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第九話 その6

 明朝。


「全員集まったでござるな」


 ここはエルストの町にある、馬車の停留所。

 集合場所に定めたこの場所に、クエストに赴くメンバーが集まっていた。


「…………。エリザさんがいませんわよ?」


 左右に視線を巡らせた後、ノエルがエリザの不在を指摘する。


 ここにいるのは、カール、ノエル、マリィの三人。予定としていたクエストメンバーからは、一人欠けていた。


「エリザ氏はのっぴきならない理由で不在でござる」

「その理由は流行っているの? ……それはともかく、戦闘職の一人が不在というのは大問題なのでは?」

「イヤ…………たぶん大丈夫でござる」


 カールはちらりとマリィを見た。これから難易度の高いクエストに向かうというのに、戦闘には絶対に向かなそうな給仕服姿で、しかももはや剣すら持っていない。RPGで言うなら、布の服を装備しているだけの状態と同じだった。


 だがそれは、装備で得られる数値など誤差の範囲でしかないという事の裏返しでもある。


 ヴァンパイアであるマリィにとって、人が造った装備など装飾品程度の意味しか無いのであった。


「あの、でも…………彼女、給仕服の上に丸腰なんですが」


 もちろん、それが他人に理解されるかは別の話だが。部屋着のままやってきたマリィに、ノエルは懐疑的な目を向けずにはいられなかった。


「彼女は魔術師故、手ぶらだろうが布の服だろうが関係無いのでござるよ」

「杖すら持ってない魔術師なんて聞いた事ありませんわ」

「拙者の知ってる魔術師は杖なんて持ってなかった上にミニスカートに白衣という格好だったのでござるが……」

「たぶん何らかの詐欺に遭っていますわよそれ」

「…………」


 カールは自分とノエルの間にある魔術師像の齟齬を一瞬たりとも疑問に思う事無く、自分の知っている魔術師が特別おかしいのだと瞬時に思い至った。


「…………。つかぬ事をお伺いしますが、マリィさん。あなたのジョブを教えていただけますか?」


 考えていても埒が明かないので、ノエルは直接訊いてみる事にした。


「ジョブ? ……見ての通りですが」

「見ての通りだとウエイトレスにしか見えないのですが……」

「ウエイトレスだと何か不都合でも?」

「…………いえ、別に」


 マリィがあまりにも当然のように言うものだから、ノエルはこれ以上突っ込む事が出来なかった。


「……まぁ、あれです。強いウエイトレスだとでも思ってください」

「は、はぁ……」


 もちろんそんな事を言われても何の安心材料にもならないのだが、マリィが少しも冗談を言っている風ではなかったので、ノエルは曖昧に返事を返すしか出来なかった。


「納得したでござるか?」

「するわけありませんわ……」

「フム……さもありなん」


 当然の結果だった。


 とはいえ、エリザの不在があって無いようなものになるくらいにマリィの実力が飛び抜けて高いのは、紛れも無い事実だった。


 無論、今のやりとりでそれを読み取れというのは、さすがに無理が過ぎる事ではあるのだが。



 三時間ほど馬車に揺られ、三人はスロイエ遺跡の最寄りの町に到着した。


「フム……辺境にあるだけあって、寂れっぷりも半端ないでござるな」


 馬車の停留所から、町並みを眺める。


 この町の寂しさは、マリィの元いた町以上だった。必要最低限の施設があるだけの、RPGによく見られるどうやって町として成り立っているのかよく分からないような町だった。


「それで、どうするんです? もう遺跡に向かいますか?」

「……どうするでござるか、ノエル氏」


 クエストの依頼主であるノエルに決定権を委ねる。


「まずは酒場でお食事にしましょう。ついでに何か情報でも聞ければベストですわ」


 年齢が倍以上の大人二人に気後れする事無く、ノエルは方針を決定した。この辺りは、さすがは元貴族の令嬢といったところだった。


「そうですか。それでは30分後にここに集合という事で」


 二人から離れるように、マリィは一歩を踏み出した。


「……マリィ氏は来ないのでござるか?」

「あまりお腹減ってないし、それに情報収集なら別行動の方が効率的ですので。……それでいいですか? 依頼主さん」

「構いませんわ。出来ればもっとマリィさんの事を聞きたかったのですが」

「それはまたの機会に、という事で」


 お腹が空いていない事は事実で、そもそも人間の食べ物を積極的に取る必要がヴァンパイアには無いという事もあるが、別行動を取る一番の理由は、食事に同席したらそうなるだろうと思っての事だった。


(別にそこまで必死になって隠すほどの事でも無いんですが、また討伐クエストの対象になっても面倒ですしね……)


 素性を隠す事でノエルに(これ以上の)不信感を持たれないために、マリィは別行動を選んだのであった。


「ではノエル氏は拙者がエスコートさせていただくでござる。オタクたる者、常に余裕を持って紳士たれ、の精神でござる」

「出来れば馬車の中で大いびきをかきながら爆睡する前にその精神性を発揮してほしかったですわね……」

「……ムッ。ノエル氏、拙者の指の先に注目を。犬のフンでござる。あれを踏むと大変な事になる故、近付いてはいけないでござるよ」

「それはエスコートではなく余計なお世話というものですわ……」


 犬のフンを見せられたノエルは、眉をしかめるのであった。



 カールとノエルの姿が見えなくなった辺りで、マリィは足を止めた。


(さて…………別れたはいいものの、やる事がありませんね)


 閑散とした公園のベンチに腰を下ろす。


 二人と別れたのは素性を隠すためであり、情報収集はそうするための方便に過ぎない。もちろん実際にそんな事をするつもりはさらさら無いので、マリィは二人が食事を済ませるまで暇を持て余す事となった。


(暇潰しに蝙蝠になって空を飛ぶわけにもいきませんし――)


 何か面白いものはないかと視線を巡らせると、この町には非常に不似合いなものが目に入った。


(あれは……)


 広場の向こうを歩く、数人の集団。身に着けている物から、町の住人でない事は明白だった。


「…………」


 彼らが身に着けているのは、個性の滲み出る統一感の無い装備だった。となれば彼らは、秩序だった集団――例えば駐在兵士や自警団ではないという事になる。


 そしてそれ以外の存在で、この町で武装する者の目的は何なのかを考えると……答えは自ずと浮かび上がった。


(これは…………一悶着の予感がしますね)


 自分一人だけならどれだけ悶着があっても構わないのだが、今の自分の仕事はカールとノエルの護衛だ。ちゃんと仕事を果たさなければ……特にノエルだけはクエストを果たした上で無事にエルストまで送り届けなければ、報酬を受け取る事が出来ない。加えてヴァンパイアである事も隠さなければならないので、彼らに対して無策のままでいるわけにはいかなかった。


(ヴァンパイアパワーでワンパン……なんてやったら即バレですしね)


 マリィはベンチから立ち上がり、彼らに関しての情報を集める事にした。

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