一方、銀狼の牙は①
後半視点Side;シャルロット
どうやらシャルは弱気になっているようだ。
「そんなことないよ。シャルは頑張っているさ。」
「ううん。私がただ聖女のジョブがあるから教会に必要とされているだけ。命令されて銀狼の牙にいるけど、私は何も自分では決めてない。」
「そんなシャルに励まされている人だっているんだ。オレだってそうだ。」
「そうかな。」
「シャルは美人だし、一緒にいて元気をもらえる。それには聖女のジョブなんて関係ない。シャル自身の魅力だろう。」
シャルの顔が真っ赤に変わる。
「そっそんなこと言ったら勘違いしちゃうよ。」
「なにがだ。事実だろ。」
「もう、ヨースケのバカ! 」
軽く肩をポコっとt殴られた。
ジークもじっとした目でオレを見ている気がする。
「元気が出てきた。ヨースケも頑張ってるんだもん。私も頑張らないとね。」
「その調子だ。シャルなら大丈夫さ。」
「うん。私も精一杯やってみる。もし落ち込んだりしたら会いに来ても良い?」
「もちろんさ。ジークも喜ぶ。宿は変わるかもしれないから、ギルドに聞いてくれ。」
「ピィ! 」
良かった。シャルは元気が出てきたみたいだ。
最近シャルはずっと辛そうな顔をしていたからな。少しだけ安心した。
「銀狼の牙はどう考えても苦戦すると思う。命だけは大事にしろよ。シャル。」
「そうよね。私もそう思う。どう考えてもうまくいくとは思えないもの。」
「そうだな。うまくいってほしいが難しいかもしれない。」
銀狼の牙が失敗してもなんとも思わないが、シャルの身は心配だ。
「そういえば、クリストはシャルのこと好きって言ってたぞ。」
「知ってる。断ってるんだけどね。それに、ケヴィンもアマンダがいるのに告白してくるの。アマンダには睨まれるし、私がパーティ内でどれだけ肩身が狭い思いをしていることか…」
シャルがモテるのは分かる。男なら誰しもこんな美女と付き合いたいものだ。
「でも私には、………がいるから。」
ボソッと言ったので聞き取れなかった。
「まあ、思う人がいるなら、注意することだな。」
シャルはジーッとオレを見つめる。
「なんだよ。。」
「もういい。ヨースケはヨースケのままでいてね。」
よくわからないが、シャルに元気が出たならそれでいいさ。
「オレは帝国の特殊部隊でシャルは聖女として頑張ろうな。」
「うん。頑張ろー! 」
「最後にヨースケの未来を神に祈らせてください。」
シャルが目を閉じて手を握り、神に祈った。
「ヨースケの未来に幸福が訪れますように。」
シャルの周りを光が包む。シャルの祈っている姿は美しかった。
オレは見惚れていた。
「ヨースケのこれからを祈っておきました。ヨースケ、ちゃんと聞いてるの。」
オレはシャルをこの場で抱きしめたかった。本音を言えば、すべてを捨ててシャルと旅したい。
だけど、シャルには聖女という立場がある。オレなんかが邪魔をしてはいけない。
「ああ。悪い。もうこんな時間だ明日もダンジョンだろ。もう戻ったほうがいい。」
「そうね。また遊びに来るわ。ジークもまたね。」
「ピィ! 」
シャルがジークを撫でてから部屋を出ていった。宿まで送ろうと言ったがケヴィン達に会うと不快な思いをするかもしれないと気を使ってくれて断られた。
一人宿に残り、ジークに話しかける。
「ジークもシャルと一緒に冒険したいよな。」
「ピィ! 」
「ジーク、シャルは可愛いな。」
「ピィ! 」
自分で言った言葉に照れて、枕に顔を埋める。
自分の顔が真っ赤になるのが分かる。
今は別々の道でもまた一緒に冒険する日が来るかもしれない。
それまでにオレは帝国の特殊部隊で必要となる人間になってもっと力をつける。
聖女の名に劣らない様にならないといけない。
明日は初出勤だ。今日は早めに寝るか。オレは明日からが楽しみでなかなか寝付けなかった。
◇
「もう、ヨースケは鈍いんだから。」
私はヨースケの宿を出てから銀狼の牙が取っている宿に戻っていた。
ヨースケともっと一緒にいたかったけど、私には私のやるべきことがある。
銀狼の牙が飲んでいる酒場が一階にあるから、部屋に入るためには通らなければならない。
憂鬱だ。ため息が出る。
だめだ聖女なんだからしっかりしないといけないと思うが、どうもヨースケと話すと素の自分に戻ってしまう。
見つからない様に部屋に向かうが、ケヴィンに見つかった。
ヨースケを追放してからも、ずっと酒を飲み続けていたみたいだ。
「シャルロット遅かったじゃねえか。座れよ。紹介するぜ。こいつが新しいメンバーのニコルで盗賊だ。」
「ニコルです。ジョブは盗賊。斥候と罠の解除は任せていいよ。」
ニコルは小柄だが胸が大きくて、顔はかわいかった。ケヴィンの好みで選んだだろうというヨースケの意見は正しいと感じた。
ニコルの声は猫なで声というのか、男に媚びる声が鼻につく。トラブルが起きる予感しかしない。
退屈な飲み会がまた始まるなとため息が出る。
「どうしたシャルロット、辛気くせえ顔をするな、俺様が守ってやるから。銀狼の牙は大丈夫だ! 」
「ええ。」
ケヴィンは嬉しそうな顔で私の肩をバンバンと叩く。横を見るとアマンダが睨んでいる。
全てを捨ててヨースケと旅をすればよかった。心の底から後悔する。
だけど、ヨースケは帝国の特殊部隊で働くんだ。邪魔は出来ない。
「シャルロットとケヴィンさんは付き合ってるんですか。」
ニコルが私に冷たい目を向けながら言った。
「そっそんなことありません。違います。」
私は弁解する。ケヴィンと付き合うなんてごめんだ。
この話題は避けたい。アマンダにこれ以上睨まれたくはない。
「そんなに必死に否定するなんて怪しいですね。」
わざとだ。ニコルはわざとこんなことを言って私たちの反応を楽しんでいる。
アマンダが怒りながら言った。
「いい加減にして。ケヴィンは私のものよ。」
「そうですか。私もケヴィンさんかっこいいなって思ってたんです。」
ケヴィンは満更でもない顔をして頬を掻く。
「まぁよ、俺様を取り合うのはよしてくれ。シャルロットもアマンダも落ち着いてくれ。」
私は落ち着いている。ケヴィンは有頂天に鳴っているようだ。
この人になにを言っても無駄だ。
「私は先に休ませてもらいます。明日からよろしくお願いしますね。ニコルさん。」
私は挨拶をして2階の部屋に上がる。一人になるとため息しかでない。
「ちょっと待ちなさいよ。」
アマンダが追いかけてきて、私の肩を強く掴んだ。
「痛いです。なんですかアマンダさん。」
「次、ケヴィンに色目を使ったら焼き殺すわよ。わかったなら行きなさい。」
そう言うと、アマンダは戻っていった。
色目なんて使っていないし使うわけがない。
ヨースケがいなくなってからまだ数時間しか経っていないのにこれだけパーティで揉めている。
冒険がうまくいくはずがない。
「ヨースケの言ったとおり、銀狼の牙はだめかもしれないな。」
私は部屋で星空を見上げながらため息をついた。
今の私には祈ることしか出来ない。
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