第十三話 その1
とある日の朝。
「……退屈でござる」
この日はクエストの予定も無く、特にやるべき事も無い。一切の予定が入っていない、今日はいわゆる休日だった。
そんな休日の朝。カールは自室にて、早々に暇を持て余していた。
休日と言えば、社会の歯車となってあくせく働く人たちにとってはご褒美のようなものだが、ニートだったカールにとっては実にありふれた一日だ。存在そのものに価値を見出す時期は学生時代で終わりを迎え、ただ無為に過ごす事が当たり前になったカールにとって、する事の無い休日というのは実に空虚なものだった。
(絶対に働きたくないでござるというのは拙者の座右の銘でござるが、それが叶ったとて喜ばしい事は実は異世界には無いのでござる……)
元の世界であるならば、やる事が無いという事は無い。インドアに限っても、ソシャゲの日課や周回をこなしたり、ネトゲにダイブしたりする事が出来る。表に出れば種類豊富な食や購買意欲をそそられる品々との出会いがあり、良し悪しはともかく、カールの日曜日の毎日は退屈というものとは無縁だった。
だが異世界はどうか。先に挙げたものは存在せず、娯楽と言えば紙や駒を使った原始的な遊びくらい。一応広場では同郷の者が元の世界のようなものを上映しているが、同じ仕組みのやつで再生数が数万倍のものを知っている身としては、小春のそれはとても見れたものではない。
転生当初こそ見るもの全てが物珍しかったが、慣れきってしまった今では、異世界など娯楽に乏しい退屈な世界と言わざるを得ない。まるで高級料理に慣れてしまったお嬢様のように、カールは新鮮な娯楽に飢えているのであった。
「このハンバーガーうめぇですわ的なものも無さそうでござるし、かと言って働きたくはないし、もはや何をしていいか皆目見当もつかないでござる」
ごろん、とカールが横になる。エアコンの無いこの部屋では、とりあえず眠ろうにも夏の熱気がそれを許さなかった。
「他所の異世界転生者はいったいどのようにしてこういった暇を…………って、彼らは腐るほど立ってるフラグを消化するだけで日が暮れるでござるな」
全く参考にならなかった。
「フム……そろそろ拙者に影ながらフラグをおっ立てている美少女を登場させてもいい頃合いだと思うのでござるが。テコ入れしないとこの先生きのこれないでござる故」
カールの意見も参考程度にはもっともだが、しかしそれをやってしまうとキモオタというタイトルの根幹が揺らぐ事となり、更に話数稼ぎにと両者の関係にスポットを当て続けると、まるで気持ちに気付くか気付かないか告白するかしないかという恋の駆け引きを当人以外には至極どうでもいい悩みで修飾した恋愛クソドラマのようになってしまうので、品質保持のためにもカールにはフラグゼロを貫いてもらわないといけないのであった。
「暇潰しに無双しようにもチート能力持ってないし、さてどうしたものか……」
まるで田舎に帰って四日目くらいの小学生のように、何もやる事が思いつかなかった。
ちなみにエリザは外出している。とはいえ、言うまでも無くプライベートを一緒に過ごすほど親愛度は高くないので、外出していなかったとしても暇潰しの相手にはならないのだが。
「……とりあえず外に出るでござるか」
家にいても暑いだけなので、カールは外出する事にした。
平日朝のエルストの町を、あてもなく適当にぶらつく。この時間、カールの元の世界だと成人男性は職場にいて然るべき時間だが、この世界にはクエストという労働時間不定の仕事を生業とする者が数多くいるので、この時間に成人男性が徘徊しても特に職質されたりはしなかった。
「こういう時は酒場で食事というのが最も丸い過ごし方なのでござるが……」
財布(布袋)の口を広げ、所持金を確認する。中身は底が見えるくらいスカスカで、元の世界における紙幣の価値を持つ金貨の姿は見られない。端的に言うと、所持金数百円だった。
「外食などしている場合ではござらぬな」
財布の口を締めて、懐にしまう。
「KOJIKIで稼ごうにも、もはや拙者に金を稼げるほどの憐みは失せてしまったでござる」
KOJIKIでお金を恵んでもらうには、施す側が気分が良くなる程度には憐れな人間である必要がある。デフォルトのカールならその要件を充分に満たしているのだが、今のカールは領主の娘であるエリザとパーティーを組んでいる事、広場で動画を流している小春と知り合いである事、天才魔術師ミューズと仕事をした事がある事等、施しを与えなくても普通に生きていけると思われるてしまう要素が付加されているので、お金になるほどの憐れさは既に失われていた。
「初回の頃は働かなくとも食っていけるほどに稼げたのでござるがなぁ……」
初めてKOJIKIをした時の事を思い返す。
さて、勘のいい人なら既に察している事だろう。
ヒロインが全く登場しない、カール一人だけの回。
唐突に始まる、過去の回想。
そう――今回は、総集編だった。




