を示し突然走り出す幼女の後を追い、時折すれ違う村の住人に挨拶をする。めちゃくちゃ微笑ましい目で見られたわ。

 そういえば最近こういうのなかったな。前はよくトニオの面倒を頼まれたけど、最近は私もピーターも家のお仕事をばかりしている。

 トニオが多少目を離しても大丈夫になってきたのもあるし、目の前の幼女キャシーがやっと人見知りしなくなって来たのもあるかもしれない。


 後は子供にできる仕事と言えば細かなお手伝いと年下の子の世話くらいって考えが皆の中にあって、そういうお手伝いが減ってちゃんとした仕事を任される様になってきた辺り私もピーターも一人前として認められてきたんじゃないかって思ったりして。

 一人前って言ったって修道女の仕事は毎日のお祈りに、いつでも教会に人を迎えられるように保つこと。それから村の人たちの相談に乗るくらいで、大きく分けるとそんなに大変じゃないように思える。

 まぁ細かい工程を見ると意外に重労働とか、毎日続けるとなると話は別、なんて名前の無い仕事がたくさんあるんだけど。


 炉端で野花を摘んでいるキャシーを眺めながら伸びをする。身長差もあって三歳児とのお散歩は体勢がしんどい。意外と足が速いし中腰で捕まえなきゃいけないしでお腰が痛い。

 温かい日差しに欠伸を一つ噛み殺せば道の向こうからやってきたトニオを連れたピーターと目が合った。

 さっき一人前がどうとか言っていたのに、どうやら彼も私と同じ状況らしい。とりあえず曖昧に笑いかけておく。君もか。


 どちらともなく合流して、なんとなく四人でのんびり立ち話をする。

 ピーターはもちろん、トニオも一か月前怖い目にあったし大丈夫かと心配していた。まぁ本人はこちらの気持ちは知らぬ存ぜぬで今日も元気いっぱい走り回っていたみたいね。その証拠にピーターが若干ぐったりしている。お疲れ様。


「なぁエリセ知ってる? 村にユーレイ出るんだぜ!」


 なんかこの前聞いたなぁ。私が聞いたのは王都に出た話だったはず。それがいつの間にかすごく身近なところにも出てくる様になったらしい。

 得意げに話すトニオには悪いけどどこ情報よ。


「幽霊?」

「そう! 母ちゃんが言ってた!」


 この子たちが知ってるってことは大人たちの間にも広がっているんだろうな。

 村には娯楽が少ないからなのか、皆噂好きだ。ちょっとしたことですぐに村中に広まっていて、知らないのは本人だけなんて間々にある。

 娯楽がなくて退屈してて人のことをあれこれ噂するのに、新しいものや変わったことには拒否反応起こすんだから大人ってやっぱりわかんない。


「ユーレイに見つかったら呪い殺されるんだって」

「ヤダ怖い!」

「大丈夫だって! ユーレイなんかオレがぶっ飛ばしてやるよ!」


 生意気にもパンチの真似をするトニオに苦笑した。こうは言っているけど実際におばけが現れたら泣き出すのが目に見えている。でもそれを言うと拗ねるので七歳男児のプライドを守るためにも我々は生ぬるく微笑むしかできないのだ。

 素直に怖がるキャシーと言い、強がるトニオといいとても子供らしい反応だと思う。もしかして私もちょっと前までこんな感じで見られてたのかしら。


「それにしてもおばけ、ねぇ」

「俺もおばさんたちが話してるのを聞いたけど、エリセも?」

「私はアスターおじ様が王都で幽霊騒ぎがあったって話を聞いただけ」


 どうしてこうなったのやら。大元の話は私がアスターおじ様に聞いた話なんだろうね。いつの間に場所が王都ではなくこの村になっているのが気になる。

 おじ様話好きだしなんかの拍子に話したのが、一人歩きして誰かしらが手を加えた結果おばけの出没箇所がこの村になったってことでいいの?

 おばけの子供もかわいそうにね。こんな何にもない村まで親を探しに来さされて。


「何人か子供の幽霊の姿を見たって話も聞いたね」

「ははは、私もまだ見てないのにまさか」

「それはエリセに才能がないって話じゃなくて?」


 ねぇ、なんでいきなり刺してくるの? 確かに精霊様が見えないし幽霊も見えない可能性がある。でも今それ関係ないじゃん!

 隣の幼馴染を睨みつければからかうように笑われた。今に見てろ。


 とにかく。見つかったら取り殺されるとか、親だけじゃなく親を殺した相手を探してるとか。

 多少の尾鰭が付くのならまだしも、自分も子供のおばけを見たと言い出す人まで出て来ておばけの方が困ってると思うのよ。

 私も普段から夢見てる自覚があるし何とも言えない気分になる。皆本当におばけ見えたの? 見えたなら私にもそういう不可視のものを見る力を分けてほしい。


 元々村にもおばけが出るって話はあったけど、いい子にしないとおばけが来るぞって子供に言い聞かせるもので私も散々アスターおじ様に怖がらせられた覚えがある。

 ある程度大きくなるとすぐ嘘だってわかる言い聞かせなのに、なんで皆この噂は信じてるんだろう?


 というか王都の幽霊がこんな田舎の村まで来るの? 何しに?

 本当にご両親を探してさ迷っているにしても、さすがにこの村までは来ないでしょうよ。何にもないし小さい村だし他所から来たってだけで受け入れてもらうまでに苦労するし、よっぽどじゃない限りこんなところまで来ないと思う。

 ……あんまり言っちゃうと私がいつも言ってる王子様や勇者様もこの村に来なくなるかもしれないのでほどほどにしておくわ。

 ほら! 王子様と勇者様はまだだけど、騎士様は来てくれたし! まだチャンスはあるわ!


 それは置いておいて、皆村の外から来る人に対してちょっと警戒し過ぎじゃない?

 悪いものは皆外からやってくるって考え方はどうして生まれたのかな。

 別にこの村が嫌いなわけじゃないけど、そういうことを考えだすとやっぱり早く村を出て色んな街を見て回りたくなる。


「おばけやだ。キャシーのところにも来る?」

「うん? キャシーがいい子にしてたら来ないよ」


 強張った顔で聞いてくるキャシーにそう返せば途端に安心した顔をする。

 まぁ、多分きっと皆本気で信じているわけじゃない。ただ娯楽がないし、暇つぶしに噂を広げて楽しんでるだけ。ある意味平和よね。


 誰かが悲しい思いをするのは嫌だけど、たまには何かちょっとした事件が起きてくれないかなって思う。

 こういうところが不謹慎で不信心な私のダメなところ。自覚はあるけど治りそうもない。これ直したら王子様や勇者様が現れてくれるかしら。

 何やらピーターにちょっかいをかけてやり返されているトニオを眺めていたら道の向こうからクレアに声をかけられた。


「助かったわ、ありがとうエリセ」

「いいよ、暇だったし」


 用事が終わったらしいクレアにキャシーを引き渡せば、そのままお礼のクッキーを渡される。昔からお菓子作るの好きだったもんね。私もピーターもよく貰ったわ。

 有難く受け取れば何やら懐かしいもを見る目を向けられた。


「アンタたちもこんなにちっちゃかったのにねぇ」

「エリセとピーターもちっちゃかったの?」

「そうよ? キャシーくらいちっちゃかったの」

「いつの話だよクレア」


 皆すぐちっちゃい頃の話しとか大きくなったなとか言うのなんなのよ。毎日会ってるのにそんなに変わるもの?

 呆れたように言い返すピーターに同意すればクレアが「その内わかるようになるわ」なんて言って綺麗に笑った。

 その内っていつよ。


 綺麗な人だとは思ってたけど、ここ何年かでもっと綺麗になったなぁ。やっぱり結婚して、キャシーが生まれたから?

 今のところそんな相手がいないしよくわからない。素敵だなって思う人はいるけど。

 私もいつかこんな風に好きな人の隣で綺麗に笑えたらいいな、なんて。




「────。」



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