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7.談話室とアザレアの私室

 サブリナとキーラが退室し、ルークスとブラントは向かい合って座り直した。


「サブリナ様、凄く美人で落ち着いた方ですね。噂と大違いだ」


 ブラントはラッセル子爵の三男で神殿所属の聖騎士だ。親戚がフローレスにいて、サブリナと同じ学園に通う同世代の子息がいる。彼から聖母のようなカレンと悪女のサブリナの話を聞いていた。カレンをいじめ、自分が筆頭聖女にふさわしいと傍若無人に振る舞い、授業にまともに出ないくせに試験では高得点を出す。きっと教師に賄賂でも渡しているんだろうと、彼が憎々しい顔で言っていた。国は違えど、同じ公爵令嬢のアザレアがかなりいい性格をしていたのでサブリナにも身構えていたが、聞いていた人物とは真逆過ぎるとブラントは首をひねった。


「何故、サブリナ様の評判が悪いんでしょうかね?」


「彼女は早くからロベルタ王太子妃と浄化の奉仕活動を行っていたようだ。学園内での社交が疎かになってしまったんだろうな。社交界での評判は悪くない」


 ルークスは溜め息を吐くと、足を組んで片方の手で頬杖をついた。憂いを帯びたルークスの横顔を見ながら、ブラントは考える。確かに子どもと大人の価値観は違う。しかし、これ程サブリナの人物像に乖離があるのは異常だ。何か大きな力が働いているのだろうかと、言い表せない不安を感じる。


「何か、大きな力が働いているんでしょうか?」


 思わずブラントは呟いた。ルークスは眉間にシワを寄せて髪を掻き上げながらブラントを見る。


「分からない。だが、彼女を害する者がいるなら排除する」


 大神官とは思えぬ物騒な雰囲気と発言に、ブラントはぱちくりと目を丸くする。ルークスは誰に対しても平等だ。貴族だろうが平民だろうが誰かを贔屓したり、冷遇したりはしない。いつも柔らかな笑みを浮かべて、凪いだ目をしている神のようなルークスが、別人のようにブランドの目に映る。


「え?ルークス様?」


「あ、いや。サブリナ様はフローレス国から派遣された聖女だ。何かあってはいけないだろう?」


 驚いているブランドに、ルークスは慌てて言い訳めいた言葉を発した。確かに最もらしいが、普段な何事にも動じないルークスの挙動不審な様子にブラントは思わず苦笑いを浮かべる。


「はは、ルークス様も人の子だったんですね」


 ルークスはその言葉に方眉を上げた。ブランドは頬をかきながら、視線をテーブルに落とす。


「神のように人々に平等なルークス様の人間的な一面が見れるなんて、良い日ですね、今日は」


 へらりと笑ったブラントに、ルークスは何とも言えない表情を浮かべた。そんな浮かない顔のルークスにブラントは微笑んだ。


「既婚者なので、是非私にご相談下さい」


「ブラント?」


「私はルークス様の恋を応援します」


 思わぬ協力者を得てルークスは心の中でガッツポーズをする。キーラはサブリナに近づいて欲しくなさそうで、先程もガッチリと彼女をガードしていた。あの番犬をどうにかしないとサブリナに接近できないとルークスは悩んでいたので、ブラントの申し出はありがたかった。


「ありがとう、ブラント」


「いえ」


「番犬をすり抜けるにはどうしたらいい?」


 笑顔でそう聞かれ、ブラントはキョトンとルークスを見た。番犬とは?と暫し考え、サブリナの侍女のキーラのことかと気付く。ふむとブラントは顎を撫でた。


「すり抜けるというより、手懐けるほうが良いのではないでしょうか?主人に相応しいと思っていただくのが一番かと」


 意中の人物に近づくために、その友人と親しくなるのは有効だとブラントは思う。特にその人物が信頼を置いている友人であれば、こちらの印象は悪くないだろう。ブラントが視線を上げると、ルークスは口元を覆って難しい顔をしていた。


「それは、一番難しいな」


 ルークスが声を絞り出してそう言ったので、昨日今日会ったキーラに何をしたのだろうとブラントは首を傾げたのだった。




 与えられた私室で椅子に座り、アザレアは不機嫌な顔でマヤとエブリーから、談話室での四人の様子の報告を受けていた。


「ふぅん。明日から浄化を行うのね」


「はい。明日、18時の村に向かうそうです」


 エブリーの返答を聞きながら、どうしようかしらとアザレアは顎に指を当てる。


「ルークス様は同行されるかしら?」


「はっきりと名言されておりませんでしたが、各神殿への挨拶も兼ねて同行させられる可能性が高いと思います」


 口元を多いながら、マヤが難しい顔で話す。アザレアもルークスがサブリナに同行すると考えていたので頷きつつ、どうにか邪魔を出来ないかしらと考えていた。エブリーとマヤが少し不安そうな顔をしていることに気付き、アザレアは笑った。


「ねぇ。もう二人ともヒューズ国に戻ってもいいのよ?」


 二人はその言葉に瞠目して立ち上がると必死の形相で声を出す。


「嫌です!アザレア様を置いていけません!」


「そうです!戻るときは一緒です!」


 泣きそうな二人に、アザレアは困ったように微笑む。


 アザレアの元婚約者スティーヴは現国王夫婦の唯一の子どもだ。アザレアは幼い頃に彼婚約者となった。そして、その側近と婚約者であるマヤとエブリーと一緒に育った。このまま、自分は王妃になり、この国をスティーヴと守っていくのだろうとアザレアは考えていたが、男爵令嬢シェイラの登場により、その未来は潰えた。

 可憐で素直で清楚なシェイラ。もし、スティーヴがシェイラを伴侶に迎えたいと相談されればアザレアは身を引くつもりだったが、コソコソと二人は愛瀬を重ねていた。更にシェイラがスティーヴだけでなくマヤとエブリーの婚約者にも手を出していたために、アザレアの逆鱗に触れた。なんの為に、自分の想いを犠牲にしてまでここまでやったきたのか。それはこの国の民のためだ。民の幸せのために、こんなあばずれは王妃には出来ないとアザレアは決意した。

 何度もアザレアはシェイラとスティーヴたちに婚約者のいる者と必要以上に親しくするなと注意をしたが、全く聞く耳を持たなかった。シェイラは次々と高位貴族の子息たちを虜にしていく、異様な光景が学園での日常と化していく。

 危険な女だとシェイラを排除することに決めた。勿論、当主である父フレイザー公爵に許可は取り、シェイラの実家と王家へも抗議に抗議を重ねる。


 しかし、シェイラを排除出来なかった。


 回復魔法が得意なシェイラは何度も瀕死の状態から蘇り、スティーヴたちに泣きついた。アザレアに殺されそうになったと。卒業パーティーの前夜祭に、彼らはアザレアを悪女と罵り、スティーヴは国外追放を言い渡した。

 魔法を封じるブレスレットを無理矢理嵌められ、ボロボロの馬車に押し込まれたアザレアをマヤとエブリーは助け出し、近くの教会からダグラスの神殿に転移した。


 マヤとエブリーから国王がスティーヴを廃嫡し、王弟子息のロバートを次期国王とする為に動いており、シェイラは男爵家から籍を抜かれ、幽閉されたとアザレアは聞かされた。高位貴族の子息たちのどれくらいが骨抜きにされたのか調べている間、ダグラスに身を置くようにとフレイザー公爵から伝えられたと言われ、呆然としているところにルークスが現れた。


「アザレア様、ようこそ」


 ルークスの柔らかな声と笑みにアザレアは恋に落ちた。傷付いた時に優しくされたら、人は相手を好きになる。更に、大神官という高い地位を持ち、見た目も申し分ない。婚約破棄と国外追放をされた自分が、こんな素敵な男性を伴って帰国すれば、父や母も安心するだろうとという打算もあったが、アザレアは優しいルークスにどんどん惹かれていった。こんな風に異性から優しくされたのはいつぶりだろうか。こんな穏やかな気持ちになるのはいつぶりだろうかとアザレアは癒やされた。


 しかし、ルークスは誰に対しても平等に優しかった。


 初めはそこがいいとアザレアは考えていたが、段々と欲が出てくる。自分だけを見て欲しい。特別になりたい。恋する相手にそう思い、願うのは当然だ。アザレアの心に嫉妬が澱のようにたまっていく。何とか嫉妬を抑え込んでいたが、サブリナに向ける視線に、振る舞いにルークスが彼女に並々ならぬ想いを抱いていることが手に取るように分かった。自分も恋をしているからだ。


「ありがとう、二人とも」


 アザレアは勢いよく立ち上がった。


「必ず、ルークス様と国に戻るわ!」


 ギュッと手を握り締めるアザレアを、二人は心配そうな顔で見つめた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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