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第十一話 その5

 ――ギャオォォォォン!


 超巨大モルゲヨッソの牙が、大地を抉る。


 この一撃は、先ほどまでの無差別攻撃によるものではない。獲物――黒衣の女を発見したモルゲヨッソが、彼女めがけて放った一撃だった。


「よしよし、作戦通り……」


 そこから離れた位置にあるバリケードの内側で、小春はスマホを横持ちしつつ小さくほくそ笑んだ。


 超大型モルゲヨッソは、既に姿の見えなくなった黒衣の女をあぶり出すように地面に攻撃を加えている。それはバリケードから離れた場所で行われており、そしてそれは、黒衣の女がデコイとしての充分な働きを見せている事の証でもあった。


 作戦通り、小春は超大型モルゲヨッソをバリケードから引き離す事に成功していた。


「……もしかしたらこのまま逃げられたりするんじゃない?」


 超大型モルゲヨッソの注意は今、三人にとっての明後日の方に向いている。このままの状態を維持出来るなら、相手に見つからずに逃げる事も出来そうだった。


「……確かに注意があっちに向いてる今なら、『観測』を待たずに逃げられるかもしれないね」


 それに『観測』が完了したとしても、レナのチート能力で超大型モルゲヨッソを倒せるとは限らないし、そもそもレナにチート能力が無い可能性もある。このチャンスは『観測』を待つためではなく、逃げるために使うべきなのかもしれなかった。


「…………。そういえばミズホさん。ディスヴィジョンの魔法は複数人にかける事は出来るの?」

「自分の魔力と習熟度では、あの効果量を維持するなら一人が限界ッスね」

「そうなんだ……」


 全員にかけられるならそもそもこんな回りくどい事などしなくても済むのだが、そんな都合良くはいかないようだった。


「やっぱり確実を期すためにも、レナさんのチート能力を使えるようにしておきたいかな」


 レナのチート能力に対しての考えは前述の通りだが、万が一を考えると備えは万全にしておきたかった。


(それにチート能力が役立たずって事も無いだろうし。作者がよほど逆張りするような奴じゃない限りはね)


 そう思いながら、何か重大な部分を見落としているような気がしないでもない小春だった(主に作品タイトル)。


「まぁ、この分なら『観測』が終わるまでの安全は確保されたも同然…………ん?」


 ふと見ると、超大型モルゲヨッソの体勢が変わっていた。


 獲物(黒衣の女)に向けてひたすら頭を地面に叩きつける攻撃を繰り返していたのに、今の超大型モルゲヨッソの体勢は、そうするためのどの動作にも当てはまらなかった。


「ん……なんだ? なんかあいつ、下半身をもぞもぞし出したけど……」

「なんだろ、諦めて帰るのかな……?」

「いや、違うッス。あれは……」


 モルゲヨッソは体の中ほど辺りを重心にし、振り向くように体を捩じる。


「あれは――薙ぎ払いッス!」


 重心の下はそれに連動するようにして――地面を擦りつつ旋回した。


「んなっ……!?」


 業を煮やしたモルゲヨッソが、ピンポイント攻撃から範囲攻撃に切り替えてきた。


 虚を突かれつつも、慌ててスマホを操作する小春。


 だが、それに果たして何の意味があるのか。成人女性と同程度のステータスしか持っていない黒衣の女が、あの巨躯の繰り出す薙ぎ払いに対していったいどんな抵抗が出来るというのか。


 不可視の魔法を纏ったまま、黒衣の女はほとんど抵抗も出来ずに、その質量に弾き飛ばされた。


「わっぷ……ちょっ、何がどうなった?」


 砂塵と砕けた植物が舞い上がる。バリケードは攻撃範囲にこそ含まれていなかったが、その余波は容赦なく三人に降りかかった。


「い、一応ボクの分身は無事、だけど……」


 スマホの画面には、黒衣の女のステータスが表示されている。


 残りHP2。ブロッキングしたおかげか消滅こそ免れたものの、倒れたまま動く事が出来ない状態だ。透明化は解除されていないのでとどめを刺される事は無いが、デコイの役割を果たすのはもはや不可能。今の黒衣の女に出来る事は、いよいよとなったら姿を見せて牙の餌食になるまでの一撃分の時間を稼ぐ事くらいだった。


「……マズいッス。今の一薙ぎは獲物を諦めた証。さっきまでの事など無かったように、再び超大型モルゲヨッソは私たち……と言うかターゲッティングした小春さんを探すために無差別攻撃を開始するッス!」

「えっ、そうなの!? 執念深いにも程があるなぁ……」

「うーん……これはいよいよとなったら小春を差し出して私たちは逃げさせてもらう…………という考えが頭をよぎらない内に、何か策を考えないといけないね」

「口に出した以上もう既に選択肢の1つに入っているような気もするけど、そうだね」


 実は自分が一番ヤバい事に気付き、小春の頬に一筋の冷や汗が流れた。


「大丈夫ッスよ、小春さん! 自分たちは決して小春さんを見捨てないッス! ところでさっきの人にかけたディスヴィジョン、解いてもいいッスか?」

「一応まだ解かないでおいてもらえるかな……」

「あ、そうッスか…………了解ッス」


 どことなく残念そうに返事をするミズホ。


「…………」


 ミズホの態度に、小春は一抹の不安を抱かずにはいられなかった。


「ま、まぁ……ボクの分身が囮として機能しなくなったとはいえ、引き離す事には成功しているわけだし。ここが攻撃される確率は最初よりもずっと低いはずだよ」


 さっきまでは、超大型モルゲヨッソとバリケードまでは『撮影スナップ』してから五秒と少しの距離だったが、今は囮作戦のおかげでかなり距離が開いている。この辺りが再び杭打ちのような攻撃に晒されるのは、かなり後になってからと見て間違い無いだろう。


「……小春。ちょいマズいかも」


 ――もっとも、それは相手が今後も同じ行動を取るのであれば、の話だが。


「え、なに、どうしたの?」

「あいつ……全部薙ぎ払うつもりだ」

「えっ……?」


 再度頭部をもたげるかと思いきや、超大型モルゲヨッソの体勢は、依然として薙ぎ払い体勢のままだった。


 言うなればこれは第二形態、あるいは二段階目。攻撃のついでに獲物を食らう事を諦め、まずは仕留めてからいただく事にしたモルゲヨッソは、攻撃パターンを頭部の振り下ろしから下半身による薙ぎ払いに変化させていた。


 範囲攻撃になった事で、ここが攻撃に巻き込まれる確率はぐっと上昇した。余波でバリケードが破壊される可能性も考えると、最初よりも悠長にはしていられない状況になっていた。


(これは…………詰んだ?)


 もはや日頃の行いに賭ける以外、小春には打開策は思いつかなかった。

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