第九話 その3
今後の予定を固めるため、ギルドを出た後三人は酒場にやってきた。
「さて……1つ大きな問題に直面した件について」
神妙な面持ちでカールが切り出した。
その大きな問題とは、クエストの難易度に対するパーティーレベルの低さだ。
この三人では、スロイエ遺跡の探索どころかそこへの到達すら困難だった。それはさながらパ〇スのいないド〇クエ5の序盤のようで、パ〇スとなり得るダニエルが同行しないのでは、道中の山岳地帯でゲームオーバーになってしまうのは明白だった。
「ダニエル氏は本当に同行しないのでござるか?」
「……元々ダニエルはこのクエストには反対していたのです。ダニエルの不参加は、彼なりの意思表示なのだと思いますわ」
カールとエリザの対面に座るノエルが、そう言いながらコップを両手で包む。
「でも仮にも執事が、いくら反対だからといって主が危険な場所に行くのを黙って見過ごすとは思えないのだけど」
「そうすれば私が折れるとでも思っているのですわ。まったく……」
そう不機嫌そうに言って、ノエルはコップに口をつけた。
(うーん…………妙な関係ね)
とてもお嬢様と執事の関係には見えないが……よそはよそ、うちはうちという事なのだろうか。
「ノエル様が諦めればそれで済む話なのですが」
いつの間にか音も無く、ダニエルがノエルの傍に立っていた。
「……呼んでいませんわよ?」
いつもの事なのか、さして驚いた様子も無く応対するノエル。
「いつまで経っても帰ってこないので、今後の予定を立てつつどこかで昼食にしているのだろうと予測いたしましてな。このダニエル、昼食を抜いてそれに気付かないほど耄碌はしておりませんぞ」
「別にお腹が空いたなら勝手に食事にすればよろしいのに」
「しかし某はノエル様よりお留守番を仰せつかった身。勝手に出歩くなどとんでもない」
「今あなたがここにいるのは勝手に出歩いた結果では……?」
「さて、何にしましょうか。ここのオススメはモルゲヨッソのようですな」
ノエルの指摘を無視して、彼女の横に座るダニエル。
「…………。……はぁ、もう勝手になさい」
呆れ混じりにため息をついて、ノエルはそっぽを向いた。
「時にダニエル氏は本当に同行しないのでござるか?」
「遺憾ながら。この老体は山道には耐えられないのです」
「拙者が目の当たりにしたあの老体に耐えられない道など無いように思えるのでござるが……」
あんな風に壁を斬れるなら、どこへだって行けそうに思えた。
「正直に私に諦めさせるためと言えばよろしいじゃない」
ノエルが投げやり気味に言葉を挟んだ。
「いえいえ、それは理由の八割ほどに過ぎませんぞ」
「じゃあもうそうじゃありませんか!」
「ハハ、そうとも言いますな。……では、某はモルゲヨッソの唐揚げ定食を。お二方は何になされますかな? ここは依頼主であるこちらが持たせてもらいますぞ」
「その言葉を待っていたでござる。拙者はモルゲヨッソ定食特盛で」
「メニューを見ながら様子を窺っていたのはそのためだったのね…………あ、私は並で」
「ノエル様もそれでよろしいですか?」
「よろしくありませんわ。私はチキンソテー定食にいたします」
「偏食はよくありませんぞノエル様」
「そうは言いますが、さすがにモルゲヨッソはちょっと……」
ノエルは気分が悪そうに眉間に皺を寄せた。
「え、モルゲヨッソってそんな顔になるやつの肉なのでござるか……?」
カールは未だに、モルゲヨッソが何の肉なのか分かってなかった。
程なくして、テーブルに三人前のモルゲヨッソ定食(内1つは特盛り)とチキンソテー定食が並んだ。
「何の肉であろうと美味ければそれで良いのでござる」
何の肉かはさて置いて、カールはいつものように定食にがっつき始めた。
「そんなに慌てなくても誰も取らないわよ」
そんな品性皆無の食べ方をするカールの横で、それに嫌悪感を表すでもなく上品に唐揚げを口に運ぶエリザ。エリザは先日カールの中に入った時に、カールの食事風景に耐性が付いていた。
「あら人参……ダニエル、そちらのフライドポテトとトレードですわ」
「御意」
ダニエルは自分の人参をノエルの皿に移した後、チキンを二切れ自分の口に運んだ。
「では、いただき……あらっ? 人参が増えて代わりにチキンが減っていますわね……」
「もむもむ……チキンも美味しゅうございますな」
「ってダニエル、逆ですわ! 人参をこちらに寄越してどうするのです! ってか持ってくならせめてポテトになさい!」
「ノエル様、偏食はよくありませんと言いましたぞ。エーヴェル家の次期当主が人参を食せずに何とする」
ダニエルが厳しい眼光をノエルに向ける。
「絶対にそこまで大した問題ではありませんわ……」
たかが人参が食べられない程度の事を戒める目つきではなかった。
「…………」
「……どうしたのでござるかエリザ氏。まずそうに人参を食べる幼女がそんなに珍しいのでござるか?」
そんな二人の様子を、エリザは箸を止めて眺めていた。
(やっぱり変な関係ね……)
二人の関係性に、疑問符が尽きないエリザであった。
「アテが無いわけではないでござる」
食後。改めて三人は、今後について話し合った。
「ほほう……それはどのような人物で?」
「ダニエル……もう帰ってもよろしいですわよ。元々呼んでいませんが」
一応四人いるが、内一人は部外者も同然だった。
「……もしかしてミューズじゃないでしょうね」
「彼女とはなるべく関わり合いになりたくないのでそうするしかなくなったらもう依頼はキャンセルでござる」
「……あなたが冷静でよかったわ」
エリザがほっと息をつく。
「何者なんですか、そのミューズさんって方は……」
「……いろいろあったのでござる」
遠い目をして、そうとだけ答えるカール。いろいろあったのだ。
「じゃあ誰よ。小春?」
「小春氏はチートスキル持ちでござるが、さすがに子供をギルドクエストには連れていくのは憚られるでござる」
「まぁ……それはそうね。依頼主がそれ以上の子供だけど」
「子供なのにダニエルの代わりに挙げられる小春さんという方は何者なんですか……?」
「それには話すと長くなる、彼女特有の事情があるのでござる」
正しい転生チート能力者という事情があるのであった。
「……じゃあ誰よ。他に誰かいたっけ?」
「ウム、それは――」
カールはその人物の名前を告げた。
「…………。……いや、私は会った事無いから分からないけど。……大丈夫なの」
「…………」
会った事のないエリザはもとより、それはカールにも判断し兼ねるのであった。




