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見習い修道女エリセちゃんは現実が見えない  作者: ささかま 02
田舎娘は王子様を夢見てる
11/93

11.剣と魔物

ライナー視点


 木々に囲まれた森を抜けて昨日と同じように裏口から教会に入る。

 王都にある自宅ではないが、帰ってきたと考えると少しだけ肩の荷が下りる。まぁ、まだ考えるべきことも多いのだが。

 しかし休める時にしっかりと休むべきだし、直近の脅威は去ったとして一度部下たちを解散させるか。最も、俺にはもう少し仕事が残っているがな。聖女に森でのことを報告しなければ。

 エリセもそわそわしていたし、牧場主の息子が気になるんだろう。年も近いようだし仲がいいのかもしれない。


 教会にいた聖女に声をかけ牧場主と商人の男、アスターと言ったかに立ち合いの元、説明する。

 羊に残っていた爪痕から恐らく牧場を襲ったのはこの魔物で間違いないこと。群れではなく、一個体で行動していたことを話せばやっと一区切りだ。

 あまり気のいいものではないが牧場主に裏口の傍に置かせてもらっていた魔物の死体を詰めた袋を検めてもらい、普段からこういった魔物を見ていないかを確認する。回答は予想道理否だったのだが。


 牧場主とは別れて次に案内されたのは昨日と同じ応接だった。掃除はされているがところどころ傷んでいる辺りこの教会の年季を感じさせられる。

 応接室には聖女と商人の男。どういう関係かまでは計り知れないが、懇意にしているのだろう。


「魔物の討伐、ご苦労様でした」

「いえ、元はと言えば自分が呼び込んだようなものですから」


 労いの言葉に頭を下げる。

 実際、欲を出して欲を出して追いかけた結果、村に被害を出してしまった。減給で済めばいいが、最悪首が飛んだっておかしくはない。しかしそれはこの村の住人には関係のないな。


「お伺いしたいのですが」


 だからせめても。というわけではないが、少しでも他に持って帰れるものを作りたい。

 所謂点数稼ぎってやつだ。いつの間にかこういうことをするようになってしまった自分に呆れもする。


「姿形を変える魔物についてご存じですか?」

「不定形、ということですか?」

「あの魔物は自分が森に追い詰めた時と姿が違っていました」


 続けて出した俺の言葉に聖女がふむと考え込んだ。

 あの魔物は何だったのか。街道で遭遇した魔物とは別の種類の様で、しかし自分が付けたのと同じ位置に傷があった。違う見た目のはずなのに同一個体の様に感じる。ありえないはずなのに。

 それに執拗に自分を狙っていた辺り、姿形が変わっても切られた恨みは残っていたのか。わからないことだらけだが、とにかく。あの獣の牙がエリセに向かわなくてよかった。


「聖女ソフィリア様はかつて魔王討伐の旅に出ていましたが、このような事象に覚えはありますか?」

「どうだろうね、自発的に姿形を変えるのは虫ぐらいのはずだよ」

「自発的にはない、では外的要因では?」


 稀に形を変える魔物もいるらしいが、そのほとんどが昆虫に近い性質を持つ魔物であの魔物はそれに類さない。どちらかと言えば哺乳類、狼の性質を持った魔物だった。

 自発的に変化しないのであれば、考えられるのは外的要因。

 迷いの森、別名精霊の森に足を踏み込んだことで何かしら魔物の進退に影響があったとは考えられないか。


 沈黙の間に耐え兼ねて壁に掛けられた時計の秒針が小さく声を上げている。

 もしこの考えが少しでも真実に掠っているのなら、あの森に何があるのか、精霊は何を考えているのかという、俺が国に調べて来いと言われた問題に帰結する。


「様子を見てもう一日、泊まらせてもらえないでしょうか」

「構いませんよ」

「それともう一つ」


 魔物は倒した。倒したが、その直前に遠吠えが気になる。

 仲間を呼んでいた可能性もある以上一晩様子を見た方がいいかもしれな。


「あの森と精霊についてお伺いしても?」


 あれは何だったのか。

 人の形をした人ならざる者。通じているようで通じていない言葉。

 精霊とは、一体何なのか。


「エリセは、よくあの森に通っていると聞きましたが、彼女と精霊の関係は」

「語る必要のないことです」


 自分が若さ故に軽んじられているわけではなさそうだが、本当に語る必要がないと感じているようだ。

 前任にも報告していないところを見るに徹底しているな。


「精霊に、エリセと同じ加護を与えたと言われました」


 聖女の表情が固まったように見えた気がした。

 気がしただけかもしれないが。


「聞いてねえぞ」

「言ってないからね」


 アスター殿と聖女ソフィリア様じゃ随分と親しいようだが、いや、やめておこう。変に勘ぐって気を損ねる方がまずい。

 とにかく今は、聖女は隠し事が多いと俺以外の前で露見しただけで十分だ。恐らく国にも報告していないことがいくつもあるのだろう。国にどころか、教会の方にも。それは何を思ってなのか。


 果たしてエリセに何があると言うのか。

 恐らく本人に自覚はない。精霊を見る才能もないと言っていたが、見えない以上いつ精霊に加護を与えられたのかも定かではない。

 ソフィリア様はエリセと精霊の関係を黙認しているような口ぶりだったが、一体俺も彼女も何を与えられたのやら。


 そんなことを頭の中に巡らせていると慌ただしく扉を開く音が聞こえた。

 応接室の扉が開けられたわけではないが、誰かが教会を訪ねてきたようだ。

 教会にはおよそ似つかわしくない慌ただしい足音に顔を見合わせ応接室を出れば、何人かが転がり込むように駆け込んできているところで。


「聖女様! 魔物が出たの!」


 ああ、やはり仲間を呼んでいたか。随分と早い。いや、日が落ちる前で良かったのか。

 幸い装備を解く暇もなくソフィリア様たちと話し込んでいたのでこのまま応戦できる。

 騒ぎを聞いて部下たちも魔物が出たらしい方へ向かっているだろう。


「皆、礼拝堂にいなさい。魔物は聖なるものを苦手とするからね」


 聖女が集まって来た村人たちにそう告げるとしっかりとした足取りで教会の外へと向かう。

 教会に来ていたのは女子供ばかりだった。恐らく男たちが優先して逃がせたのだろう。家の中ではなく教会へ越させたということは、数が多いのかもしれない。


 然程多くもない村人がかけてくるのを迎え入れれば、少し離れたところから獣の声が聞こえた。遠吠えよりも威嚇の咆哮だな。

 丘を降りる様に村の入り口の方へ向かう途中、エリセと少年とすれ違う。友人だろうか、手を取り合ってここまで来たみたいだが、不安もあるだろう。早く事態の収束に努めないと。


「お婆ちゃん!」

「礼拝堂を頼んだよ」

「わかった」


 頷いたエリセを背に進んでいく。村の入り口に比較的近い広場に人が集まっているのが見えた。

 そこに入り混じって狼の群れ。村に来る途中で追いかけた魔物と同じ種類だ。一族郎党といったところか? 牙と爪もそうだが、脚力が強いのが厄介だな。

 やはりあの二足歩行になった魔物と関係があったのか。何故姿形が変わったのかわからない。


 村の男たちが農耕具を手に狼を威嚇しているのに分け入って剣を抜く。

 村の住人には逃げ遅れた住人の誘導に当たってもらいたいのだが、魔物の方も随分と数を揃えてきたな。各々に休んでいた部下たちも集まってきて応戦を始める。


 村の中に入り込まれているがこれ以上奥にはいかせたくない。

 剣を握る俺と同じようにアスター殿は銃を構え、聖女が祝詞を唱える。かつて魔王を倒す旅に同行していたと言うが、聖女の力というのは如何なるものか。などと考える間もなく、光が降り注ぎ一掃とまでは今ないまでもかなりの数の魔物が減った。

 魔物は聖なる力に弱いと言うが、ここまでとは。


 しかし今は感心している場合ではない。魔物の数が減ったおかげで段々と攻撃をいなせるようになり、隙をみて数体切り捨てた。部下たちも応戦しているが何分数が多い。

 部下の脇を抜けた魔物を追うように村の奥へ駆ける。さすがに二度は取りこぼせない。


 ああ、なんでこうなるかな。魔物が抜けた先には教会に行ったはずのエリセと住人らしき親子がいる。

 大方親子が逃げ遅れたのに気が付いて迎えに来たのだろう。無鉄砲なのか怖いもの知らずなのか。とにかく怪我をさせるわけにはいかない。

 今にもエリセたちに飛び掛からんとする魔物の胴を切り払い、遠くに行くように蹴り飛ばす。


「何故出てきた!」


 冷静に諭したいとは思うが、どうしても語気が強くなる。

 跳ねた小さな肩に、この子は怒鳴られ慣れていないのかと関係のないことが浮かんだ。まぁ、慣れていられても困るが。

 それにしたって蚊の鳴くような声で謝られては、こっちが酷いことをしている気分になってしまう。


「危ないことはしないでくれ」


 何かしたい気持ちはわからなくもないが謝るなら最初から安全なところにいてほしい。

 安心させるように撫でてやればエリセの表情が緩んだのを見て、実家の妹を思い出した。

 自分でもシスコンの気があるのはわかっている。しかし年の離れた妹だ。つい可愛がりたくなる。

 それと同時に、妹と同じ年頃の娘さんには危ないことをしないでほしいとも思うのだ。


 教会に向けて走り出した少女と親子を見送って、呼吸を整える。少し離れたところで光が見えた。

 魔物を滅ぼすあれを、人は聖なる光と呼ぶのかもしれない。人々を守るために降らす聖女の光と、日々の糧を得るために爪を振るう魔物なら。食い詰めないように騎士になった俺は魔物側だな、なんて。

 何の足しにも考えた頭を振るって意識を切り替える。村に残る魔物もあと少しだ。


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