追放された悪役令嬢はダンジョンに引きこもる
ゆるっとふわっと書きたいところだけ
拝啓、天国のお母様。
そちらではいかがお過ごしでしょうか?
私はといえば、つい先日婚約者であった第2王子様から謂れのない罪で断罪されたかと思うと、あれよあれよというまに国を追放されました。
そこまで書いたところで、ダンジョンマスターとしての私の感覚が侵入者の気配を捉える。
……どうやら、悠長に届かない手紙を綴っている暇はないようですわね。
やれやれと首を左右に振り、まずは紅茶を一口。
「総員、迎撃体勢ー!」
胸に埋まった蒼い石に触れて叫べば──本当は特に叫ぶ必要はないのですけれど、なんだかその方が素敵だと思うの──1層目の各種トラップが起動し、歓迎の準備を始める。
落とし穴やトラバサミ、鉄球落としに対象を迷わせる為の動く壁。それらを掻い潜り、毒沼を泳いだ先に待つのが、数々のモンスターだ。
「さあ、今日のお客様はどなた?いつも通り冒険者や城の兵士達?それとも、陛下に命じられた騎士様かしら」
玉座──お値段5000DP也──に腰掛け様子を窺ってみれば、見知った格好の兵士達に紛れて、なんとへっぴり腰の元婚約者様の姿があるではないか。
「あらまぁ。第2王子自らダンジョンに?ふふ、何か手柄を立てなければいけない程追い詰められていらっしゃるのかしら」
公爵令嬢である私を勝手に国外追放した挙げ句、平民上がりの男爵令嬢と結婚するなどという行いは、どうやら許されなかったらしい。
見事に全ての罠に引っ掛かっている第2王子は、それでも王族を守護する精霊の力かしぶとくも生き残っているのだが……さてどうしたものか。
「私はそう簡単に攻略される女ではありませんわよ。それでも……もしこのダンジョンの最奥に眠る宝が私だと知ったら、貴方はどんな顔をなさるのかしら?」
ダンジョンマスターは、ダンジョンさえ無事なら不老不死だ。DPさえあれば食事に困ることもなく、ふかふかのベッドも優雅なティータイムも手に入る。
そして、このダンジョンの宝は胸のダンジョンコアを砕かれ──人間に戻った私だ。尤も、あっさり戻れるかどうかは知らない。
……王族の婚約者だった女ですのよ?仮に死体だとしても最高級の宝でしょう?
「さあ、モンスターもトラップもギミックもまだまだありますのよ。たっぷりご堪能なさいませ!」
拝啓、天国のお母様。
そちらではいかがお過ごしでしょうか?
私はといえば、ひょんなことからダンジョンマスターになりましたので、せっかくですので存分に引きこもり生活を謳歌するつもりです。
実は、第二王子は主人公の捜索を命じられているとかなんとか