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悪夢

「邪魔だ」


 魔獣を一体、切り伏せた。赤黒い毛並みをした狼のような個体だった。翼も生えていたような気がする。

 ついさっき切り捨てたばかりだというのに、記憶がもうおぼろげになっているのは、数を数えるのが億劫になるほど魔獣を殺しているからだ。

 彼は魔獣の群れと対峙していた。一匹が斬り殺されたせいか、彼らは慎重になりこちらを様子伺いしている。


 …彼は、いつから戦い続けているのかさえ思い出せなかった。

 ただ覚えているのは、仲間たちはすでに力尽き倒れていることだ。魔王との戦いで、一人また一人と倒れていった。

 今は、一人きりで戦っている。いつ一人になってしまったのかも思い出せない。仲間たちとは長い間一緒に旅をしてきたのに、それも遠い過去のようだった。


 彼は皆のように、力尽きて倒れることは無かった。

 女神の加護を与えられているからだ。どんなに深い傷を負ってもすぐに治る。毒を受けてもすぐに治癒される、状態異常は効かない。肉体の疲労もまたすぐに回復される。

 倒れる要因は無かった。

 …だが、精神的な疲労は女神の加護を以てしても回復されない。

 魔獣の群れは尽きない。切り倒しても倒しても、魔王が召喚し続けているからだ。魔王の元に行こうとしても魔獣が邪魔をする。堂々巡りが続いていた。


 ――――シオン。


 ふと、彼の前に、黒いとんがり帽子をかぶった女性が現れた。

 姿は霞がかっているようにおぼろげだ。仲間の魔法使いフリージアと似た容姿をしているので彼女かと思ったが、髪色が違った。銀色の髪だ。


「誰?」


 幻はふと、かき消えた。

 魔獣がまた襲いかかってきたのだ。隙を付かれ肩を噛まれた。肉に牙が食い込む。動きを封じ好機と感じた魔獣たちが次々に飛びかかってきた。

 かみついてきた魔獣の頭部を掴み、無理矢理引き剥がした。常人の膂力では無理でも、彼の特異の力を発動させればできた。

 そして魔獣の体に剣を刺しすぐに捨てると、左腕が動かないまま、右手の剣で襲いかかってくる魔獣たちを切り伏せていく。

 怪我は女神の加護ですぐに癒えると言っても、痛みは感じる。肉を抉られ、骨を砕かれた痛みは奥歯をかみしめることでこらえた。


 そういえば、さっき何かを見たような気がする。何か言われたような。しおん? しおんって何だ?

 思い出せない。……まあ、いいか。

 疲れは精神を摩耗させ、思考を麻痺させる。彼はただ自動的に襲いかかってくる敵を切り捨てる存在になり果てていた。

 こめかみがズキンと痛んだ。頭の奥で誰かの声がする。


 ――魔王を倒しなさい。世界を救いなさい。


「うるさいな…。わかってるよ…」


 俺だって早く終わりたい。

 ……早く、終わらせて、俺は…。


 襲いかかってくる敵を切り捨てながら、群れに突入しようとしたとき、回復がまだ終わっていない左手がぐいっと引っ張られた。

 そこにいたのは、小さな子どもだった。俯いた子どもの耳の先端は尖っていた。

 彼女が顔を上げると、姿が変わっていた。子どもが大人の姿に変わった。

 黒いとんがり帽子に背中まで流れる銀の髪。さっき見た幻と同じ姿をしていることを思い出す。

 そして紫の瞳。それは彼の記憶の中にある彼女と同じ特徴を持っていた。


「リリス?」


 顔を上げた彼女は泣きそうな顔をしていた。


「シオン!」




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