聖女シャルロットの訪問
お礼を言ってオレは宿に戻った。給与面など全て任せますと伝えた。金なんていくらでもいい。暮らしていける金さえあれば良いんだ。オレはもう裏切らない仲間がほしい。それだけだ。
ケヴィン達とは別の宿を取った。幸いなことにお金は貯めていたから余裕はある。
部屋に戻り、鷹のジークハルトを撫でる。
「ピィ!」
「ジーク。今日のご飯は大好物のイモムシだよ。」
「ピィ! 」
嬉しそうにジークがイモムシを突っついて食べる。
ジークハルトとは小さい頃からの相棒だ。
「ジーク、オレパーティ追放されちゃったよ。」
「ピィ? 」
ジークが心配そうにオレの頬擦りして慰めてくれる。
「ありがとう。ジークは優しいな。」
ジークを撫でていると扉がノックされた。
「空いているよ。」
扉が開くと、聖女シャルロットが立っていた。
シャルロットは幼なじみだが、聖女の天啓を受けて、教会に引き取られた。
<銀狼の牙>がS級パーティになりケヴィンが勇者に任命されたため、教会から銀狼の牙に派遣されている。
「こんばんは。ヨースケ。」
「ああ。さっきぶりだね。立ち話もなんだ。席に座ってよ。」
「今日はヨースケとジークに会いに来たの。」
シャルロットが椅子に座り、食事が終わったジークをシャルロットが撫でる。
こうしてよくシャルロットはジークに会いに来ていた。
シャルロットの顔はかわいい、教会一、いや帝国一の美女だと噂になっている。
白銀の目に白銀髪色。おとぎ話にでも出てきそうなほど顔が整っている。
胸は幼少期から全くといっていいほど成長していないが、そこがまた男心をくすぐるらしい。
「ジークは今日も元気そうね。」
「ピィ!」と嬉しそうにジークが鳴く。
ジークもシャルロットのことを気に入っている。
「あの……ヨースケ。」
「どうした。」
シャルロットが撫でる手を止めてオレを見つめた。
「ほんとうに……銀狼の牙は辞めるの。」
「そうだな。追放されたのに辞めるも何もないよ。」
シャルロットが立ち上がり、オレが腰掛けているベッドの横に腰掛ける。
「ヨースケは冒険者は続けるの。」
「そのつもりだったんだけど、カインさんに誘われてね、帝国の部隊に所属することになる。」
「そっか………」
シャルロットが黙りこんだ。沈黙が苦しい。
実際は数分も経っていないだろうが、シャルが黙り込んでいる時間が永遠に感じた。
「私もついていったらダメかな。」
「当たり前だろ。シャルロットは聖女だ。教会の命令で銀狼の牙にいなければいけないだろ。」
「そっか。そうだよね。」
下を向き俯くシャルロットが再び黙り込んだ。
シャルロットが小さい頃、自分の意見をうまく言えずに黙り込んでいたっけ。
俯くシャルロットを見ると昔を思い出すな。
「オレには言いたいこと言っていいんだよ。シャルロット。」
シャルロットが顔をバッと上げて言った。
「他人行儀にシャルロットって呼ばないでよ。昔みたいにシャルって呼んで。」
「ああ。すまない。シャル。でもシャルが思うように発言して良いんだ。今は聖女じゃない。ただの幼なじみのシャルなんだから。」
聖女になってから、シャルは作り笑いをずっと浮かべて、仕事が終わると暗い表情になることが多かった。教会から言動を注意されているのだろう。聖女はいつでも元気でなければならない。精神的な負担は相当大きいはずだ。
「その帝国の部隊って言うのはなにをするの。戦争に行ったりしないよね。」
「オレも全てを分かっているわけではないけど、やることは帝国直属の冒険者みたいな位置づけらしい。」
「そっか。帝都にいるならいつでも会えるね。」
シャルが嬉しそうに笑った。
「ヨースケは昔はS級冒険者と勇者に認定されるのが夢って言っていたじゃない。その夢を諦めていいの。」
「ああ。S級パーティにまで銀狼の牙はなったし、オレは求められる場所にいたい。」
「そっか。そうだよね。でも私もヨースケともっと一緒にいたかったな……」
「いつでも会えるだろ。同じ帝都にいるんだから。」
「そういうことじゃないもん。ヨースケの分からず屋。」
シャルがべーと舌を出した。この表情は昔のシャルだ。演じている聖女シャルロットではない。
それにしても分からず屋だって。オレのなにが分からず屋なんだ。
「シャルはこれからも銀狼の牙にいるのか。」
「教会からの指令がある限りね。またヨースケと村に戻りたいわ。」
「村か。オレはあんまりいい思い出はないけどな。」
オレに両親はいない。爺様に育てられたのだが、冒険者になる前に死んだ。
いや正確に言うと殺されたとオレは見ている。
シャルの家の人には会いたいが、それ以外に会いたい人はいない。
「帝国の部隊でいじめられないといいね。」
「そうだな。オレは戦闘はあまり強くはないから。少しだけ不安だよ。」
「ねえヨースケ、二人で全てを捨てて旅に出ない? 」
「冗談言うなよ。シャル。」
シャルを見るが、この目は冗談を言っている様な目ではない。本気の目だ。
「………そうだよね。私は聖女の修行をしないといけないし、ヨースケは帝国の特殊部隊があるもんね。」
「ああ。でも休みには一緒に冒険でもしよう。昔みたいにね。」
「うん。」
ジークがシャルの肩に飛び移り、シャルに頬ずりをした。
「もちろん。その時はジークも一緒に行こうね。」
「ピィ! 」
「俺は銀狼の牙を追放されて決めたんだ。次こそは求められる人間になるって。だからオレはカインさんに紹介された帝国の特殊部隊で頑張る。シャルは聖女として頑張る。お互いに苦しい時は支え合おう。」
「なんで…なんでヨースケはそんなに強いの。」
驚いた。隣を見るとシャルの目から涙が流れている。
「シャルには言っていなかったね。オレは異世界から転生した人間かもしれないって。」
俺に両親はいなかった。爺様からは森で拾われたと聞いた。
残念なことにオレに前世の記憶はない。
不思議に思ったのは帝国には黒い髪の人間がほとんどいなかったからだ。
ケヴィンと冒険者になって帝都に来た時に研究所に依頼して調べてみた。
「調べたんだけど、まったく分からなかった。少なくともこの大陸の人間ではないって結論が出てね。詳しいことは分からずじまいさ。」
「そうなの全然気がつかなかった。」
「分かったのも最近だからね。オレが異世界人だからか分からないが、爺様が殺されたのもそれが理由なんじゃないかと思ってる。何もできないオレに爺様はすべてのことを教えてくれたんだ。犯人を今でも探しているのさ。」
爺様はオレには何も言わなかったが、オレが異世界からの転生したことを知っていたと思う。知らない大人がオレを引き渡せと何回も家まで来ていた。オレなんかを庇って爺様は殺されたんだ。
「だから決めたんだ。オレは有名になって犯人を捕まえるってね。まだ生きていればだけど両親にも会ってみたいな。」
あの日の爺様の死に顔は今でも夢に見る。忘れるもんか。
「ヨースケは偉いね。私なんか全然ダメ。ただ流されて教会の言うことを聞いているだけだもん。」
シャルは暗い顔で言った。
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