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要人の護衛

3日後の夜にオレたちは皇国議会貴族院議長補佐ヤクト・ランカード伯爵の護衛任務に就いた。

護衛に就いているのは、オレ、シャル、アリス、アリミノ、そして第2分隊の11人と伯爵の私兵30人、総勢45人だ。

伯爵は馬車に側近2人と乗車し、前列にオレたち15人の傭兵、馬車周りに私兵20人、後列に私兵10人の配置で移動することとなった。

初日は議会と自宅の往復だけで何事もなく、2日目は夜に高級なレストランで他の貴族院議員との会食が予定されていた。

「イグナシオ〜、いい匂いがする!お腹減った!お腹減った!ボクもアレ食べたい!!」

「イグナシオ、我々も食事にしよう。」

シャルとアリスがレストランの扉に手をかけようとする。

「まてまて!オレたちは護衛出来てるんだから!中で一緒にメシ食えないから!」

まったく緊張感のない2人に手を焼いていたら、会食が終わったようで中から伯爵が出て来た。

「ほらっもうすぐ帰れるから!帰ったら美味しいご飯食べよ?」

「「はーい」」

不承不承返事をする2人、それに比べてアリミノの手のかからないことよ。

ふとアリミノを見ると、寝てやがった!コイツ静かだと思ったらコレかよ!?

幼稚園児の引率をしている気分だぜ。

全力のデコピンを打ち込むとオレは第2分隊へ指示をした。

「移動するぞ!各員配置につけ!!」


伯爵の自宅はここから800mの貴族街にある。道筋も一度左に曲がる以外は直線しかない。

四頭だての馬に引かれて馬車が動き始めた。

オレは護衛任務中ずっと索敵(サーチ)を使用している。

今のところ不審な気配はない。

馬車が交差点に差し掛かる。ここを曲がれば伯爵邸は目と鼻の先だ。

すると前方に人影が立ち塞がった。索敵(サーチ)には何の反応もない。

「馬車を止めるな!このまま突っ切れ!!」

オレは指示を出しながら人影へと突進する。

すれ違いざまカタナでイアイ斬りをする。「カキーーン」と甲高い音を立てて弾かれてしまう。

「敵襲だーーー!!」

声のした方へと振り向くと、いつの間にか馬が切られて馬車が停止してしまっている。更にどこから沸いたのか30〜40ほどの黒ずくめの集団に馬車が囲まれてしまっている。多分四辻に伏せていたのだろう。

暗闇での戦闘はこちらに不利だ。

極・明灯(ハイパー・ライト)の魔法を無詠唱で使う、が魔法が発動出来ない。

「魔法使用不可のトラップか!?」

首筋にゾクリとした寒気を感じ身を翻すと刃風が頬を掠めた。

躱しざまに人影の本体へ斬撃を叩き込む。手応えなく空振りに終わってしまう。

「お前、名前は?」

暗殺者が名乗る訳もないが不意に口に出してしまった。

「…ズイザン」

意外にも名乗ったその名前は斬奸党の首領の名前だ。

ふと右足の甲が熱くなった。見るといつ投げたのかスローイングナイフが突き刺さっていた。その刀身は黒く染められ、暗闇では視ることが出来ないだろう。

ズイザンの必殺の一撃が迫る、殺気を殺しているため何処から来るのか分からない。ただ、緊迫した空気がそれをオレに教えてくれる。

カタナを下段に構え目を瞑る。カウンターを狙うしか今のオレには手がない。

頭髪が揺れる、頭上に敵の剣が来る、脳が命ずる前に反射でカタナを跳ね上げる、剣と剣がぶつかる凄まじい音がした。跳ね上げたカタナを燕返しの要領でクルっと返し、一の太刀の如く渾身の力で振り下ろすとズイザンの右腕が宙に飛んだ。

ズイザンは声を漏らさずオレが残心している間に闇に消えてしまった。カタナはあれだけ打ち合ったのに刃こぼれひとつない。

「シャルー、アリスー!無事か?」

「ボクたちは大丈夫だよ!あとアリミノも」

「そうか、よか…」

急に視野が狭まり視界が暗転していく。何だこれは敵の魔法?

ドサッと音を立ててオレは崩れ落ちた。

アリミノの悲鳴やアリスの大声、シャルの詠唱を聞きながら意識が途切れた。


―――――――――――――――――――


「あーっ、やっと目開けた!アリス!アリミノ!イグナシオが目覚めたよーー!!」

シャルの大声が耳に響く。ここは…

「ここは伯爵邸の客間だ。お前が急に倒れるから貸してもらっている。」

アリスが淡々と語る。

「マスター、頭から血が出て大変だったんですよ?」

結局あの場では魔法を使うことができず伯爵邸に運び込んでからの手当てになったそうだ。

「伯爵は無事か?」

「イグナシオ以外は全員無事です!」

シャルがオレの頭を軽く叩いた。

「心配かけてごめん。敵はどうなった?」

「30人余りは切った。逃げたのは10人。死体は騎士団が来て検分して行った。」

流石に剣聖、暗闇をものともしないか。

「オレが闘っていた奴は『ズイザン』と名乗ってた。」

「『ズイザン』ね。次はワタシが殺す。」

アリスから迸る殺気にアリミノが震えた。

「なかなかの手練れだったぞ。危うく死に掛けた。」

「他の奴らもザコにしてはまあまあだったわ。昼間だったら全員瞬殺だったけどね。」

アリスが物騒なことを嘯く。

「マスター、相手が斬奸党ならば首領の『ズイザン』よりヤベー奴らがいるって話です。」

「ズイザンより強いのまだいんのかよっ!」

「1人はリョーマとか言う名前でズイザンの2倍は強いとか。でももう1人のイゾウと言うのは…」

「イゾウってのは?」

「リョーマが手も足も出ないうえにものっそい狂ってるらしいですよ?」

「狂ってる?」


リョーマにしてもイゾウにしてもズイザン相手に紙一重だったオレでは勝てないかしれんな。

窓の外を見つめ溜息をついた。


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