13.一か月
掃除が終わった。この後何しよう。
最初は精霊様の森に行くのも考えたけど、今日はアスターおじ様が村に来ているのを思い出して勝手口じゃなく、礼拝堂の方から出る。
森にはいつでも行けるしアスターおじ様のところに遊びに行こう。なにか面白いお話を聞けるかもしれないし。
小さくて本当に何にもない村だから、皆娯楽に飢えている。
かといって一か月前の一件みたいなのは皆求めてないのはわかってるけど。
一ヵ月。もう一ヵ月も経ったのか。
皆あの日羊が襲われた時のことを意識して話さないようにしている。いつもは噂好きで、何かあれば一瞬で村中に話が広がってるくらいなのに、何もなかったみたいに振舞ってるのはやっぱり村の皆にとっても牧場が襲われたのは衝撃的だったんだろうな。
まぁ、一カ月経てばそわそわしていた人たちもすっかり落ち着きを取り戻し始めたわね。
ピーターの家の牧場もアスターおじ様が色々手を回してくれて、今では新しい羊たちがのんびりと散歩中だ。
頭突きで転がされなくなったのは、なんというか変な感じがする。あの日村が魔物に襲われたのがまるで夢だったみたいに皆いつも通りの日常を送っている。
でも夢じゃないから時々大人が集まって村の周りにちゃんとした柵や塀を作るか話し合っていて。でも変わったのは本当にそれだけ。
「こんにちは、アスターおじ様。お仕事は終わった?」
「おう。元気にしてたか」
羊たち同様お散歩気分で歩いていたら、丁度ピーターの家から出てくるアスターおじ様に会えた。
今月は牧場に新しい羊を連れてきてくれたり、頻繁に来てくれていたし久しぶりって感じもない。
そう言えばライナー様の言っていた補償金って言うのはどうなったのかな。時間はかかるかもしれないが必ずって言ってくれたし、申請って言うのが大変らしいけどうまくいくと良いな。次に来る頃にはどうなったか教えて貰えるかしら?
「牧場、大丈夫そうかな?」
「子供が心配すんじゃねぇよ」
伸びてきた大きな手が私の髪の毛をぐしゃぐしゃにして離れていった。それやめてっていつも言ってるのに。
お婆ちゃんは気にした様子もなかったけど、あの後ロバートおじ様は自分が言ったことをすごく気に病んでいたしちょっと心配。
「そんなに人のことばかり気にしてると幽霊が寄ってくるぜ?」
「私を怖がらせて遊ぼうとしてるでしょ?」
もうおばけで怖がるほど子供じゃないわ。
小さい頃はよくそれでおじ様に意地悪されたけど、今じゃ大人の言うおばけの話は子供に言い聞かせるための脅し文句だってわかってるんですからね!
睨み上げる様にアスターおじ様を見ればなんだか楽しそうに笑ってる。遊ばれてるわね。
「最近王都の方で幽霊騒ぎがあったらしくてな。親を探して子供の霊が彷徨ってるんだと」
「王都で流行ってるものは知りたいけどおばけの話は求めてないの」
「そいつは失礼」
なんでそんな話するかな。確かにいつも王都のお話をせがんでいるわよ? でも話してくれる内容に偏りがある気がするのは私だけ?
本当におばけの子供がいるなら可哀そうとは思う。そうは言っても私は何もできないし近くにいたって見えない。……、いや、わかんないですし! もしかしたらおばけなら見えるかもですし!?
精霊が見えないからっておばけが見えないとも限らないもの!
そもそも噂の子供がおばけじゃなくてゴーストだったら私にも見えるはずよ。
幽霊とゴーストの違いは結構わかりやすくて、幽霊は実体がなくて適性がないと見えない。対するゴーストは低級魔族でおばけみたいな見た目のくせに実態がある。
だからたくさんの人が見たって噂があるなら、幽霊よりもゴーストである可能性を疑った方がいい。そう私に教えてくれたのはアスターおじ様じゃない。
昔お婆ちゃんや勇者様と一緒に旅をしていた時に、ゴーストの大群と戦った話をしてくれたのを私は忘れてないわよ。
あとゴーストと言えば埃っぽいところとかじめじめしているところに発生しやすいってお婆ちゃんが言ってた。それ聞いた時、キノコやカビの類かしらって思ったのよね。
低級魔族と菌類の対処方法が同じってなんだかおもしろい。掃除や整頓が行き届いているところには現れないし、不潔なところには低級魔族や菌だって繁殖する。
ちゃんと掃除しないと病気にもなりやすいし、昔は病気をすると魔族の仕業だなんて言ったりもしたんだとか。
だから教会ではカビやゴーストが湧かないようにお掃除しましょうねって教えてる。
まぁそう教えているうちの教会の方がボロイし虫は多くておばけ出そうなんだけどね。
やっぱり虫が出るのは裏に森があるからかな。燃やせばいいの? 罰当たり? 口に出さなきゃノーカンノーカン。言わなきゃ思ってないのとほぼ同義。
今まで散々罰当たりなこと考えてきたけど、何かあったのって一か月前の一件くらいだし。
まあ、それが大きめの事件だったので悔い改めろって話なのよね。信仰心ってどうすれば培えるんだろう。
後、森を焼くと隠れ住んでいるヴァイオレットが路頭に迷うか。
そういえばヴァイオレットは何で森で暮らしてるんだろう。
まぁ頭の上に犬の耳があれば人里で暮らしにも苦労があるんでしょうね。特に何をするでもなく、時々話をしに来るだけで静かに暮らしているし悪い奴じゃないとは思う。いや、めちゃくちゃからかってくるわね。すでに実害が出てたわ。
なんか話が大幅にそれた気がするけどまぁいいや。
問題はおばけと精霊の方が違いは曖昧だってことの方なのよ。違いが曖昧、イコール見るには同じような才能を必要なんじゃないかと思うの。
つまり、精霊が見えない私はおばけを見る才能もないかもしれない。それって私的には結構大きめの問題よね。
先月目の前にいたらしいのに姿どころか声も聞こえなかった私は精霊を見る才能がとても低い。わずかな希望にかけて全くないとは言わないでおくわ。
ただ逆説的に考えればおばけが見えれば、ワンチャン精霊が見える様になるかもしれない。そうすればいずれ私にも不思議な力が宿ってスーパーパーフェクトウルトラエリセちゃんになれる! はず!
「変わったことはないか?」
決意を新たに意気込んでいる私を他所にアスターおじ様は商売道具を詰め込んだ荷馬車を教会に続く道へ進めながらこちらを見た。お馬さん用の餌、後で貰ってこようかな。
それにしても、おじ様もなんで毎回なんて返ってくるかわかり切っていることを聞くのかな。
「全然。退屈過ぎてお昼寝しちゃいそう」
「はは、そいつぁ良いじゃねぇか」
何にも良くないわ。毎日毎日同じことの繰り返し。娯楽と言えば村の住人同士で完結する噂話くらい。
皆退屈してるわりに村の外から来た人に対して警戒心が高くって、ちょっと新しいことを始めようとすれば寄ってたかって変なことはやめてって言われるし。
暇つぶしと言えば村の中のお散歩と、村の人には邪魔されない森の中の散歩くらい。尚、森の中を不法占拠してる犬耳の女には邪魔される模様。
「今日も教会に泊っていくよね?」
「そうさせてもらう。一人で飯食うのも味気ねぇからな」
小さな村だし宿屋はないし村に人が来た時は大体教会に泊っていく。
まぁ、アスターおじ様はお婆ちゃんの昔からの知り合いだし、来たら二人で遅くまでお酒を飲んで話している。
小さい頃はそれがうらやましくて自分も夜更かしするって駄々をこねたりしたけど、二人にしかわからない話ばっかりするからいつの間にかわがままも言わなくなってしまった。大人ってすぐ自分たちだけで話する。
後、夜更かしすると朝起きるのが辛くなるってわかったのも大きい。アスターおじ様なんてお酒飲んだ翌日は昼近くになってようやく起きてくるし。
「肉と酒持ってきた」
「ありがとう。お酒は先に礼拝堂の方に供えるね」
夜には下げられちゃうだろうけど神様に捧げておこうね。
アスターおじ様はよくご寄進として色々持ってきてくれる。でも教会には私とお婆ちゃんしかいないので大体アスターおじ様がいる時に出すようにしている。食べきれなくて腐らしちゃうと勿体ないし。
そんなことを話しながら教会に帰ってくればお婆ちゃんがどこかへ出かけるところだった。誰かと話す予定あったのかな。
「おや、帰って来たかい」
「お出かけ?」
「ああ。村長のところにね」
「適当に寛いどくぞ」
「好きにおし」
これが付き合いの長さってやつなのか。いつものことだけどおじ様は教会で自由に過ごしてるしお婆ちゃんも好きにさせてる。
一緒に旅をしたらこんなに気安くなるものなのかもしれない。
「そうだ。あんた指輪なんか持ってかい?」
「何そのおしゃれアイテム」
「わかんないならいいよ」
持ってない。いつかそういうのを送ってくれる人に会いたいとは思うけど、今のところ村に候補者がいないので王都まで探しに行かないといけない。
はぁ、本当にどこかにイケメン落ちてないかなぁ。




