転機
ケヴィンは話は終わりだと言わんばかりに面倒くさそうな顔をして言った。
「なにか最後に言うことはあるかヨースケ。」
「最後に一つだけ。本当にオレの仕事を後任の盗賊ができるのか。」
「笑わせんなよヨースケ。お前が出来る仕事なんて誰にでもできる。新メンバーは盗賊のニコルだ。」
ケヴィンが声を出して笑った。
「あの盗賊団のニコルだって。お前たちの失敗する未来がオレには見えるよ。」
「ヨースケのくせに生意気なこと言うじゃねえか。」
オレは笑ってしまった。ニコルは帝都で活動する盗賊団の頭だ。盗賊団の頭を務めるニコルは我の強いに決まっている。他の盗賊を束ねているのだから。そんなニコルに日陰者と言われるサポートや裏方などできるわけがないじゃないか。
それに盗賊団の評判は悪い。犯罪に殺人。他の冒険者の手柄を取ったりと帝国内でも一番評判が悪いパーティだ。
「何がおかしい。」
「ニコルたちの盗賊団の評判くらい知っているだろ。」
「ふん。負け犬の遠吠えだな。ヨースケよりは何倍も優秀だぜ。」
「そうか。どうやらアマンダと一緒でニコルも顔だけで銀狼の牙に誘った。お前の好きそうな顔だもんな。そうだろケヴィン。」
「てめぇ。」
「図星みたいだな。お前にはがっかりだよ。こんなパーティこっちから願い下げだ。」
ケヴィンが立ち上がりオレの胸ぐらをつかんだ。周りで飲んでいる冒険たちも話を辞めてこちらを見ている。
「辞めなよケヴィン。皆がこっちを見てるわ。」
「チッ」
舌打ちしたケヴィンがオレから手を離した。
勇者は品性も求められるがケヴィンは問題を多く起こす。瞬間湯沸かし器の様な男ですぐに頭に血が上る。オレが今まで何度、問題をもみ消してきたことか。
「まぁいい、せいぜいニコルには気をつけることだ。皆の活躍を祈っているよ。」
「ああ、さっさと失せろヨースケ。最弱のお前はもう追放されてんだ。居場所なんざここにはねえ。それにお前なんかに言われなくても俺たちはS級パーティだ。うまくやれる。」
オレはそのまま飲み屋を出た。後からケヴィンたちの笑い声が聞こえている。
最後にシャルロットと目があったが彼女はオレを止めなかった。
◇
「これからどうしようか。」
一人ぼっちになったオレはこれからの事を考える。落ち込んでいてもしょがない。
テイマーは冒険者の中でも下に見られていて他からの勧誘なんてありえない。
一人で冒険者を続けるか。それでもダンジョンの10階にもたどり着けないだろう。
<銀狼の牙>のケヴィン達とは顔を合わせたくはない。追放されてムカついている。
思いついた。帝国内を回りながら冒険者をするか。
ギルマスに報告しに行こう。
追放された後、ギルドマスターに報告しに向かう。
受付に居るのは冒険者ギルドの看板娘ミントさんだ。獣人で小さくてかわいい。冒険者ギルドの看板娘だ。
「ミントさん。こんばんは。メンゼフさんはいますか。」
「ヨースケさん。こんばんは。ギルマスですね。今二階にいますよ。何の要件でしょうか。」
追放されたとは言いにくかった。S級パーティを追放されたなんてすぐに噂になる。
「その。ギルマスに相談がありまして。」
「なにやら訳アリみたいですね。それなら直接二階に行ってください。」
お礼を言い、二階に上がる。ノックすると「入れ。」と男の声が聞こえた。
「どうした。ヨースケ。こんな時間に。一杯やりにでもきたのか。」
「いえ…実は…その言いづらいのですが。」
メンゼフさんは筋肉隆々のおじさんだ。もう十年以上ギルマスを務めているらしい。
メンゼフさんは書類を書く手を止めてこちらを見つめた。
「なんだよ。金ならオレはないぜ。全て酒に使っているからな。」
「いえ。違います…銀狼の牙を追放されました。」
メンゼフさんが椅子からずっこける。
「銀狼の牙を追放だって!!! お前が。嘘だろ。」
メンゼフの声の大きさに驚いたし、椅子からずっこける人を人生で始めた見た。少しだけ落ち込んでいたが元気が出た。
「穏やかじゃねえな。それで何があった。」
「先程、急にケヴィンから追放を宣言されました。オレがテイマーなのが原因だと思います。」
「そうか。あいつらはジョブで人を判断していたからな。今まで銀狼の牙を支えてきたのはヨースケなのに…残念だったな。」
メンゼフさんが立ち上がりオレの頭を撫でた。オレは無意識のうちに涙が頬を伝う。
悔しかった。オレは戦闘は弱いが銀狼の牙を支えてきた自負がある。
「ちょっとだけ待ってろ。いいかヤケを起こして、いなくなるんじゃねえぞ。これでも飲んで座っていてくれ。」
お酒を置いてメンゼフさんが出ていったが今は酒を飲む気分にはなれなかった。
数分後、副ギルマスを務めるカインさんとメンゼフさんが戻ってきた。カインさんは副ギルドマスターを務めながら魔法学校の教師や、A級以上のクエストを帝国の依頼でこなしている。冒険者の誰もが憧れる人だ。噂では看板娘のミントさんと付き合っているらしい。
「やあヨースケ。久しぶりだね。」
「カインさん。ご無沙汰しています。帝都に戻られたんですね。」
冒険者をケヴィンと始めたときから、カインさんにはお世話になっていた。冒険者の試験から冒険の仕方まで基本を教えてくれた恩人だ。カインさんがいなければ銀狼の牙はS級パーティにはなれていないだろう。
「ああ。調査が一段落ついたからね。話はメンゼフさんから聞いたよ。実は僕も勇者パーティを追放されてギルド職員になったんだよ。」
「エッ! カインさんがですか。」
「そうさ。追放された時にメンゼフさんにギルド職員に誘ってもらったんだ。今のヨースケと同じ状態だったんだよ。」
カインさんでも追放されるだなんて、今では考えられない。
「そんなに驚かないでくれよ。ヨースケ。」
オレは驚きあんぐりと口を開けていたみたいだ。
「いや、驚きますよ。完璧なカインさんが追放だなんて。」
「あはは。そう言ってもらえるとありがたいけどね。僕はヨースケは優秀な冒険者だと思ってるよ。」
カインさんに言わると不思議とそんな気になってくる。
「でもヨースケの特出しているのは戦闘能力ではない。むしろ戦闘力だけ見れば冒険者の中でも下から数えたほうが早い。良くてD級くらいだろう。」
その通りだ。それが原因で追放されたのだから。悔しくて唇を噛む。
「落ち込まないでくれ。戦闘能力ではなく、特出している能力を活かすべきだと言っているんだ。」
「はぁ。」
我ながらマヌケな返事をしてしまった。
「今、帝国では新しく特殊部隊を編成していてね。そこの部隊長が空席なんだ。ヨースケが部隊長をやってみないか。」
カインさんの話が入ってこない。
帝国は2つの部隊で構成されている。
第一隊は花形の部隊で帝国騎士と呼ばれている。要人護衛や戦争など国の優先度の高い仕事をする部隊だ。
第二隊は国内の治安維持の名目で帝国各地に派遣されているはずだ。
ここに新しく部隊が出来るのか。そんな話聞いたことがない。
「オレが…帝国の特殊部隊ですか。特殊部隊ってなにやるんですか。」
「内容はほとんど冒険者と変わらない。各地のダンジョンへの出向や魔獣の討伐がメインだ。」
「オレが帝国の部隊ってやれますかね? それに隊長ってオレ平民ですよ。」
「ああ。不安になるのは分かる。今回の特殊部隊は出身を問わずに優秀なメンバーを少数精鋭で集めたらしい。実力はお墨付きだが、個性的なメンバーが多くてね。まとめ役が必要らしいんだ。」
帝国では貴族制や種族差別があったが、徐々に平等な世の中にしていく方針を打ち出していた。
第一隊では隊長が平民出身のはずだが、帝国の部隊では未だに大多数は貴族出身の人が多いはずだ。
「銀狼の牙を世話していたオレが適任とカインさんは思っているんですね。」
「そうだ。世話と言うのは言い得て妙だね。元将軍のルノガーさんが責任者をしていてね、旧知の仲で相談を受けていたんだ。もちろん、ヨースケが冒険者を続けたいなら、他のパーティを紹介するよ。でもあまり級等の高いパーティは厳しいだろうね。」
オレは銀狼の牙のメンバーとは顔を合わせたくはない。それにテイマーがS級やA級のパーティに新しく加入したなんて聞いたことがない。
カノンさんの誘いはありがたかった。
帝国の特殊部隊であれば顔を合わせることもほとんどなさそうだ。
「分かりました。是非とも受けさせてください。」
「もちろんだよ。ルノガーさんにはこの後報告しておくから、明日朝に迎えに来てもらように手配するよ。」
「待てよカイン。ヨースケはギルド所属になってもらうって話じゃなかったか。」
メンゼフさんが会話の途中で発言した。
「もちろんです。メンゼフさん。所属はギルド職員でギルド職員から出向する形にするのはいかがでしょうか。ヨースケに特殊部隊が合わなければギルドに戻ってこれますし。まぁ、ヨースケが嫌じゃなければですが。」
「さすがカノンだな。そこまで考えていたのか。」
メンゼフさんが深く頷いた。
「もちろんです。精一杯頑張ります。」
そう言ってオレも頷いた。
ここまでオレのことを考えてくれているんだ。期待には答えないといけないな。
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