12.いつもと少し違う朝
空が、とても眩しい。
村に魔物が来たとしても夜は来て日は昇る。
目が覚めればいつも通り朝のお勤めをして、お婆ちゃんは何事もなかったように精霊様の森に行ったし私も朝ごはんを作る。
昨日は散々怒られた。
お婆ちゃんはもちろんライナー様や騎士様たちまで危ないことはダメって。
確かに魔物が来ているのに教会から出たのは私が悪いけどさ、今にも飛び出しそうなピーターを押し留めたのは褒めて欲しかった。
ピーターが行くよりは私が行った方がいいってあの時は思ったし、多分間違えてなかったと思うのよ。あの時のピーターはすごく無茶しそうだったし。
まぁうだうだ言ってもお説教されたのは変わらないし、ご飯食べて寝て起きたてまで引き摺る質ではないし、いつもの様に裏の井戸水を汲んで水瓶に入れる。不満があるとするなら朝一の重労働が面倒なくらい。
王都に広がりだした生活水の整備が村に来るまでどれくらい時間がかかるかな。私が王都に行った方が絶対に早い気がするわ。
今日の朝ご飯はどうしよう。
申し訳ないけどパンとスープは昨日と同じにして、代わりに小さめのオムレツとウインナーでいいか。後ハムも付けちゃう。
色々あったしこれを使ったら、しばらくは肉断ちになるわね。いくら保存が効くように加工してあるって言っても限度があるし、腐らすよりはずっといいので使っちゃおう。
ごそごそとお鍋を用意して火にかける。沸騰したお鍋に野菜を入れていたら廊下側の扉が開いた。
昨日と同じように身支度を済ませたライナー様がこちらを見ている。
「おはよう」
「おはようございます。ライナー様」
なんか変な感じ。
いつもは誰かが来ていても一泊だし、二日連続でお婆ちゃんやアスターおじ様以外の人たちと食卓を囲むのはちょっとそわそわする。
浮ついた感じを振り払うように、フライパンにハムとウインナーをすれば、パチパチと油が跳ねる。その音を聞きながらスープの味付けをしていく。昨日も何にも考えずに出してたけど、口に合ってただろうか。
男の人はちょっと濃い味付けの方が好きって村の奥様方も言ってた。
「何か手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、すぐに準備しますね」
ハムとウインナーをフライパンからお皿に移せば、そのお皿がテーブルへと奪われていく。
座っていて下さって構わないのに。
「二日も世話になったからな、これくらいは」
イケメンは気遣いも出来る。
お婆ちゃんと二人暮らしだし基本的に細々した用事は私の仕事。ただこういう声をかけてくれるのは嬉しいね。やっぱりこういう気遣いが出来る人がモテるんだろうなぁ。
「洗い物も言ってくれればやるよ」
「それはさすがに……」
「水ってこれでいい?」
「あ、はい」
お客様にそこまでしてもらうわけにはと断りはするものの、いつの間にかライナー様は食器棚のコップを出して人数分の水を注いでいる。
どう言って止めればいいかもわからず、とりあえずお婆ちゃんが帰って来るまでに終わらせておきたい洗い物へ取り掛かる。
後回しにすると本当にライナー様は本当に洗い物もしちゃいそうだし。さすがにそれは申し訳ないもの。
「家事、慣れてらっしゃるんですか?」
「うん? まぁ野営の時も自分で皿は洗うかな」
いつの間にか隣に来ていたライナーが洗い終わったフライパンや菜箸を手際よく濯いでくれる。
働き者だなぁ。私とは正反対。いや、一応動きはするわよ? でも私はやりたくないことはいつだって心の中でぶちぶち言ってるし、割と不敬なことも考えてる。
動かないと村の中では怠け者の烙印を押されるからやってるだけっていうか。
「言いたくないのなら答えなくていいんだが」
急にライナー様が前置きみたいなに言った。
こういう時、決まって同じ質問をされる。そんなに気になるかな? 確かに珍しいかもしれないけど、全くないわけじゃないのに。
「ご両親について聞いてもいいか?」
「うーん、私もよく知らないんですよ。赤ちゃんの時にお婆ちゃんに預けられたらしくって」
「つまり、村の生まれではない、と」
「そうみたいです」
親の顔なんて知らない。
何かしらの事情があったのかもしれないし、別に何もないのかもしれない。お婆ちゃんは色々教えてくれたし、ちゃんと育ててもらったので今の暮らしについて不満もない。問題なく過ごしているわ。
まぁ、両親については生きていればどっかで会うでしょうって思ってる。
ライナーが何かを考える様に黙った。
両親の話になると皆黙っちゃうから困る。別に私は気にしてもないのに。
「それよりライナー様のことを教えてくださいよ。王都の話とか」
こういう返しは想定外だったのかライナー様が困ったように眉を寄せて笑った。
その後は王都で流行っているものとか私と年の近い妹さんの好きな物の話をたくさんしてくれた。
後は私がせがんだ、わざわざ井戸まで水を汲みに行かなくてもいい設備の話しとか。騎士の仕事で色んな土地に行った話なんかも聞かせてくれて。
やっぱり王都っていいなぁ。そんなにいいものじゃないってライナー様は言うけど、私からすればどれも楽しそうだし憧れる。
田舎と比べて見えるものや、やれることが多いはず。きっと王都に行けば私ももっと色んなことが出来る様になると思うの。
「すごいなぁ、私もいつか王都に行きたくって」
「そうなのか?」
「どうしてって……この村何にもないし」
素敵な人に出会って王都に行ってきらきらした日々を過ごしたい。
村の皆は普通が一番、なんていうけど、素敵なことが多い方が楽しいでしょう。
子供っぽいって思われるかもしれない。でもそう思うのだから仕方ないじゃない。
「俺からすればこの村もいいところだとは思うよ」
もちろん昨日のようなことがなければと付け加えて困ったように笑った。
それはそう。あんなの何回も起こったら困るもの。
「何もないっていうけど精霊の森があるだろう?」
「うーん、でも私は精霊様は見えないし。あ、精霊様ってどんな方でしたか?」
「そうだなぁ……綺麗な人だったよ」
そうなんだ。聖書に容姿の美醜の描写は少ないけど、宗教画だと皆美男美女に描かれてるし綺麗な人が多い。
あれは誇張表現じゃなかったんだ。神様も精霊様も美男美女しかいないから絶対大げさにしてるって思ってた。
「森の中を散歩されてるならもしかして私もすれ違ったりしてたのかな」
「あったかもしれないなぁ」
昨日も思ったけどもしそうならヴァイオレットと言い合ってるのも見られてたかもしれないってこと? それはちょっと恥ずかしい。
聖女になれるとは思ってないけど、もうちょっと清純なイメージで売り出したかった……。
「エリセは精霊様についてどう思う?」
「どう、と言われましても教会の教え以上のことは……」
なんかいつも見守ってくれているらしいって認識しかない。お婆ちゃんは色々教えてくれたはずなのにね。
神様も精霊様も私たちのためにはいない。
一日経ってお婆ちゃんの言葉を反芻する。ちょくちょく欲にまみれた願いを言っても叶わなかったし、不信心な考えしてても罰されなかったし案外お婆ちゃんの言う通りなのかもしれない。
「あ、でも案外精霊様も楽しいことを探してるのかもしれませんよ?」
散歩したりするくらいだし。
なんて付け加えたら一瞬呆気にとられたような表情の後、ライナーが笑いだす。
え、そんなに変なこと言った? この村に特別な娯楽なんてないし、森の中だって景色は変わらないんだから退屈してるかもしれない。
洗い物が終わる頃になるとぎぃぎぃと古くなった廊下を歩く音が聞こえて、騎士様たちが起きてきたのが分かる。
ライナー様たちはご飯を食べて準備をしたら王都の方に帰るらしい。本当は昨日帰るはずだったんだけど一日延びた結果が今だ。
村を出るまでにはまだ時間はあるだろうし、お昼用にサンドイッチも作ろうかな。
さすがにバスケットに入れるのは邪魔になるだろうし小分けにしてそれぞれに渡す感じにしよう。
扉を開けて入ってきた騎士様たちに挨拶をして食卓へ促す。明日からまたお婆ちゃんと二人なのかと思うとちょっと寂しいけど、お仕事なら仕方ないね。
昨日は掃除もできていないし、洗濯もしよう。
お婆ちゃんが返ってきたら朝ご飯だ。今日も一日が始まる。
読んでいただきありがとうございました!
一部完結です。
一週間ほど休んだらんだらまた、二部として更新再開していく予定です。
評価や、ブックマークの登録をしていただけると、執筆の励みになりますので、よろしくお願いします!




