第十二話 その1
「ことここに来て、拙者ようやく思い至ったでござる」
とある日の正午前。
この日は特にクエストの予定も無く、エリザがリビングでのんびりしていると、そこにカールが闖入してきた。
「……新地開拓の話だったら聞いてあげるけど、それ以外なら部屋に戻りなさい。ただでさえ暑苦しいんだから」
季節は夏真っ盛り。エアコンなどあるはずもない廃屋の室内は、暑さに身を任せるようにしてその室温を上げていた。
「いい加減そろそろ秋に移ってもいい頃合いだと思うのでござるが、それはさて置き。拙者気付いたのでござる……この作品に決定的に足りないものが」
「またワケの分からない事を言い出したわね…………そういう話は小春にしなさい。あの子そういうの得意でしょ」
「最近ちょっと小春氏の出番多いので、それはやめておくでござる。それにこれ以上小春氏の出番を増やすと、主人公が誰だか分からなくなってしまうでござる」
まずカールにはチート能力が無いという大きな欠点があるので、小春を出した上でもしクエストを行う展開にでもなろうものなら、簡単に主役を持っていかれてしまうのだ。
「ってか最近はヒロインの方も危ういでござるよ。エリザ氏、霊魂分離装置にて拙者の中に入ったのを最後に、主要キャラらしい事はしていないでござる」
「いや知らないしそんなの。……割とロクな目に遭ってないってのはなんとなく分かるけど」
主人公とフラグの立たないヒロインは、出番や展開で割を食うか影が薄くなるかの二択なのである(※諸説あり)。
「……で、何が足りないってのよ」
「ウム……それはずばり、『泣き』でござる」
「泣き……は? なによそれ、泣きって」
「物語における、泣ける要素でござる。ちなみにそれは自分の不始末で家を追い出された事とか、お嬢様だったのに冒険者に身をやつした事とか、廃屋暮らしをするハメになった事とかといった情けなくて泣けてくるというものではなく、胸を打たれて感動した事により自然と涙が零れたという意味での泣けるでござる」
「……なんか唐突にディスられたような気がするわね」
「要するに、誰か大切な人が亡くなったとか、みんなの記憶から消えてしまったみたいな、涙腺を揺さぶるようなやつでござる」
「……あぁ、そういう」
いわゆる『泣ける作品』というものの存在は、エリザも知っていた。もちろん読んだ事は無いので内容は分からないが、その手の作品を読んで友人がいたく感動していたのを覚えていた。
「開拓とか能力者バトルとかしている場合ではなかったのでござる。観衆を泣かせる事こそが、バズるための近道にして王道だったのでござる」
古来より、泣ける作品というものは笑いや恋愛、推理やバトルといった作品よりも高尚とされる傾向がある。泣かせる事が笑わせたり得心させたりスカっとさせるよりも難しいという事も手伝って、いわゆる感動巨編には高評価を付ける人が多いのである(※キモたくスタッフ調べ)。
「……まぁ、言わんとするところはなんとなく分かるけど」
「故に、拙者はこの作品でもそれをやると宣言したのでござる。時にエリザ氏、前述した展開に適した人物に心当たりは無いでござるか?」
「えぇ……」
急な丸投げに呆れつつ、しかしそれでも考えてみたところ、エリザにはそれに該当する人物に心当たりがあった。
「セバスチャンなんてどう? もう年だしぴったりだと思うけど」
「それはただの老衰と物忘れでござる。拙者が欲するのは、例えば不治の病で余命幾ばくもない美少女とか、奇跡の時間切れで徐々にみんなの記憶から消えてしまう、本来は存在していないはずの美少女とかでござる」
「それはもう知り合う以前にこの世に存在しているかすら定かではないわね」
もはや別タイトルで出せそうなキャラクターだった。
「あ、でもちょっと待って…………さすがにそのままってわけにはいかないけど、近しい人なら知ってるかもしれない」
「ファッ!? それは真でござるか?」
「まぁ、概ねだけど……って、言い出したのあんたなのになんで驚いてるのよ」
「まさか本当にいるとは思わなかったでござる。ツチノコを探してきてと頼んだら、本当にツチノコを捕まえて来られたような気分でござる」
「無茶振りしてる自覚はあったのね」
「ともあれ、これで泣き展開の準備は整ったでござる。本日よりド〇泣きならぬキモ泣き、始動開始でござるwwwフヒヒwww」
「それだと単にキモい泣き方をしている人のようにしか聞こえないわね……」
キモい草を生やすカールに、それはもっともな指摘だった。




