2.貧乏令嬢
突然だが、サフィアの家は貧乏である。お金が無い。
王国創立時より続く、由緒正しき伯爵家ではあるが金は無い。
代々引き継がれてきた屋敷はそれなりの広さがあるが、屋根や壁紙は所々ボロボロ剥がれており、大雨が降れば雨漏りをする。カーテンやソファは何度も修繕した跡があり、サフィアの着ている質素なワンピースもつぎはぎだらけだ。
本来貴族であれば屋敷の庭は、庭師によって美しい花や植木で見栄え良く手入れされているものだが、この屋敷の庭は畑となっていて、美しく揃った畝に様々な種類の野菜がすくすくと育っている。倹約のための自給自足だ。
サフィアと同年代の令嬢たちは美しいドレスと宝飾で己を着飾り社交界へと繰り出し、より良い家へ嫁ぐことを画策している。しかしながらサフィアにとって大事なことは、いかに家計の支出を減らして暮らせるかだった。
そして何より、この屋敷には使用人が一人もいない。
それもこれも全部、お金が無いから。
領主である両親は、領地のあちらこちらへ直接赴いては領民たちと共に土地の開墾と農産物の流通に精を出しているため殆ど屋敷には帰ってこない。
一人娘に苦労を掛けていることに心を痛めているが、働くことをやめてしまったらいよいよ家が無くなってしまうので断腸の思いで家を空けている。サフィアもそれを十分分かっているし、寧ろ社交会の面倒ないざこざから離れることが出来てラッキー、とかなりポジティブに思っていた。
屋敷を守るのは、サフィアの仕事だ。
幸いなことに領民たちは皆領主一家を好いてくれている。
それに「サフィアが水やりした畑は向こう三年豊作になる」という謎の噂が領地の中でひっそりと広まっているため、その恩恵にあやかろうと、もしくは実際にその恩恵を受けたお礼にと市場に卸す前の新鮮な肉や魚をサフィアの元へ分けて持ってきてくれたりする領民が沢山いて、サフィアの日常は中々に賑やかだった。
しかし、屋敷の中にサフィア以外の人が常にいるのは久しぶりのことだ。
ベッドで眠る怪我人は、見たこともない珍しい容姿をしている。
一体どんな声で、どんな風に話すのだろう。瞳はどんな色なんだろう。
早く元気になって、目を覚ましてほしい。
そうしたら色々話をしたい。
そんな願いを込めて、サフィアは濡らした綺麗なタオルで怪我人の顔や身体を優しく拭いた。
閉ざされたその瞳が開いたのは、サフィアの屋敷に運び込まれて丸一日経ってからだった。




