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第十一話 その4

「と、とにかく30分持ちこたえよう!」


 現段階では、逃げても戦ってもゲームオーバーを迎える事になる。今の三人は、火山辺りに生息するボスを前に銅の剣を装備しているようなもの。まずは有効な武器……即ちレナのチート能力を、武器として扱えるようにする事が先決だ。


 よって何よりもまずは、レナのチート能力を知るための『観測』を終える事が肝要だった。


「でも30分って結構長くない? よっぽど運が良くないとダメっぽそうだけど」


 超巨大モルゲヨッソの無差別攻撃は絶えず続いている。30分という長さを無傷でやり過ごすには、何らかの手段を用いなければ厳しいと言わざるを得なかった。


「まぁ、そうだよね…………ところでミズホさん」

「なんスか?」

「ミズホさんはどうしてここに残ったの? いや、珍味がどうのって話は聞いたけど、何の勝算があってあの化け物を前にしてそれにありつこうとしてるの?」


 ミズホが食を求めてここに残ったという話はさっき聞いた。


 だがそれはあくまで動機だ。目的を果たすためには、動機だけでは立ち行かない。強くなるためには修行が必要なように、良い学校に入るためには勉強が必要なように――食を求めるには、超巨大モルゲヨッソをどうにかする手段が必要なのだ。


「あぁ、それはこれッス――ディスヴィジョン」

 ミズホがそう呪文を唱えると、ミズホの姿が風景に溶け込むようにして消えた。



 ディスヴィジョン……対象に薄い水の膜を纏わせ、それに周囲の風景を反映させて対象の姿を不可視状態にします。要修得:四大元素【水】C以上。



「これで姿を消して、モルゲヨッソに見つからずに珍味にありつくって寸法ッス」


 ミズホの姿が見えないまま、声だけが聞こえた。注意深く見れば微妙に人型に景色が歪んでいるが、逆に言えばそうでもしなければ、そこにいる事には気付かないだろう。


 ましてや遠目から見る分には――超巨大モルゲヨッソの頭の高さから見る分には、完全に消えたと言ってもいいくらいだった。


「え、なにこれすごっ」

「ここに来て初めてちゃんとした魔法を見た気がするよ」


 感嘆の声を漏らす小春とレナ。キモオタと脳筋からは一生見られないであろう光景だった。


「いやぁ、それほどでも……でへへ」

「これなら囮に使えそうだね」

「ん、そだね」

「へへ……え?」

「作戦はこうだよ。まず姿を見せたままあれの前に出る。そしてあいつに見つかったら、こことは別の方向に逃げつつ姿を消す。そうすればあいつは目標を見失いつつも逃げた方向ばかりに気が向いて、ここが攻撃される可能性はぐっと減るって寸法さ」

「ん、いいねそれ。採用」


 小春の策に、レナがサムズアップ(いいね)をした。


「ちょ、ちょっと待つッス! それ、逃げる人がものすごく危険じゃないッスか!?」

「まぁ、そうだね。常にアレからの攻撃に晒されるわけだし」

「頑張らないとね」

「きゃ、却下ッスよそんなの! 下手したら自分、死んじゃうじゃないッスか!」


 不可視状態を解除しつつ、当然の如くミズホが反対を表明した。


「あ、違う違う。魔法を使ってもらうのはそうだけど、かけてもらうのはこっち」


 そう言って、小春は正座してじっとしている黒衣の女を指した。


「この子……ボクの分身に透明化の魔法をかけてもらうんだよ。この子なら潰されても丸一日使えなくなるだけで、人的被害は無いからね」

「あ、そういう事ッスか。なんだ、小春さんもレナさんも人が悪い――」

「あ、そういう事だったんだ」

「…………」


 ともあれ、作戦は決まった。


 まずミズホがディスヴィジョンを黒衣の女に使う。


 次に黒衣の女が姿を見せたままバリケードから出て、超大型モルゲヨッソに発見される。


 発見されたら黒衣の女にバリケードとは別方向に走らせつつ、ミズホにディスヴィジョンの透明化を発動してもらう。


 結果、超大型モルゲヨッソは見えなくなった獲物を探して、バリケードとは別の場所にばかり注意を向けるようになる……というわけだ。


「もしあいつが諦めて無差別攻撃を再開したら、その都度姿を見せて注意を引くって感じで。……いやそれにしても、まさかミズホさんがこんなすごい魔法を使えるなんてね。頼りになるなぁ」


 再び小春が感嘆の息を漏らす。

 ただし今度は、若干の媚びを含めつつ。


「そ、そうッスか? 別にそこまで大した魔法じゃないッスけど……」

「少なくともボクの周りにはいないからね、そういう真っ当にすごい人。尊敬しちゃうなぁ~」

「いやいやそんな、おだてても何も出ないッスよ……?」

「そんな謙遜しなくてもいいって。頼りにしてるよ、マジで」


 そんな小春に、レナも追従した。


「作戦の成否はミズホさんに懸かってるからね。そんな大役、ミズホさんにしか出来ないよ」

「ホント格好いいよね、そういうのをこなせるのって。憧れちゃう、みたいな」

「いやいや、持ち上げすぎッスよお二人とも。……でもそこまで言われると、頑張らないわけにはいかないッスね」


 ふんすと意気込んで、ミズホは魔法をかけるために黒衣の女と向き合った。


(……うん、これなら)

(こんなもんで大丈夫かな……)


 その傍ら、小春とレナは同じ事を考えていた。


(ぶっちゃけミズホさん、あの魔法使えば一人で逃げられるからね……)

(あそこまで言っておけば、「それじゃお先に」とはならないでしょ……)


 二人の思惑が、奇跡的にシンクロしたのであった。

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