第十四話 その5
総本山三階、展望室。
「決まり手が金的とは……ボルゾーイ流はいったいどういう教育をしているのでござるか?」
「超実戦派であります故、後遺症が残る攻め手以外は特に禁じておりませぬ。おりませぬが…………さすがにあれはあんまりであった事も事実ですな」
あの瞬間、二人してキュッと内股になったのは言うまでも無い。
「それで、次の相手はどんな人物なのでござるか?」
「最後の刺客は碧玉の段位を持つ、先の二人とは比べ物にならない実力者です」
「全くピンと来ない段位の名称でござるが、その口振りからすると相当な強敵のようでござるな」
マジックミラー越しに眼下を見ると、既にエリザが開始線についていた。
「ではさっそく出てもらうとしましょう……最後を飾るに相応しい戦士に!」
「勇ましい事言っても目的は女子と触れ合う事なんだよなぁ……」
禿頭の男がボタンを押し、扉が開く。
――どさっ。
「……ファッ!?」
「な、なんと……!」
扉から姿を現したのは、もちろんエリザの最後の対戦相手だ。
ただしその登場のし方は、扉が開くと同時に倒れ込むというものだった。
道着の乱れからその男には争った形跡が見られ、端的に言うと最後の対戦相手は、既に何者かによって気絶させられていた。
「フム……エリザ氏と対戦したい何者かに襲われたのでござろうか?」
「それはあり得ぬ話です。あのくじ引きは違える事の許されぬ厳正なるもの。師範代クラスでさえもハズレくじを受け入れたというのに、その結果に異を唱えるような真似をする者はボルゾーイ流男子空手には一人もおりませんぞ」
「え、このイベント師範代って呼ばれるような人も参加してんの?」
「いったい誰がこんな真似を…………はっ!? まさかボルゾーイ流新興空手の連中が……!」
「またややこしい団体を……」
誰が男を襲ったのか――その謎の答えは、エリザのすぐ目の前にあった。
「あ、あなたは……!」
倒れた男が現れた扉の先から、男を襲った者が姿を現した。
「久し振りね、エリザ」
エリザの前に現れたのは、エリザよりも一回り半ほど大きい体格の、筋骨隆々の女――
「……サリーナ」
それは、自称エリザのライバルであり、先日のボルゾーイ流女子空手の合宿で一戦を交えた相手――サリーナだった。
「どうしてあなたがここに……いや、それよりどうしてこの男を?」
「出場権を渡せと言ったのに聞かなかったからよ。だったら実力で排除するしかないわよね?」
男女間における運動能力の差は、二戦目の時に述べた通りだ。男と女が同程度に鍛えた者同士であるなら、基本的に勝つのは男なのである。
だがサリーナには、伝説の勇者のパーティーである戦士マッシュの末裔という『血統の力』があった。その力の前には、生物の理など何の意味も為さないのであった。
「なんて事を……いや、冷静に考えれば別にどうでもいいけど。じゃあ最初の問いに戻るけど、どうしてあなたがここに?」
「知れた事……あなたと決着をつけるためよ!」
「……決着?」
「こないだの合宿所では、忍術に鞍替えしたが故に敗北を喫した。だが今回の私は、純度100%の空手家。決着をつけるに相応しい形で、改めて勝負を挑むというわけよ!」
「え……空手の試合なら前に何回もやったわよね? もう勝負ついてるわよね? 私が全――」
「ここに最終戦を行うと、私サリーナが宣言するのよ!」
聞きたくないエリザのセリフをかき消すように、声を張り上げるサリーナだった。
「…………。ねぇ、これはアリなの? 対戦相手不在で不戦勝じゃない?」
エリザはマジックミラー越しに、主催者に問い掛ける。
『ふむ……確かにこれでは、試合の目的は果たされない。よってこの試合は、エリザ門下生の不戦勝が妥当といったところですな』
「なるほど……要するに、次はあんたを倒せば気兼ねなくエリザと試合が出来るって事ね」
『と、思ったのですが、特例として両名の試合を認める事とします』
「おい」
屈しない姿勢を一切見せる事無く、男はサリーナの要求を飲んだ。
『ではさっそく、試合開始!』
エリザの抗議の顔を見ないふりをして、男は試合開始の合図を下した。




