ヒトから
目が覚めた。
身体が動かない、瞼すら開けられない。
痛みは感じない、というより全身の感覚がない。
目も耳も鼻も
光も感じない。
オレは死んだのか?
問いかけに答える声はない。
魔女ノワール。
アレの瞳を見てから記憶がない。
魔眼だったのかもしれない。
神々の加護をものともしない魔女の力。
《閲覧》を発動!
手応えはあったが目が見えないので何も分からない。
《契約》を発動!
言葉が出ないので念じたが《契約》できない。
《契約》スキルは声に出さないと発動しないようだ。
お手上げか?
オレは何か良い手がないか考え続けた。
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聖都イスタファンの城門近くで頭部を破壊された人族の死骸が発見された。
その破壊のされ方が問題となった。
上顎を下弦としてそこから上がキレイな断面で抉り取られていたのだ。
物理攻撃ではこうはならない。
魔力の残滓もない。
不思議な死体だ。
城内から神聖騎士団が検屍のため派遣された。
しかし検屍をしても何も分からなかった。
これ以上は時間の無駄と判断され、死骸は聖都内の火葬場へと運ばれていった。
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聖都内にあるカリナン塔
ここは罪人の中でも身分の高い者が幽閉される。
また、一度入れば二度と生きては出られないという事実で名高い。
そこで働く衛兵の殆どが殺人経験者で筆頭拷問官などは代々世襲で任命される。
彼らは幼少期から拷問に関する教育を受けており、日々いかにすれば人体に苦痛を与えられるか研究しているプロフェッショナルだ。
当代は、サムソン・ブッチ・ゴルデアン男爵という。
彼には皇王から『殺人許可証』が与えられていた。
これによりちょっとした手違いにより罪人を死亡させても罪に問われることはない。
そんな場所に、シャルロットとアンリは幽閉されていた。
衛兵の詰め所には縦穴式の便所がある。
便所の底ではブタが飼われていた。
ヒトの排泄物を処理するためである。
餌はソレ以外与えられないので常に飢えている。
そのブタの群れの中に奇妙なブタがいた。
そのブタには手足が無かった。
なので糞尿まみれの床に転がるしかなかった。
耳も削がれ鼻も焼かれ目は暗い空洞になっている。
そしてそのブタの口には歯もなかった。
しかし残念なことに喉を潰されていないので叫ぶことができる。
肉塊となる前のソレは健気にもこう叫んでいた。
「ボクは大丈夫だっ!何も心配いらない!!」
いまはヒトの声とは思えない鳴き声をあげることしか出来ない。
この国では罪人に栄誉ある死が与えられることはない。
そしてこの地方には『豚』はいない。
いるのは手足を短く切断された『ブタ』だけである。




