第十四話 その2
酒場『金蠕虫亭』――
(結局なんだったのかしら、あの手紙は……)
クエストボードを眺めつつ、エリザは手紙の事を考えていた。
――大切な御仁は預かった。返してほしくばうんぬんかんぬん……
最初は父親の事かと思ったが、すぐに思い直した。あの父親が誘拐などされるわけがないし、ボルゾーイ流として一枚噛んでいるのだとしたら、矢文など使わずにセバスチャン辺りをメッセンジャーにもっと直接的に伝えてくるはずだ。
その後対象範囲を知り合いレベルまで広げて考えてみても、該当しそうな人物はいなかった。例えばリンファは一大企業のお嬢様なので誘拐など未然に防げるだろうし、ミューズなんかはそんなのを誘拐して内側に引き込むなど自殺行為以外の何物でもない。ミィナだったら自分なんかよりもマー君がなんとかするだろうし、ノエルにはダニエルがいるしリーシャならタダ飯が食えると喜んで居座るだろう。
唯一可能性がありそうなのは小春だったが、彼女は今日も元気に広場で動画を流していた。
(……妙なイタズラだったわね)
選択肢が全て否定されたので、あれはイタズラだったと判断せざるを得なかった。ボルゾーイ流を騙って矢文を送りつけるイタズラの意図は全く分からなかったが。
「……あら、これは……」
エリザはふと目に留まった依頼書を剥がして、手に取った。
「遺跡の定期点検か。…………うん、危険も少なそうだし、これにしましょう」
エリザはそれを受付に持っていき、クエストを受注した。
「でもたまにはドカンと大きい収入が欲しいわね……」
だが酒場クエストには、そういったクエストはほとんど掲載されない。酒場クエストは難易度が低い代わりに、報酬もそれなりなのだ。
闇クエストや個人依頼のクエストなら報酬に夢も見られるのだが、あいにくとそういった伝手は今のエリザには無かった。
「……あれ。よく見たらこの遺跡、結構大きそうね……」
改めて依頼書を確認すると、クエストの遺跡はかなり広大だった。目的地まで行くだけならそう長い距離ではないのだが、例えば落とし穴で別の階層に落とされたりすると、戻るのにかなりの距離と複雑な道を歩かされそうだった。
「……これは道案内がいた方がいいわね」
道案内とは、この遺跡の地図が頭に入っている人物――即ち、開拓者であるカールの事だ。
「…………。そういえば最近カールの姿を見てないわね……」
エリザとカールは一緒に暮らしてはいるが、常に行動を共にしているわけではない。数日間顔を合わせなかったりする事も、さして珍しい事ではなかった。お互いクエストにも慣れたので、最近は別々に受ける事もある。
「…………。いや、まさかね……」
ふと浮かんだ可能性を頭を振って振り払い、エリザはパーソナルカードを確認した。
パーソナルカードには、これまで受けたクエストの履歴が記載されている。個別に受けるクエストもパーティーとして受ける決まりになっているので(そうしなければ報酬から生活費や活動費を出さずにちょろまかす事が出来てしまうので)、パーソナルカードを見ればカールが今何のクエストを受けているかを知る事が出来るのだ。
「リンファのクエストから何も受けていないわね……」
そしてそれは、矢文が送られてきてから今日までもクエストを受けていない事を示していた。
「…………。え、じゃあ手紙にあった私の大切な御仁って、まさか……」
消去法的に、そう結論付けざるを得なかった。
「…………」
エリザは立ち尽くしたまま、自身の状況を天秤にかけた。
片方は、新地開拓に開拓者が必要である事。手紙に書いてあった、大切な御仁に関する勘違いを正さなければならない事。
もう片方は、ボルゾーイ流空手の思惑通りになる事がなんとなく気に入らない事。単純に行くのが面倒くさい事。
「…………」
エリザは少しの逡巡の後、傍の椅子を引いてテーブル席に座った。
「すいませーん、モルゲヨッソの唐揚げ定食1つ」
そしてこの後の展開を見越して、まずは腹ごしらえをするのであった。




