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第十三話 その2

「フッ……懐かしいでござるな」


 この異世界に来たばかりの頃を振り返る。


 異世界にやってきたカールは、右も左も分からずに……というわけではなかった。元の世界で得た異世界転生作品の知識を活用して、その日の内に生計を立てるまでに至っていた(さすがにKOJIKIでお金を稼ぐ転生作品は無かったが)。


「そしてエリザ氏との出会いがあり、その後なんやかんやあって同居に至り、然る後に初クエストでござる」


 エリザ・フィル・ドミナリア。エルスト領主の娘で、自身のやらかしのせいでカールと同居するはめになった少女だ。


 初クエストは遺跡の調査だった。元々は子供のお使いのような簡単なクエストだったのだが、隠し通路を発見したせいで、未開拓のダンジョンの探索という難易度の高いクエストを行うはめになった。


 最終的にはボスと戦う事になったのだが、カールの機転によりそれを無力化。そして未開拓のダンジョンの地図を作成したという、現代では偉業とも言える事を成し遂げ、エリザのカールを見る目がこの時から変わったのであった。


「…………。……ム、今なにか……イヤ、気のせいでござろう。……次は小春氏との出会いでござったな」


 古牧小春。カールと同じく異世界転生してきた少女で、そしてカールとは違って彼女はチート能力を持っていた。


 三人は臨時パーティーを組んでクエストへ。簡単なクエストと思われたが意外と難航し、そしてどうにか目的を達成したかと思ったら、野生の熊に出くわした。


 だがそれも、カールの機転により無力化に成功。自分のチート能力の及ばない相手を無力化せしめたカールを、この日から小春はキモオタではなく年上の男性として見るようになったのであった。


「…………。やはり何かがおかしい……こう、何か気持ちの悪いものがまとわりついているかのような。……本当に気のせいでござるか?」


 だが考えても栓無いので、次の回想へ。


「次は……そう、確かミューズ氏でござるな」


 ミューズ・クルード。エルストの外れにある館に住む魔術師で、怪しげな研究に没頭している女だ。研究者のような風貌とは裏腹にレベルがカンストしているほどの実力の持ち主であり、バトルに出せばどんな相手にも圧勝というジョーカー的な存在だった。


 彼女の実験に協力した事で、カールとエリザは無人島に飛ばされてしまった。二人とも手ぶら同然だったが、カールのサバイバルスキルが助けとなり、二人は無人島でもどうにか事無きを得る事が出来た。


 そしてこの頃から、エリザはカールに淡い恋心を抱くようになっていた。


「ファッ!? やっぱりおかしいでござる! なんか拙者、一般異世界転生者のようなストーリーをなぞっている事になっているでござる!」


 カールはカールで無人島での生活で、ぽっちゃりだった体型が引き締まっていた。


「おファッ!? 拙者のクリームパンのような手が……鏡餅のような腹が……! いったい何が起こっているのでござるか!?」


 スリムになったカールは、実は意外なほど男前だった。


「地の文が仕事をしないでござる……こうなったら、かくなる上は」


【自分の容姿が一般異世界転生者みたいになっている事に、カールは戸惑うばかりだった。】


「無効にしたり変更したり出来ない括弧で、正常な地の文を表示するでござる。今時ガ〇ダムウォーネタなど読者の1%にも通じ無さそうでござるが」


 しかし見た目がイケメンでも中身は気持ち悪いオタクのままなので、女性陣は一瞬その見た目に恋心をくすぐられたものの、昔と変わらぬ言動にドン引きするのであった。


「あ、アカン……見た目イケメンの中身オタクって、これ作者の自己投影の誹りは免れないでござる」


【カールは自分の姿がイケメンになった事に、これっぽっちも喜ばしさを感じていなかった。】

【何故なら作者の自己投影を始めとする、いわゆる作者のお気に入り枠である事が透けて見えてしまうと、読者から一気に嫌われるからである。】


「確かにイケメンになった事は喜ぶべき事でござるが、作品の性質上どうせ美味しい思いなど全部未遂に終わる故、メリットが薄いのでござる」


【この手の作品では例え主人公がイケメンでも、現実世界のようにいろんな女子からモテたりムフフな事が出来たりするわけではない。せいぜいたまにラッキースケベが起きるくらいで、リアルのイケメンのように女をとっかえひっかえしようものなら読者からの好感度だだ下がりで打ち切りまっしぐらなのである。】


「クッ……しかしどうしたものか。なにゆえ拙者がイケメンになり、ヒロインたちの好感度が上がっているのでござろうか。……もしやこれがテコ入れでござるか? 確かにガ〇ダムウォーネタなんて入れてたらそれも止む無しと判断されても仕方ないでござるが……いやしかし、だからといってこれは……」


 カールが誰のハートを射止めるのか……それは、神のみぞ知るなのであった。


「ム、いつの間にやらしょーもない煽り文句を結びに回想が終わっているでござる。……さて」


【改めで自分の姿を確認する。細身でありながら筋肉質という主人公らしい体は、一向に元に戻る様子を見せなかった。】


「このままでは不味いでござる……キモオタと銘打ってイケメンでは、モテないと自称しつつ影ながら複数人の美少女に想われているという唾棄すべきキャラも同然でござる。読者から見放される前に、どうにかしてマシュマロボディを取り戻さねば……」


 と、そこへ。


「あの……お兄ちゃん」

「……ファッ?」


 ヘソの下の辺りからの声に目を向けると、三つ編みの少女がカールのすぐ傍に立っていた。


「だ、誰でござるか……?」

「道を、教えてくれませんか……?」


 少女が涙に揺れる瞳でカールを見上げる。

 どうやら迷子のようだ。


(ま、まさか……このタイミングで新キャラでござるか!?)


【しかもこれまた、あからさまな立ち位置の幼女だった。カールをお兄ちゃんと慕い、事あるごとに抱き着いてきて、たまに怖い夢を見たとか言って寝床に入ってくる感じの、一昔前のどこの作品にもいるであろうテンプレ幼女だった。】


(道を教えたら素直に回れ右してくれる…………わきゃあないでござろうな。あからさまにフラグの匂いがビンビンでござる。でなければ赤の他人を初対面でお兄ちゃん呼ばわりなどしてこないでござる)


【好みかどうか以前にこの年齢の女児を廃屋に住まわせるあるいは入り浸らせると各方面から問題視されそうなので、このフラグは何がなんでも回避する必要があった。】


「拙者もこの町に来たばかり故、別の人に訊いてほしいでござる」

「え……でもお兄ちゃん、開拓者だって……」

(ム……拙者これはたぶんどっかの改変された回想で、実際の拙者よりも有名になっているでござるな……)


【カールがイケメンだったら第二話での新地開拓の際に町を上げてのキャンペーンが行われていたはずだったので、おそらくスリムになった後で何かそういったイベントがあったのだろう。】


(……致し方あるまい、こうなったら――)


【カールは自分が回れ右をして、素早く駆け出した。】


(体が軽い……もう何も怖くないでござる! ……などという戯言はさて置き、三十六計逃げるに如かずでござる)


【スリムになった体のあまりのフットワークの軽さに感動すら覚えたが、それはともかくこういった時は逃げるに限る。】


【フラグを立てない一番の方法は、話に付き合わない事なのだ。】


 ……と、走っているとつま先に固い感触を感じた。それは石のように固く、そして足を振り抜けないほどに重かった。


「――ファッ!?」


 要するに、躓いていた。

 そのままカールは転倒し――そして意識を失った。


【フラグからは絶対に逃げられないのであった。】

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