再起
アンリ・ルーデシアはサリウス大公領にいた。
領都ディシリアは戦火にあった。焼け落ちた領主の館跡にはカーライル軍が仮設の兵営を作っていた。
街のあちこちで兵たちが略奪をしている。
抵抗する者は無残にも斬り捨てられた。
「必ず…私が助けにきます…。」
食いしばった唇から血が流れた。
ともかく敗残兵の行方を追わなければ。
アンリは酒場に入り兵たちの雑談に耳を傾ける。
「お前らの部隊こんど残党狩りに行くそうだな?」
ドワーフの兵がエール酒を飲み干しながら隣にいる人族の兵に問う。
「そうなんだよ、参ったぜ。あそこにはゼダンとかいう剣聖の弟子が立て篭ってるからな。」
「でもエストっていう剣聖の娘もいるんだろ?上玉らしいじゃねえか!」
「そうそう。それだけが楽しみなんだ。」
「俺も今から参加できねえもんだから上官に聞いてみるかッ?」
あそことは何処だ!?エスト嬢とゼダンがいるなら敗残兵の主力部隊っぽいが?
「リール砦攻略戦か、行けって言われるんじゃね?」
リール砦はここから北へ約10㎞行ったところにある。
アンリは勘定を置いて酒場を後にした。
―――――――――――――――――――――
「ゼダンさま、危ないですからもうお下がりください!」
エストの叫びも聞こえないほどにゼダンは荒れ狂っていた。
砦を囲む敵兵目掛けて一騎駆けし手当たり次第に切り崩した。
カーライル軍ではゼダンのことを『鬼神』と呼ぶようになっていた。
毎日毎日幾ら切っても雲霞の如く湧いてくる敵にゼダンはウンザリするどころか闘志を燃やした。
「サリウスさまの仇が斬り放題、幾ら切っても切り足りない。」
ゼダンはそう嘯いた。
「見ている方は気が気じゃありません。せめて兵を連れてください。」
「兵は出来るだけ温存したいんだ。いつか必ずチャンスは来る。それまでは俺一人で十分さ。」
剣聖から剣の極意を授かった、自信もある、策もある。
兵も徐々に集まりつつある、1万を少し超えた。
みなサリウス大公の配下だった者たちだ。
顔見知りばかりなので間者が潜り込むこともない。
ふと門の辺りが騒がしくなっていることに気付く。
「何かあったか!」
大声で兵に問う。以前は無口な方だったが兵たちに指揮官へ推されてからはそうも言ってられなくなった。
「ゼダンさま、見たことない小僧がいます!間者かもしれません。」
エストと共にその若者のところへと歩み寄る。
「アンリ殿下じゃないですか!?よくご無事で!!」
「イグ兄…イグナシオ兄上に助けられて何とか生き延びたよ。」
「イグ兄って?シャルロット殿下は?」
「いまイグナシオ兄上と一緒にいる。無事だよ。」
「イグナシオって、あのイグナシオのこと?」
エストが引き攣った顔で問う。
「シャルロット姉上と御結婚され今はイグナシオ・ルーデシアを名乗っておられます。」
「イグナシオとシャルロットが結婚!?久しく聞かなかった朗報だな!!」
「ルーデシアを名乗るとは不敬な…。」
「おほんっ!」
聞こえないフリをしてアンリが続ける。
「よって以後は皇族として遇するように!」
やばいやばいやばい
わたしアイツのこと呪っちゃったんだけど?
エストは独り青ざめた。




