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なろうラジオ大賞4

僕は量子力学で魔王を産んだ

 僕の父は優秀な冒険者だった。剣も魔法も巧みにこなすので『魔法剣士』の二つ名で呼ばれている程だった。


「父上、もう一度」

「仕方ないな。それ、ファイヤーボール!」

 詠唱と共にこぶし大の炎の塊が木偶人形へとぶつかって爆ぜた。木偶人形は魔法の標的様に強化されているので魔法をぶつけても壊れる事は無いのだ。


「もう一度」

「ははっ、ファイヤーボール!」

 そんなやり取りを何度となく繰り返した。父は子供が魔法に喜んで何度もせがんでいると思っているが、実は違うのである。僕は子供だが、子供では無いのだ。頭がおかしいと思われるのは困るので、誰にも言っていないが僕には物理学者としての前世の記憶がある。しかも、それはどうやらこの世界とは別の世界に生きていた者の記憶らしい。


「やはり、魔法も物理法則にきちんと則っている。ハイゼンベルクの運動方程式に当てはめれば、きちんと説明が付く」

 僕はそれからは、魔法の研究に明け暮れた。学校に通うようになってもそれは変わらず、一番効率の良い魔法の解を在学中に導き出した。しかし、それを実践する段階で躓いてしまった。何せ、マイクロメートル単位の正確さが3次元ベクトル上に於いて必要とされるのだから容易な事では無いのである。

 だから、僕の理論は学校では『口だけ理論』と揶揄されてしまったのだ。


 しかし、僕は運命の出会いを果たす。卒業後に世界を放浪している時に魔力操作に秀でている種族の者と出会ったのだ。彼は腕っ節は弱く、魔法の威力も大したことが無く世間から虐げられる側だった。

 というのも、種族的に色々と緻密過ぎる分、魔法のような概念的なものを捉える力が劣っていた為であった。僕は彼と旅を続ける傍ら、量子力学を基礎から教えたのだった。


 1年以上じっくりと時間を掛けて教えた後に、ハイゼンベルク運動方程式に当てはめた魔法理論を彼に教えた。その日を境に彼は僕も到底敵わない程の魔法使いへと変貌を遂げたのだ。


 今迄ならば絶対に狩れないような魔獣もいとも容易く討伐出来るようになった。お陰で、路銀に困る事は無くなった。

 虐げられている者を救う為にその力を振う事もあった。盗賊などは容赦なく葬り去っていた。多少力に訴える事も増えてきたが、彼は元来の優しい性格で力に溺れる事は無かった。


 そんな彼が魔王と呼ばれる程の人類を殺戮する存在になったのは僕のせいなのだ。


 僕が人間の手によって殺されてしまったからなのである。

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