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第九話 その17

 次の日。


「此度はお世話になりました」


 今日エルストを発つというノエルとダニエルが、別れの挨拶をしに廃屋にやってきた。


「こちらも懐具合がホクホク故、お世話になったのはお互い様でござる」


 玄関先で、ぽんっと懐を叩くカール。クエストの報酬と財宝を見つけた事による上乗せボーナスで、カールは当分の間はお金の心配をしなくて済むほどの金額を手にしていた。


「ところで……小春さんは一緒にお住まいではないのですか? ある意味彼女こそ最大の功労者とも言えますし、改めて感謝の言葉をお伝えしたいのですが……」

「小春氏も忙しい身でござる故、それは拙者から伝えておくでござる」


 実際のところは忙しいのかどうか分からないが、最大の功労者扱いされるほどの自覚が小春に無い事は分かっていたので、とりあえずカールはそうお茶を濁しておいた。


「いやはや、小春殿には感謝してもし足りないですな。謝礼としてエーヴェル家の養子に迎え入れる事もやぶさかではないですぞ」

「執事のあなたにそんな権限などあるはずが無いのですが……」

「無論、某はノエル様一筋ですのでご安心を。ところでノエル様、御足は痛くないですか? よろしければ某の背に、さぁどうぞ!」

「う、ウザいですわ……昨日からこの調子で」


 不治の病でない以上、ノエルにつれない態度を取る理由は無くなったので、ダニエルの態度は平常運転に戻っていた。それどころか自分を救わんとするノエルの行動に胸を打たれたからか、忠誠心が……と言うか過保護さがより一層強まっていた。


「……こほん。そういうわけですので、私たちは故郷に戻ります。ホテル暮らしの出費もバカになりませんし」

「廃屋ならいくらでもあるでござるよ」

「どうして廃屋がいくらでもあるのか市政に問いたいところですが…………ダニエルの腰の事もありますし、まずはちゃんと療養させないといけません」

「思い返せば常日頃から鎧を着て動き回っておりましたからな。知らず腰に多大なる負担が掛かっていたのでしょう」

「ええ。今もですが。1つ疑問なのだけど、夏場にその鎧は蒸し風呂と言うかもはや溶鉱炉のようではなくて?」

「ノエル様をお守りいたすという鋼の精神で耐えております故、ご心配なさらず」


 ガシャン、と小手で胸部装甲を叩く。とりあえず溶鉱炉のようではあるらしかった。


「それでは、私たちはこれで失礼いたします。小春さんとマリィさんにもよろしくお伝えください」


 ごきげんよう、とノエルが礼をする。


「また長旅になりますな。ノエル様、お疲れになったらいつでも某の背をお貸ししますぞ」

「1つ思ったのですが、中身溶鉱炉の背に乗ったら焼けてしまうのでは?」


 こうして、ノエルとダニエルはエルストから去って行った。



「さて、それでは豪遊でもしてくるでござるかな」

 ノエルたちを見送った後。


 多額の報酬により小金持ちと化したカールは、かつてKOJIKIをした高級歓楽街で食事でも取る事にした。


「かつて自分をKOJIKIと下に見ていた人間と、今日は同じステージで飯を食う……これぞ某小説投稿サイトの有名ジャンルの1つ、成り上がりというやつでござる」


 微妙に間違った認識を口にしつつ、カールが財布(小袋)を開くと――


「…………。あれ、拙者いつの間にパチンコか何かでスッたのでござろうか……」


 1万G金貨がたくさん入ってたはずの袋の中には、パチンコでボロ負けした時の財布の中身ように千G金貨(千円)が一枚だけ入っていた。


「おかしいでござるな…………生活費と将来の未開拓地域への旅費をプールしてもなお、しばらく豪遊出来るほどのお金が入っていたはずなのでござるが」


 異空間にでも繋がっているのかと思い、まさぐるように袋の中を調べてみると――一枚の紙切れが手に触れた。


「……ム?」


 2つに折られたそれを摘まみ出し、広げる。


「えー、なになに……『私の取り分をこちらからいただいておきました。急な入り用にて、無断で拝借した事をお許しください。マリアフラム』。……フム、なるほど」


 マリィへの分け前はカールが後日届けるという事だったのだが、マリィに何かのっぴきならない理由が出来たようで、どうやらカールが寝ている間にこっそりと抜き取ったらしい。


「…………。取りスギィ!」


 ただそれにしては、どう見ても本来の取り分以上に抜き取られていた。まるでとりあえず何も考えずに有り金全部いただいて、その後武士の情けで千G金貨だけ返したかのようだった。


 しかも元々持っていたお金も合わせて残り千Gになっているので、クエストを経てカールは所持金の収支がマイナスになっていた。


「騒々しいわね……何してるの?」

「イヤ…………この家の防犯性能について嘆き散らしているだけでござる」

「ふぅん……?」


 枯れ果てたように色合いが薄くなったカールを、エリザは怪訝な目で見つめるのであった。

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