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第十話 その6

「で、ここは何村なの? あんま日本っぽくないから、ローマ村とかブリテン村とかそんな感じ?」

「ここは異世界でござる」

「異世界村……? さっきも言ってたけどなにそれ、遊園地のアトラクションか何か?」

「……ウーム」


 異世界というものの知識が全く無いせいか、レナは思った以上に理解してくれない。

 そしてカールはカールで、上手く説明出来ないでいた。


(この手の話は結構やってるはずなのに、何故か勝手が分からないでござる……)


 普段はこういったやり取りはカットされているので、何度かやっているはずなのに慣れない作業という不思議な事になっていた。


「こういう時は異世界らしさを見せれば一発なのでござるが……」


 あいにくとカールもエリザも、異世界らしい事は何一つ出来なかった。自分はともかく異世界の現地人であるエリザも異世界らしい事が出来ないのは、さすがのカールもこれ設定ミスってるんじゃないかと思い始めた。


「……まぁ、いいやそれはまた今度で。明日も仕事あるし、とりあえず今日は帰るわ」

「帰れないでござるよ」

「……は? なんでよ、もう終電無いの? いやまだお日様高いんだけど」

「さて何と言ったものか……あ、そうだ。レナ氏、お金は持ってるでござるか?」

「あるけど……それがなによ」

「ここの支払いが可能なのか否かが少々気になって、でござる」

「いや別にこれくらい、小学生じゃないんだから……」


 レナはスカートのポケットから財布を取り出して、一番安い紙幣をテーブルに置いた。


「……あ、ここが遊園地ならもう一枚必要かな。こういうところってぼったくり一歩手前くらい値が張るし」

「それ使えないでござるよ」

「……は? なんでよ、偽札とがそういうんじゃない……な、うん。透かし入ってるし」

「そうではなく、ここでは日本円は使えないのでござる」

「……え、ここ日本円使えないの? じゃあここは外国…………いやさっきの子とかこっちの子もバリバリ日本語喋ってるけど。なんだったらさっきのウエイトレスにも日本語で注文したけど」

「何故異世界で日本語が普通に通じているのかはおそらく誰にも分からぬ事でござるが、ひとまずそれは置いといて。ここの通貨はこれでござる」


 カールはテーブルの上に、1000G金貨を一枚置いた。


「……なにこれ、メダル……じゃない、金貨?」

「これがこの世界の通貨でござる」

「…………」


 さすがのレナも、なんだかおかしいなと思い始めた。


「……あのさ、軽井沢さ。冗談やってるつもりなら今すぐやめてくんないかな」

「これが冗談を言っているような顔に見えるでござるか?」


 カールが真面目な顔でレナを見つめる。


「…………。いや分からん。顔に肉付きすぎてるから表情から感情とか読み取れんし。あとキモい」


 ここまで顔がパンパンだとどんな顔をしててもある程度は面白おかしいので、真剣さの程度がいまいち伝わらなかった。


「……んじゃあまぁ、仮にあんたの話を信じるとして? そしたらここは異世界とかいう日本語は通じるけど日本じゃない場所で、家に帰る手段は無くて、私が持ってるお金も使えないって事?」

「然り」

「いや然りて、そんなあっさり。えぇ……じゃあヤバいじゃんここ。なんでこんなとこにいんの私……」

「…………。これは仮説なのでござるが、ひょっとしてレナ氏は元の世界……前の生活に未練が無いのではござらぬか?」

「――――」


 カールの問いに、レナは思い返す。

 ここで目を覚ます前、自分は何をしていたか。


 恋人に振られて、公園でやけ酒をあおっていた。しかも本気だったのは自分だけで、相手はちょっとした火遊び程度の意識だった。仕事面でも適当にアルバイトしてるだけで将来の目標も見通しも無く、ただ無為に年月を重ねているだけだった。


 そんな生活に未練があるかと訊かれたら――確かに首を捻らざるを得なかった。


「……あんたは帰りたいとは思わないの?」

「拙者にとっては部屋でゲームをしているかゲームみたいな世界で生活するか程度の違いでござる故、特に思うところは無いでござる」

「……あ、そ」


 何の悩みも無さそうな顔で、能天気な事を言うカール。

 そんなカールを見ていると、あれこれ考えていたのがアホらしくなってきた。


「……まぁ、いいか。よく分かんないけど、普通に生活する分には問題無い場所なんでしょ?」

「然り。労働の種類に多少の違いはあれど、働いてお金を稼いで生活するという人生の様式は依然変わり無いでござる」

「あんたの口から労働という単語が出るとわけもなく違和感を覚えるけど、まぁ分かったよ」

「ム……それでは」

「ここは異世界って場所で、私が住んでた世界とは全く別の世界って事を受け入れるよ。あれこれ考えても、ここがそういう場所だって事は事実としてあるわけだし」


 レナは割り切って、納得してみせた。


「左様でござるか。……フゥ、ようやく肩の荷が下りたでござる」


 これ系のやり取りは思った以上に手間だったので、今後もカット安定だと思った。


「って事は、だ。つまり私はお金を稼がないといけないわけだ。今持ってるお金は使えないし、そうしないとここの支払いも出来ない。あんたが注文大丈夫かって訊いてきたのはこういうわけだったんだね」

「然り。まぁここの支払いくらいなら初回特典として都合しても構わぬでござるが」

「ところでここでの仕事って、さっきみたいな感じのやつで合ってる?」

「……まぁ、そうでござるな。カフェの店員のような元の世界でもポピュラーな仕事もあるでござるが、先ほどのような個人の依頼を受けて問題を解決するといった、クエストと称されるものもあるでござる」

「んじゃあさ、さっきのアレは私がクエストをクリアしたって事でいいんだよね?」

「……ファッ?」


 話の流れが変わった。


「って事はさ、その報酬? 的なアレは私が受け取るのが正しいお金の流れだと思うんだけど、どう?」

「…………。エリザえもん、助力を乞うでござる」


 正論から報酬を守るべく、カールはエリザえもんに助けを求めた。


「えもんって何よ、えもんって。……まぁ、しょうがないんじゃない? 実際そうだったわけだし」

「判断が早すぎる」


 ここの支払いを持って器の大きいところを見せつつ、当面の生活費を貸すという形で援助しレナから感謝と尊敬の眼差しを受けるというカールの目論見が破綻した瞬間だった。


「……ぐぬぬ」


 カールは袋から報酬と同額の金貨を取り出し、レナに渡した。


「はいどうも……って、どれがどれだけの価値があるか分からないんだけど」

「貨幣の価値は記されている数字通りでござる。だいたい1Gが1円くらいと覚えておけば間違いないでござる」


 ちなみに貨幣の種類は、小さい順から1G銅貨、5G銅貨、10G銅貨、50G銀貨、100G銀貨、500G銀貨、1000G金貨、5000G金貨、10000G金貨である。


「意味不明なくらい馴染み深いんだけど、やっぱりここ日本じゃない?」

「異世界でござる」

「あ、そ……まぁ、いいけど」


 異世界だと納得したものの、どうにもこの世界から日本感が拭えないレナであった。

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