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第十二話 その7

 次の日。


「はい、これが歌詞よ」

 エリザがテーブルの上に、B5サイズの紙を差し出す。


「…………」

 それに対してカールは、その紙を見る事も無く不満そうな表情を浮かべていた。


「……ちょっと、なによその顔。歌詞に文句でもあるの?」

「いや……なにゆえ一行で一日が経ってしまっているのかと」

「まぁ昨日が昨日だし、それはね」


 三人は三度みたびリンファの家に集まっていた。予定通りの来訪なので30分待たされる事は無かったが、リンファとエリザの服装は一張羅のようなおめかしスタイルだった。


「昨日とは状況がまるで違うでござる! 美少女二人のお泊りイベントが一行で無かった事にされている事を、拙者は嘆いているのでござる!」

「は……? なにそれ、別に無かった事になんてなってないけど。昨日は確かに泊まったし」

「事実の問題ではなく描写の問題でござる! 女の子同士のお泊りと言えば、一緒に風呂に入ったり一緒のベッドに寝たりといった百合百合しいイベントが定石でござるが、そうでなくとも美少女二人が単に寝巻きでキャッキャしているだけでも拙者らにとっては鼻息が荒くならざるを得ない風景でござるのに、まさかの全カットとはこれはもう無能且つ鬼畜の所業に他ならないのでござる!」


 カールが憤り、早口で捲し立てる。


「相変わらずわけ分かんないけど……もしあんたのその怒りがそれらを覗き見られなかった事によるものなら、それらがあんたの言う『無かった事』になっているのは何よりだわ」

「……ム? その口振りだともしや、それらのイベントは実際に行われたという事でござるか?」

「まぁ、それは……歌詞を作る時間を少しでも多く取るための入浴時間の短縮と、昨日に限ってたまたまお客さん用の部屋が全部使用出来なくなっていたからという理由で、一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たりはしたわね」

「……デジマ?」


 カールが事実確認をするように視線をリンファに向ける。


「えぇ、相違無いわ。昨日は一緒にお風呂に入ったり一緒のベッドで寝たり…………、……ん、危ない危ない。危うく回想の渦に飲み込まれて寝落ちならぬ回想落ちするところだったわ……」

「フム……リンファ氏の原因不明の疾患はともかく、まさか本当に定石通りの展開が行われていたとは思わなんだでござるが……なるほど、それならカットも止む無しでござる。要するにそれらの映像は、BD特典というわけでござるな」


 合点がいったと、カールはサービスシーンのカットに理解を示した。


「なんだかよく分からないけど……それ以前の話というセリフが不意に頭に浮かんできたわ」

「さもありなん、未だスタート地点ですらござらぬ故。……ところで最初から気になってはいたのでござるが、エリザ氏の装備が布の服から有料アバターみたいになってるのはどういう事情でござるか?」


 今日のエリザの服装はいつもの機能性重視且つ簡素なものと違い、走る事すら想定されていないような、具体的な描写が億劫になるほどのファッショナブルなものだった。


「エリザの服は使用人が間違って洗濯しちゃったのよ。ごめんねエリザ、窮屈じゃない?」

「大丈夫、不思議なくらいぴったりよ」

「それはそうでしょ……コホン。それはよかったわ」

「空手やクエストやってる私と一日のほとんどをベッドの上で過ごしてるリンファとじゃ結構体格違うのに、本当に不思議よね」

「私じゃサイズ合わないから、しょうがないからその服はエリザにあげるわ。ただ……その服はとてもデリケートだから、普通の洗濯のし方だとボロボロになっちゃうのよね。だからそれを洗濯する時はうちにいらっしゃい。うちの洗濯機は特別性だから、例え普段着のように着倒しても問題無いわ。だからそれは普段着にすべきそうすべき」

「貰うのも悪い上に洗濯までしてもらうのは気が引けるってレベルじゃないから、ここぞって時が来るまで実家のクローゼットに大事に保管しておくわ」

「…………」


 常識的なエリザの対応に、とても不服そうなリンファだった。


「……さて、それでは歌詞を拝見させてもらうでござる」


 カールはテーブルに差し出された紙を手に取り、歌詞を確認した。


「……フム。メッセージ性の込められた、非常に良い歌詞でござるな」


 などと言っているが、もちろんカールに詩の良し悪しなど分かるはずもないので適当な事を言っただけである。


「そうでしょう? 現代社会の在り方にメスを入れるような、社会性のある歌詞だと自負しているわ。特に二行目からは――」

「それはともかく、次は曲でござるな」

「それはともかく?」

「まずそんな社会的意義のある歌詞を作った覚えが私には無いんだけど……」


 エリザとリンファの歌詞に対する齟齬もともかく。


「では拙者の記憶を頼りに曲を鼻歌にて演奏するので、誰か耳コピして譜面にしてほしいでござる」

「…………。リンファ、頼んだわ」

「無理よ、商人の娘が音楽の教育なんて受けてるわけないし。どちらかと言うとそれは領主の娘の領分じゃないの?」

「うちは流派ボルゾーイだし……」

「あっ……(察し)。じゃあ無理よね、絶対に」

「ボルゾーイはガサツの代名詞か何かでござるか?」


 エリザを見る限りではさもありなんとしか言いようが無かったが。

 ともあれ、三人に音楽の心得は無いので、曲を譜面に起こすのは無理そうだった。


「ってか曲を譜面に出来たとして、演奏はどうするの? もちろん私は楽器なんて扱えないわよ?」

「演奏にはあてがあるでござる。故にそのためにも楽譜は不可欠なのでござるが…………フム。そもそも丸パクリ故、改めてそうする必要は無いかもでござるな」

「……? よく分からないけど、音楽家に知り合いでもいるの?」

「拙者の元の世界では、誰でも音楽家になれるのでござる」

「……?」


 カールは楽曲を調達するために、一旦マオ邸を後にした。

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