第九話 その14
エルストに戻る頃には、夕方になっていた。
「では、私はここで」
騎士団・エルスト本部の建物の前で、マリィは別れを告げた。
騎士団とはこの世界における警察組織の名称で、三人は賞金首を引き渡すためにここに訪れていた。
「助かりましたわ、本当に。あなたがいなければ財宝を手に入れる事は叶わなかったでしょう。……素性についての謎は残りますが」
いくらなんでも只者ではないだろう事は、ノエルも薄々と感付きつつあった。
「私はただのちょっと強めの魔術師です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「ふっ、そういう事にしておきますわ…………とはとても言えませんわよアレは。パーソナルカードを携帯していないというのも怪しいですし、もしかしたら人間ではないのでは……」
「依頼料は後日届けてくださいね。カールさんが。忘れないでくださいね」
そう言い残して、そそくさとマリィは去って行った。
「…………。まぁ、彼女が何者だろうとどうでもいい事なのですが」
頼りになった事は事実なので、素性についてはそこまで詮索するつもりは無かった。
「ではカールさん、上乗せ分の報酬を支払うために少々お付き合い願います」
「承知。ところで何処へ?」
「女神像を換金出来る所ですわ」
女神像を売却するために、カールとノエルは古物商にやってきた。
「これを買い取っていただきたいですわ」
ノエルがカウンターに女神像を置く。
「ん……。……おいお嬢ちゃん、これをどこで拾った?」
店主の老人は女神像を一瞥した直後、ノエルに訝しむような目を向けた。
「拾ったのではありません。正式な手段で入手したのです」
一応この世界では、ダンジョン内のお宝は手に入れたものに所有権があるという事になっている。ほぼ全てのエリアが開拓済みである今の時代では、未開封の宝箱などそれこそ未開拓の地でもなければ存在しないのだが。
「こんな貴重品がお嬢ちゃんが手に入れられるような場所にあるはずがない。それともお家から持ち出してきたのかな? いかんぞ、家の物を勝手に売っては」
「だからそういうのではありません! それは遺跡から見つけたものです!」
「……うーむ。これはおまわりさんに怒ってもらった方がいいのかも――」
「心配要りませんよ。それは間違いなく遺跡で入手したものです」
店主が通報を思案していると、店の入り口の方から女の声が聞こえた。
「おっと、エマリーさん。それは本当かい?」
「ええ。私が保証します」
「――――」
「――――」
そんな二人のやり取りなど聞こえていないかのように、カールとノエルは振り向いた姿勢のまま固まっていた。
何故なら店の入り口に立っていたのは、遺跡で戦ったトレジャーハンターの女だったからだ。
「……先ほどはどうも」
無表情なれど、どこか忌々しげな雰囲気を纏いつつ、女――エマリーはそう挨拶した。
「他人の空似……ではなさそうでござるな」
先ほどは、という先ほど会った事を示す言葉もそうだが、何より彼女は腕に包帯を巻いていた。先ほどゴーレムに殴られた箇所に包帯を巻いているという事は、彼女は遺跡で戦った女と同一人物であるという事に他ならなかった。
「何故悪いトレジャーハンターと店主が懇意に……はっ! まさかこのお店は、反社のフロント企業という事なのですか……!?」
「どうやら拙者たちは知らずの内に、敵の本拠地に潜り込んでしまったようでござるな……」
戦慄するカールとノエル。
そんな二人に、店主はとぼけたような声で言った。
「……彼女がトレジャーハンター? あんたらはいったい何を言っているんだ?」
「えっ……?」
戸惑うカールとノエルに、エマリーは身分を――再度身分を明かした。
「あの時も言ったと思いますが…………私は博物館の者です」
なんとエマリーは、博物館の人間だった。
「あなたが……博物館の方?」
「何を不思議そうに……言いましたよね、博物館に寄付してくださいって」
「いや、言ってましたけど……」
確かにそう聞きはしたが……最初に本物のトレジャーハンターが冗談に使っていたせいで、その信憑性は即座にゼロになっていた。
「……い、いえ、でもだからといってこれを奪っていい理由にはなりませんわ! これは私が見つけたもの、即ち私に所有権があります!」
「ええ、それはもちろん。ですから、渡してくれれば対価を支払うつもりだったのですが」
「…………。……えっ?」
「まさかタダでくださいとは言いませんよ。それは博物館に並べるほどの価値のあるもの、それ相応の金額で引き取らせてもらうという意味で渡してくださいと言ったのですが」
「えぇ……」
脱力したように肩を落とすノエル。
「ふむ……どうやら早とちりをされていたようですね」
「私が早とちりをしたのではなく、あなたが言葉足らずだったのですわ!」
どっちが悪いかと言えば、概ねエマリーが悪かった。
「……じゃあどうしてトレジャーハンターなどされていたんですか? しかもあんな、強盗まがいの仲間と共に」
「彼らは仲間などではありません。あれは一種の潜入行為です。彼らが財宝を手に入れた際に奪い取……もとい、引き渡してもらうために、身分を隠して仲間になったふりをしていたのです」
「トレジャーハンターにその態度では拙者たちに対価を支払うつもりがあったのかも疑わしいでござるな……」
「過去の私の思惑など詮索しても無意味です。今現在の私は対価をお支払いすると言っているのですから、それでいいのではありませんか?」
「それはその通りなのですが、釈然としませんわ……」
とはいえ目的は金銭なので、エマリーに反発する理由は無かった。
エマリーが提示した額は、それなりのものだった。
古物商の店を出てすぐの事。
「あ、こんな所にいた……!」
切羽詰った様子のエリザが、二人の元にやってきた。
「これはエリザ氏、久し振りでござるな。それにしてもエリザ氏ってぶっちゃけメインヒロインなのにちょいちょい影薄くなるでござるよね」
「そんなわけ分かんない話はどうでもいいのよ」
エリザはカールの軽口を躱し、きょとんとするノエルの目を見て言った。
「ダニエルさんが倒れたわ」




