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第十一話 その2

 大鳴動が、大気を震わせる。


 砂が波立ち、草木は葉を擦らせてざわめき立つ。小動物はその発生源から逃れるように、各々の持つ最速の手段を全力で用いてこの場から離れていく。


 たった一つの咆哮で、それをもたらした者――超巨大モルゲヨッソが、この場における頂点であると全ての生物の本能に深く刻まれた。


(……あれっ、これヤバくない?)


 超巨大モルゲヨッソを見上げつつ、小春が立ち尽くす。


 遥か高くに頭部のあるこのモルゲヨッソは、まさに規格外。お台場に立つ等身大ロボットよりも遥かに大きい。生物の強弱を決定付けるものは、結局はフィジカルなのだと思わされる存在だった。


「……で、ですがっ! 敵は強大ですが、こちらには歴戦の勇士たちがたくさんいます!」


 小春はなんとか気を取り直して、若干震え気味の手で撮影と実況を再開した。


 そう――この場には、いくつもの戦場を潜り抜けてきた戦士たちがいる。一瞬の油断が命取りとなる戦場をいくつも乗り越えてきた、歴戦の勇士だ。通常サイズのモルゲヨッソなどものともしない彼らなら、力を合わせれば超大型にだって勝てるはずなのだ。


「彼らなら必ずや――」


 そしてカメラを戦士たちに向けると――さっきまでその辺でだべっていたはずだった歴戦の勇士たちの姿が、忽然と消えていた。


「あ、あれっ……?」


 周囲を見回すと、彼らのみならず、人っ子一人見当たらなかった。


「みんなどこに……」


 不思議に思っていると、今度は車輪が地面を擦る音が聞こえた。


「……ん?」


 音の方に目を向けると、小春はここにやってきた全ての馬車が全速力でこの場から遠ざかっているところを目撃した。


「…………は?」


 誰もいなくなったクエストエリアと、帰り道を全力で駆ける馬車。


 総括すると――歴戦の勇士含む大狩猟クエストの参加者は、小春を残してこの場から逃げ出していた。


「え、嘘、ちょっと待ってよ普通女の子一人置いて逃げる!? ってか判断早すぎじゃない!? それともあいつら歴戦の勇士っぽいのは見た目だけで、実際は単なる一般冒険者だったとかじゃないよね……?」


 彼らの素性はともかく(概ね当たってはいたが)。


 小春は一人、超巨大モルゲヨッソのいる戦場に取り残されていた。


「…………。ええっと……」

 ちらりと超大型モルゲヨッソに視線を向ける。


 ――ギャオォォォォォォン!


 まるで暴風のような咆哮が、小春の全身に叩きつけられた。


「…………。ふっ……」


 咆哮で乱れた髪を軽く整えつつ、小春は不敵な笑みを浮かべた。


 少女対超巨大生物という話にならないくらい絶体絶命な状況であるにもかかわらず、小春は余裕の表情を浮かべていた。


「この状況……ボクが貧弱一般冒険者だったなら、これからの時間を全て神への祈りに使うところだろうね。でもボクはそうではなく、異世界からやってきたチート能力者…………あの程度の相手、物の数じゃあないんだよねっ!」


 小春はスマホを特撮ヒーローみたいに顔の前に構えて、スキルを発動した。


「出でよ、もう一人のボク――『投影傀儡(プロジェクション)』ッ!」


 小春の力ある言葉に呼応して、彼女の前に黒衣の女が出現した。


 目隠しを巻いた、ゆったりとした黒衣を纏った女。小春曰く未来の自分の像である、彼女のアバターだ。


「確かにあの魔物……魔物なのかどうかは知らないけど、あれは強いのだと思う。だけど所詮は食肉用動物、言うなれば牛や豚が大きくなったようなもの。魔物に置き換えればミノタウロスかオークと同程度の相手、ヴァンパイアの敵じゃないんだよね」


 そのアバター――黒衣の女には、『観測』というスキルでスマホに記録した他者のステータスを入力する事が出来る。そうする事で黒衣の女は各種パラメーターがそれと同値になり、同様のスキルを使う事が出来るようになる。端的に言えば『投影傀儡(プロジェクション)』は、記録したステータスの持ち主のコピーを生み出すスキルだった。


 そして小春はかつて古城でのクエストで、マリィ――ヴァンパイアのステータスを記録していた。それを入力すれば、黒衣の女を魔力カンストレベルのヴァンパイアと同等の存在にする事が出来るのであった。


「あの時の戦いで、ヴァンパイア……マリィさんのスキルはだいたい把握してる。あれくらいの外殻なら、問題無くバラバラに出来るはず」


 カール対平原バニットの裏で行っていた能力者バトルを思い返し、小春は勝利を確信した。


「それじゃさっそく――」


 そして小春はマリィのステータスを黒衣の女に移そうとしたところで――指が止まった。


「…………あれっ? 記録が、無い……」


 スマホの画面を縦に横にとフリックする。


 しかしどこを見ても、ステータス保存領域にマリィの……と言うか、一切の記録は残ってなかった。


「…………。……あ、そうだ思い出した」


 セーブデータが全部消えてた(絶望)理由に、小春はすぐに思い至った。


 『観測』スキルによるステータスの保存には、一週間という期限があった。期限を設けないと、黒衣の女がずっと同じ最強の一体(現時点ではマリィ)のコピーでしかなくなるからだ。


 古城のクエストからはもう一週間以上過ぎているので、マリィのステータスはそのルールに従ってスマホから消去されていたのであった。


 ――ギャオォォォォォン!


「……あれっ、これヤバくない?」


 超巨大モルゲヨッソの咆哮が、再び小春の髪を乱すのであった。

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