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第十二話 その4

 合法的な手段を以て、1000万Gの利益を生み出す事――


 それが、手紙に書かれていた内容だった。


「マオ家のしきたりなのよ。当主の出した課題に、当主の思惑に一番沿う形で達成した者が次期当主となる……っていうね」

「確かマオ家って先々代で財を成した企業のはずだけど、しきたりがあるほど歴史あったっけ……って疑問はともかくとして、さすがは一大企業といったところかしら。安易に長兄には継がせないという事なのね」

「別に私は次期当主の椅子になんて興味は無いのだけど、かといって課題を放棄するわけにもいかない。放棄したら最悪、スゥの実家に戻されてしまうという事もあり得るわ」

「最悪……って、実家は監獄みたいなところなの?」

「……? そんなわけないでしょ。むしろここよりも立派な屋敷よ」

「え、じゃあ別に戻っても問題無いんじゃ……」

「なっ……! ひ、酷いわエリザ、そんな事言うなんて……」


 リンファが涙目になった。


「え、えぇ……。……なんか知らないけど悪かったわよ。本当になんか知らないけど」

「ん……まぁそういう事情で、私はこれに参加しないといけない。そのために力を貸してほしいのよ」

「……いいけど、内容によるわよ。私たち冒険者としてはあんまり強くないし」


 片や魔力ゼロの開拓者、片や魔力ほぼゼロのプリンセス。一応低ランクのサバイバルスキルや高ランクの空手スキルを持ってはいるが、二人は野生の熊レベルの相手にすら手も足も出ないのだ。


「それは安心して。目的は1000万Gを稼ぐ事だから、荒事になる事は無いわ」

「1000万Gを稼ぎ出すとなれば荒事の匂いしかしないでござるが……」


 クッキーを片手に、カールが口を挟む。依頼を受ける以上、美少女二人の間に割って入らざるを得なかった。


「どうやって1000万Gを稼ぎ出すつもりでござるか?」

「それはもちろん、私の固有スキルを使って、よ」

「固有スキル……時にリンファ氏のジョブは何なのでござるか?」

「商人よ。なんたってマオ商会の娘だもの」

「フム……となると商人の固有スキルというのはあれでござるか。安く買って高く売るみたいな」

「全然違うわ。そんな中古屋みたいなのではなく、商人の固有スキルはこれよ」


 リンファは自分のパーソナルカードをテーブルに置いて、スキル欄を表示した。



 ブランディング……商人の固有スキル。販売物にブランドを付与する事が出来ます。付加価値は使用者のステータス、及び功績により変動。



「このスキルで私のブランドを立ち上げて、それを売り出してお金を作る……というわけよ」


 リンファが作ろうとしているのは、いわゆるブランド物だった。


「例えばこのクッキー。これはその辺のお菓子屋さんで売っているものの五倍くらい高いけど、素材や味はその辺のお菓子屋さんのものとそれほど変わらない。なのにどうして五倍も高いのかと言うと、これは有名テーマパークのお店でしか売っていないクッキーだから。このクッキーの箱に描かれているネズミのメッフィーさんというブランドが、このクッキーの価値を五倍にまで引き上げているのよ」

「フム……なるほど、つまりコラボカフェみたいなものでござるか。あの量あの質であの値段はブランドが無ければボッタクリもいいとこでござるからな(※カール個人の感想です)」

「コラボカフェが何なのかは分からないし言い方も非常に悪いけど、要するにそういう事。私というブランドで、適正価格以上の値段を付けて1000万Gの利益を上げるのが、今回の目的よ」


 ブランドには安心安全といった信用の保証という意味のものもあるが、リンファが目指すものは人気やステータスといった意味でのブランドだった。


「……話は分かったでござるが、具体的に何をするのでござるか? お菓子作りでも手伝えばいいのでござるか?」

「それはまだ決まってないけど、まずやるべき事が1つ。それは、私という個人の価値を上げる事よ」

「……フム」


 いくらブランドを付与したとしても、そのブランド自体が価値あるものとして顧客に認識されなければ、それはペイント以上の意味を持たない。『〇〇が愛用している』と銘打たれているものは、その〇〇が芸能人のような人気者だから値段や売り上げに一役買うのであって、その辺のオッサンの名前を〇〇に入れたところで、それは落書き以外の何物でもないのである。


「今の私は商人レベル1。これではブランドとしてはマオ家の娘である以外の価値は無い。そこで二人には、私の価値をそれ以上に高めてもらいたいの」

「……なるほど。つまりレベル上げでござるな」


 レベル上げ――それはRPGで強くなるための、装備を揃えると並ぶ最もポピュラーな手段だ。最新のエリアの雑魚敵を狩る、効率化を図るならメタル狩りやバブルローションによる隠しボス狩りなど、誰しも一度は経験があるだろう。


 だがこの異世界におけるレベルというものはステータスや修得スキルから算出されるものであって(※要申請)、1つ上げればパラメーターが上昇するというものではない。現時点ではこれくらいの強さだという事を表しているだけの、ただの目安に過ぎないのだ。


 故に、この異世界では『高レベルになる』事はあっても、自ら進んで『高レベルにする』事にはあまり意味は無いのだが……パーソナルカードの見栄えを良くするという観点からすれば、レベル上げをする事が無意味だとは言い切れない。特に今回の件のように、ブランド化した自分の価値を高めるという目的ならば、レベル上げも充分意味のあるものとなるのだ。


「で、具体的にどうやってレベルを上げるのでござるか?」


 この世界のレベルシステムは前述した通りなので、ひたすら雑魚モンスターを狩っていればレベルが上がるというものではない。例えば実際にそれを実行したとしても、筋力や持久力は上昇するだろうが、その他のステータス……例えば賢さや容姿といった戦闘に関係の無い数値は上がらないので、レベルは上がったとしてもせいぜい1か2程度だろう。それ以上上げたいのであれば、専門的な知識や優れた技術が必要となるような、総合的且つ高水準のステータスが必要となる敵を狩る(=狩れるようになる)必要がある。九九をひたすら反復するだけでは、微分積分は解けないのだ。


 この世界でレベルを上げるという事は、実は結構難しい事なのである。


「それを考えてほしいという事からが、今回の依頼よ」

「…………」


 今回のクエストは荒事でこそ無かったが、非常に難航しそうなクエストだった。

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