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第十二話 その5

(リンファ氏に、利益を生めるほどの付加価値ブランドを付ける。……その方法、実は無いわけではないでござる)


 リンファ・マオ。スゥ領に拠点を持つ一大企業であるマオ家の娘。体が弱く、一日の大半を自室で過ごしている。エリザの友人で、自分の部屋なのにまるで外出でもするかのようなおめかしをするという趣味(?)がある。


 ……などというパーソナルデータはぶっちゃけどうでもよく、重要なのはただ一点。


 それは――リンファが美少女だという事だ。


 美少女とは、『女の子』という素体に『可愛い』や『美人』といった付加価値が付いたものだ。

 つまり言ってしまえばリンファは既に、美少女という付加価値ブランドが付いているのである。


(しかしこれだけでは足りぬでござる)


 美少女という存在は、それそのものでもお金を稼ぐ事は出来るが、正直それだけではたかが知れている。美少女というだけでたくさん稼ごうと――1000万Gほどの大金を稼ごうとするなら、この作品の年齢指定をR18にする必要性が生じる。キモたくはお子様でも安心して読む事の出来る作品なので、当然それはNGだ。


(美少女というブランドを下地にして、更なるブランドを付与する……)


 ここまで言えば、もうお分かりだろう。


 それは過激な露出やR18化の必要の全く無い、歌や握手でたくさんのお金を使わせる事の出来るブランド……そう、アイドルである。


「リンファ氏をアイドルデビューさせるでござる」


 リンファをアイドルにすれば、彼女の名前は立派なブランドとなる。大して美味くもないお菓子でもアイドルがいつも食べてると銘打てば爆売れするし、ペラペラのコースターにもアイドルの顔写真がプリントされていれば金貨の価値が生まれる。


 美少女で健全にお金を稼ごうとするなら、アイドルにしてしまうのが最善なのである。


「……は?」

「アイドル……?」


 しかし二人のリアクションは芳しくない。それは困惑していると言うよりは、意味が分かっていないといった様子だ。


(フム……この反応を見るに、この異世界にはアイドルというものはまだ確立されていないようでござるな)


 この世界では魔王を打ち倒した勇者を始めとする、偉業を成し遂げた者が祀り上げられる事はあるが、歌って踊れる美少女を崇める文化はまだ無いのであった。


「要するに、リンファ氏を信仰の対象にするという事でござる」

「え、何よそれは……」

「私を神様にするという事?」

「神様というわけでは……いや近しくはあるのでござるが。女子にとっての憧れの存在であり、男衆が興奮して鼻息を荒くするような存在――それがアイドルでござる」

「男女で捉え方が著しく異なるんだけど、その説明で合ってる?」

「概ね合ってるでござる」


 アイドルというのは見る者に様々な感情を抱かせる、まるでファンタジーのような存在なのである。


「よく分からないけど……そのアイドルというのになれば私の価値は高まるの?」

「それはもう、爆上がりでござる」


 アイドルという文化が無いのも追い風だ。カールの元の世界ではアイドルという存在は氾濫しており、ぽっと出がアイドルになったところで埋もれるのが関の山だ。加えて近年では別の職業にアイドルの名を冠した者まで現れており(例:アイドル声優(アフレコやナレーションではなく、歌やファンとの触れ合いを主軸とした声優)、アイドル芸人(ネタやトークの面白さよりも、若さやルックスで人気を博しているお笑い芸人))、純粋なアイドルというのは非常に芽が出にくくなっている。


 だがこの世界には、そういった競合相手は存在しない。一番最初にアイドルを宣言出来るというのは、非常に大きなアドバンテージなのである。


「リンファ氏がアイドルになれば、このクッキーのように適正価格以上の価値を対象物に与える事が可能となるのでござる」

「な、なるほど…………つまり私はネズミのメッフィーさんになるという事ね?」

「マスコットとはまた違うでござるが、とりあえずその認識でいいでござる」

「……分かったわ。私、アイドルになるわ」


 リンファはカールの提案を承諾した。


「……大丈夫なの? 説明されてもなお得体が知れないけど」

「まぁ、そうだけど……物は試しと言うか、とりあえずやるだけやってみるわ。失敗してもリスクは無さそうだし、ダメならダメで別の手を考えればいいだけだしね」


 この辺りはマオ家の娘といったところか、リンファは意外と冷静だった。


「アイドル宣言、しかと承ったでござる。では以降、拙者をプロデューサーと呼ぶように」

「プロデューサー? それはどういう意味? あとどうして?」

「そういう決まりなのでござる」


 アイドルを導く者はプロデューサーと相場が決まっている。そこに意味や理由などなく、世界の摂理的なやつでそういう事になっているのである。


「……分かったわ、プロデューサー。それで、私は何をすれば?」

「ウム、それはでござるな……。…………それは」


 そこでカールは気付く。


 そもそも自分は、プロデューサー業などやった事が無いという事に。


(……プロデューサーって何をする人なのでござるか? アシスタントの緑はガチャを回せとしか言わなかったでござる。いやそもそもプロデューサーがお金を払ってアイドルを舞台に立たせるって、それはもはやプロデューサーではなくただのファンでは?)


 などという、ファンをプロデューサーと呼称するのは摂理でもなんでもなく、気持ちよくお金を使わせるための単なる方便なのではという禁忌の気付きはともかく。


「……それは?」

「明日までに考えておくでござる」

「思いっきり見切り発車じゃない……」


 エリザのぼやきの通り、アイドルへの道は前途多難だった。

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