第十二話 その3
エリザとリンファが、紅茶とお菓子が並んだテーブルを挟んで談笑している。
その様子を、そこから離れた壁を背に、腕を組みながらカールが眺めていた。
(……フム)
美少女二人がお茶会をしている風景……それは眼福と言う他は無く、目の当たりにした時の感動は富士山頂上やグレートキャニオンをも凌ぐと言われている。
無論カールもその例に漏れず、眼鏡を眼球が見えなくなる感じに光らせてグラサンの代わりとし、視線を悟られぬようにガン見しているのだが……それはそれとして、少々思うところがあった。
(なにゆえリンファ氏は…………おめかしをしているのでござろうか?)
リンファの服装は、外出用と思しき白のカーディガンに、膝丈ほどのスカートというものだった。ブランド物という概念がこの世界にあるのは分からないが、あの服がカールが元の世界でヘビーローテーションしていた服やアニメキャラがプリントされたシャツが売っているようなランクの店では手に入らないようなものだという事はなんとなく窺えた。
とはいえ、それだけなら別段特筆すべきような事ではない。女の子がおしゃれするのは呼吸をするのと同様に当たり前の事であり、廃屋暮らしをしているみたいな特殊な事情でも無い限りは外出用のおめかしを家の中でするという事は決しておかしな事では無い。
だがリンファは違う。登場時のリンファはベッドの上だった。それはつまり二人が来訪するまで寝ていたという事であり、それならば服装は寝巻きでなければおかしい。人と会うから着替えたという事もあるだろうが、そうだとしてもせいぜい部屋着であり、あんなよそ行きの服を着るという事はまずあり得ないのだ。
(解せぬ事と言えばまだあるでござる。40と三日ぶりに会った領主の娘である友人の服装がその辺の市民と同レベルのものになっている事に対して驚きも疑問も持ってなかったり、エリザ氏が開拓者を求めていた事を知っていたような口振りだったりと……)
考えれば考えるほど、リンファの行動や言動には疑問符が浮かぶ。
(……フム。これは……)
そして、カールはとある結論に至った。
(……特に気にするほどの事ではなさそうでござるな)
そしてカールは、考えるのをやめた。凡INTのカールではそこまでが限界だった。
考えるのをやめたカールは、再びお茶会の様子のガン見に注力する事にした。
「……ねぇエリザ。なんかあの男、こっちをガン見しているような気がするわ」
「そう? ……上手い具合に眼鏡が光ってて眼球が見えないからよく分からないわね」
カールの眼鏡芸は一見ふざけているようでいて、意外と功を奏していた。
「それでエリザ。生活に不自由は無いの?」
エリザの近況をひとしきり聞いた後、リンファは尋ねた。
「あるか無いかで言えばあるとしか言いようが無いわね。水がタダで使えるのは助かってるけど」
エルストでは領主の方針で、水はタダで使えるようになっているのだ。
「……もしどうしても、耐え難いほどに生活が苦しいのであれば…………わ、私の家に住まわせてあげてもいいわよ」
「うーん……それはやめておくわ」
それは意外なほどの即答だった。
「なっ、なんでよっ!? ……ん、コホン。……どうして?」
「居心地のいいところに住んじゃったら開拓する気無くなっちゃいそうだからよ。下手したら一生ここに住み着いちゃうかもしれないわ」
「別にいいんだけどなぁ……」
「ん? なにか言った?」
「な、なにも言ってないわ……」
「それにこれは私に課せられた罰だし、そんな抜け道はお父様がそんな事許さないでしょう。だから魅力的な提案だけど、お断りするしかないのよね」
「……そう。それは残念ね……ええ、とても」
心底残念そうに、リンファは言葉を零した。
「失礼します、お嬢様」
二回のノックの後、メイドが部屋に入ってきた。
「あら、新しいお菓子? ……それと、壁際のアレにおにぎりでも差し上げて。たぶんお腹空いてるからこっちをガン見しているのだと思うわ」
「別にお腹が空いているからガン見しているわけではないでござる。いやガン見などしていないでござるが」
一応テーブルの上にはカールの分のカップもあるのだが、カールは敢えてこうして壁際に佇んでいた。
(あの中に割って入ったら『ガイアッッッ!』されそうな予感がするでござる故、拙者はこうしているのでござる)
あの中に入ってガイア(物理)されないためには、カンストするくらいの容姿のパラメーターが必要なのであった。
「……こちらを」
メイドはお菓子ではなく、赤い封筒をリンファに差し出した。
「……!? こ、この手紙は……」
リンファは顔色を変え、封を開けて中の手紙に目を通す。
そして読了した後、リンファは神妙な顔で深く息を吐いた。
「……顔色悪いけど、どうしたの? なんの手紙だったの?」
「…………。これは実家からの……父からの手紙です」
「父……って、もしかしてマオ商会の当主?」
リンファがこくんと頷く。
「って事は、単なる娘へのお手紙ってわけじゃなさそうね……」
蝋で封をされた赤い封筒の時点で、単なる親愛の手紙でない事は明白だった。
「……ねぇエリザ。あなたは冒険者なのよね?」
リンファが静かに尋ねる。
「そうよ。罰が終わるまでの期間限定だけど」
そう言いながら、クッキーに手を伸ばすエリザ。
「じゃあ――私がエリザに依頼をしてもいいって事よね?」
「ええ、それはもちろん…………、えっ?」
クッキーを口に咥えたまま、エリザは目を丸くしてリンファを見た。
「クエストを依頼するわ。エリザ……と、あっちの開拓者に」




