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第十一話 その1

「どうもみなさん、おはこんばんちは(激寒)。えー、今日はなんと、狩猟クエストの取材にやってきました! わーぱちぱち。大人数で行われるこの大狩猟クエスト、今回の動画では現場のリアルをお送りしたいと思います!」


 ガタガタと揺れる馬車の中。座席はおろか窓すら無い、荷台に等しい薄暗い馬車の中で、10を超える人数の武装した男たちが壁を背にして座っていた。


 そんな男たちの中にあって場違いなほど少女である小春は、能天気にスマホに向かって喋っていた。


「オープニングはこんなものかな。ちょっと寂しい気もするけどここ異世界だし、時間を稼ぐためだけの微妙に長い低クオリティーのオープニングを作る必要は無いよね」


 小春の動画は見物料という形で収入を得ているので、広告収入のために動画時間を引き延ばす必要は無いのであった。


「……オイ、はしゃいでるんじゃあないぞ」


 咎めるような野太い声が、小春に向けられた。


 小春が声に振り向くと、頭からつま先まで鎧に身を包んだ、40代と思しき厳つめな顔をした男が、渋面を浮かべながら彼女を見ていた。


「あっ、ハイ。ところで取材はOKですか?」

「はしゃぐなと言ったんだ。ここから先は一瞬の油断が命取りとなる戦場、女子供がいていい場所じゃない。その証拠に周りをよく見てみるんだな」

「は、はぁ……」


 確かに男の言う通り、この馬車にいるのはとても女子供には見えない、一瞬の油断が命取りになる戦場を潜り抜けてきた風の戦士ばかりだった。


(……まぁ、他の馬車には普通に女の人もいるんだけどね)


 たまたまこの馬車にそんな感じの戦士系ジョブの男が固まっているだけで、他の馬車には魔法職の女も結構いるのであった。


 それはともかく、男の言葉も手伝って、馬車内は取材が出来るような空気ではなくなってしまった。


(……乗る馬車間違えたかな)


 パッと見で武勇伝が多く聞けそうな馬車に乗り込んだのだが、あてが外れてしまった。誰も彼も歴戦の戦士風の風貌なのはいいが、さっきの男の言葉を除いても全員まずデフォルトでおいそれとは近寄れないような雰囲気を放っていた。


(参ったな……動画作れないとロハなんだけど)


 このクエストに、小春は正式に参加しているわけではない。後学のための見学という形で同行させてもらっている立場なので、見物料が取れるような動画が撮れなければ無駄骨となってしまうのだった。


(……まぁいいや、とりあえず動画の字幕でも作っておこう)


 大狩猟クエスト。

 それは、複数のパーティーで行う狩猟クエストを指す言葉だ。

 狩猟対象となるのは、人々の生活に関係しているものが多い。と言うか、ほとんどの場合は食肉用の動物だ。畜産業が100グラム99Gで豚コマが買えるほど発達していないこの世界では、食用のお肉のほとんどが狩猟によるものなのである。


「これを動画の隅っこに表示しておけばクエスト内容は分かりやすいかな。こういう視聴者への配慮を怠らない姿勢が、再生数アップの秘訣なんだよね」


 実際はこんな長い字幕を動画の隅に表示したところで文字が小さくて読めないだけなのだが、それに気付かない辺りが小春が底辺配信者たる所以なのであった。


 やがて目的地に到着し、馬車が停止した。


「うーんっ…………って、ここは」


 馬車から降り、体をほぐしつつ馬が頭を向けている方を見ると、その風景に小春は目を丸くした。


 そこには砂漠が広がっていた。


「…………。いや、なんで砂漠?」


 エルストに砂漠があるなんて話は聞いた事が無い。


 それにここは砂漠にしてはそれらしい気温ではなく、乾いた風も感じない。砂漠化するような場所にしては、ここは至って普通の夏の気候だった。


 そして何より、振り向けば普通に草木が生えていた。オアシスのものではない、エルストの町を出てすぐの平原と地続きの緑だ。


 まるで境界線に沿うかのようにして砂漠と緑が区分けされているという、それはなんとも不可思議な光景だった。


「ここは奴らの巣だ。奴らは自分の巣を砂地に変えちまうんだ」


 いつの間にか傍に立っていたさっきの男が、こうなっている理由をちょうといい感じに説明してくれた。


「はぁ……奴ら?」


 小張が再び砂漠に目を向けると、砂が僅かに振動した。

 その直後――黒い外殻に身を包んだムカデのような生き物が、砂の中から姿を現した。


「奴らモルゲヨッソは、主食である虫や魔物ごと緑を食い潰すんだ」

「えっ、なにあれキモっ! まるで不快害虫みた…………え、今なんて? モルゲヨッソって言った?」

「女子供は下がってな。ここからは男の仕事だ」


 言うが早いか、男は剣を抜いて砂漠に身を投じた。


 砂漠には既に何十人もの冒険者が、ある者は武器を、ある者は杖を手に、黒殻蟲モルゲヨッソの群れに立ち向かっていた。


「……と、とりあえず動画撮らないと」


 あれが普段食べているモルゲヨッソなのかどうかはひとまず頭の片隅に置いといて(本当は完全に忘れてしまいたいが)、小春はスマホを録画モードにして砂漠に向けた。


「えー、こほん。今数多の戦士たちが、モル……モルゲヨッソと戦闘をしています! 今あっちの人が斬っ……あっ、あれは火の玉、炎の魔法です! そしてモルゲヨッ……棍棒の一撃で外殻がヘコみ、更に……おっとあの人膝をついてピンチ……いやあれは靴ひもを直し――おおっとあっちでは天高くジャンプしてモルゲヨッソを斬りつけ……いや外した! 砂埃が舞い、そして……そして、氷の魔法がモルゲヨッ……いや地面に突き刺さった! 外してます!」


 ミュート推奨なほどヘッタクソな実況と共に、あちこちにスマホを向ける小春。そこまで目まぐるしくカメラを動かすと視聴者は画面酔いしてしまうのだが、そういう事に気付かない辺りが小春が底辺配信者たる所以だった。


 それはさて置き、クエストは順調に進んでいた。冒険者側に負傷者は無く、討伐されたモルゲヨッソの数は時間を追うごとに増えていった。


(う~ん…………やっぱりキモい)


 全長約5メートル。全身は黒い外殻に覆われていて、頭部には鋏状の牙が生えている。まるで芋虫とムカデが合わさったような、生理的な嫌悪感を抱かずにはいられないフォルムだった。


「……っと。そろそろ終わるようですね」


 気付けば砂の上には、もう動いているモルゲヨッソはいなかった。冒険者たちは剣を収め、続々と砂漠から引き上げていく。


 討伐部隊の仕事はここまで。次は回収部隊が、討伐されたモルゲヨッソを回収する番だ。


「はい、というわけで。今回の大狩猟クエストは大成功という結果に――」


 回収に見所は無いだろうと動画を締めようとした矢先、小春は足元に揺れを感じた。


「あれ、まだ出てくるのかな? でもそれにしては――」


 それにしては揺れが強いなと思ったら――そうであった理由が、すぐに出現した。


 ――ギャオォォォォォン!


「…………は?」


 今までのものとは比較にならないくらいの超巨大なモルゲヨッソが、砂の中から出現した。

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