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第九話 その2

 二人はギルドで教わった、依頼主の住居にやってきた。


「まずは依頼を受けてくださった事に、お礼を申し上げますわ」


 依頼主――ノエル・エーヴェルは、エルスト郊外のホテルの一室に住まいを構えていた。


「いや、まだ受けると決まったわけじゃないんだけど」

「あら、そうでしたの? ……とりあえずどうぞ」

 ノエルが着席を勧める。


 このクエストの依頼主であるノエルは、まだ11歳の少女だった。執事を共にする彼女は、どこかのお嬢様なのか、一般的な服装が不似合いと感じる程度には気品があった。


 四角いテーブルを挟んで、カール、エリザの二人とノエルが対面する。執事のダニエルは、ノエルの少し後ろで直立姿勢を取っていた。


「それにしても、まさか知り合いの方が受けてくださるなんて。これには運命を感じずにはいられませんわね」


 小さく小首を傾げなから、にっこりと笑みを浮かべる。肩口まで伸びた琥珀色の髪が、その動作に連動してさらりと揺れた。


「いや、だからまだ受けると決まったわけでは…………二人とも知り合いというのは運命めいていると言えなくもないけど」


 エリザはボルゾーイ流空手の合宿で、カールはチート能力取得の旅で、それぞれノエルと出会っていた。


「……まぁ、エリザさんがそちらのオークさんと1つ屋根の下というのには驚きましたが」

「本当に文字通りでしかないから妙な勘違いは起こさないように」

「文字通りでも充分意味深でござるがなwwwフヒヒww――おうフッ!?」


 余計な草を生やしたオークさんは、しばしの間呼吸のみをするだけの体に成り果てた。


「本題に入りましょう。クエストの詳しい内容を教えてもらえる?」

「分かりました。……ダニエル」

「はっ。ここにいますぞ」

「…………。……いや、ここにいますぞじゃなくて。説明なさい」

「それはご自分でされるべきかと。クエストの依頼主はノエル様でございます故、この件に関しましては1から10までノエル様が取り仕切るべきであると、じいは存じ上げますぞ」

「説明くらいでそこまで神経質になる必要がありまして?」

「あります」


 ダニエルは言い切った。


「…………。では私から説明させていただきます」


 ノエルは観念して、自分の口から説明する事にした。


「クエスト内容は依頼書にあった通り、スロイエ遺跡探索の護衛ですわ。必要なのは道案内となる開拓者と、遺跡に生息する魔物に対抗し得る戦闘職の方。期間は私が遺跡探索における目的を達成するか、諦めるかまでとします。そして遺跡探索の目的ですが…………それは遺跡に眠っているとされる、財宝の入手です」


「――――」

 財宝と聞いて、突っ伏した状態のカールの耳がぴくりと動いた。


「報酬は50万G。更に財宝を見つけた場合、その一部を報酬に加算します」


 説明に区切りがついたところで、ノエルは小さく息を吐いた。


「何か質問があればどうぞ」

「……そうね。まず、財宝があるという確証はあるの?」


 スロイエ遺跡の噂は、まだお嬢様だった頃にエリザも耳にした事があった。地震の影響でなんやかんやあってお宝が現れたという、眉唾にもほどがある噂だったと記憶していた。そして地震から五年経った今でもお宝があったという話を聞かない辺り、その噂は地震にかこつけて誰かが流した妄想か作り話だったというのが、少なくともエルストでは共通認識とされていた。


「確証はありませんが、そういう噂を耳にしましたわ」

「……そう。噂、ね……」


 エルスト以外の地域では、まだ噂としての体裁を保っているようだった。


(さて……どうしましょう)


 お宝云々はさて置いて、問題はクエストの難易度である。


 このクエストは受注条件にレベルが指定されていないが、だからといって簡単というわけではない。加えてギルドクエストにしては報酬も(追加報酬を考えないなら)少なめだが、やはりだからといって簡単というわけではない。


 スロイエ遺跡は、エルストの山岳地帯にある。端的に言い表すと確かにその通りなのだが、その実態は言葉ほど易しいものではない。山岳地帯には小遺跡ロロンドやクローニワの森とは比較にならないくらい強力な魔物が生息しており、その山岳地帯にある遺跡の中は言うに及ばず。


 対人では無類の強さを誇るが熊サイズの生物には太刀打ちできないエリザが受けるには、いささか荷が勝ちすぎているクエストだった。


(これは…………断った方がよさそうね)


 エリザがそう結論付けた直後――


「委細承知。正式に依頼を受諾させていただくでござる」


 エリザの横で突っ伏していたはずのカールが、眼鏡を眼球が見えなくなる感じに光らせてノエルにそう告げた。


「ちょっ……あんた、なに勝手に」

「フッ、エリザ氏……もとより迷う事などないのでござるよ」


 そう言って、カールは眼鏡の光を取り除いてその眼球を覗かせた。

 案の定、カールの目は『$』になっていた。


「お宝と聞いて黙っていられるほど、拙者は落ち着きのある男ではないのでござる」

「いや今回のはまず存在が疑わしいし、それにあの遺跡の魔物は他とは比べ物に――」

「委細承知と言ったでござる。エリザ氏の懸念、全て解決済みでござるよ」


 まるでINTの高い一般異世界転生者みたいにカールは言った。


「では、正式に受けてくださるという事でよろしくて?」

「ウム」


 口をぱくぱくさせるエリザを尻目に、カールは依頼を受諾した。


「助かりますわ。……ダニエル」

「はっ。ここにいますぞ」

「分かっていますわ。お二人をギルドまでお送りしなさい」

「……? 何故ですかな?」

「まずは依頼をギルドにて正式に受注していただくためですわ。このままではお二人ともボランティアになってしまいます」

「いえそうではなく……何故某が?」

「…………。それはあなたが執事だからですわ」

「しかし依頼主はノエル様でございます。であれば、ノエル様が1から10まで取り仕切るべきかと。無論、それにはお二方をギルドへお送りする事も含まれております」

「分かりました、分かりましたわ! じゃあ私がギルドに送るからあなたもついてきなさい!」

「申し訳ありませんが、それは出来ません」

「…………理由を述べなさい」

「のっぴきならない理由でございます」

「あぁ、もう……! じゃああなたはお留守番していなさい!」

「御意」


 直立姿勢のままのダニエルを残して、カールとエリザ、そしてノエルの三人は部屋を出た。


 部屋を出る際、エリザはちらりとダニエルに視線を向けた。


(……この二人、あまり上手くいってないのかしら)


 ダニエルのノエルに対する態度は、自分に対するセバスチャンとは随分違うなぁとエリザは思った。



「まったく、最近のダニエルには困ったものですわ……!」


 プリプリと怒りを露わにしながら、ギルドへの道の先頭を歩くノエル。


「それで、どういうわけなのよ。私の懸念が全て解決済みって」

「フッ……それはでござるな」


 その少し後ろを歩くカールとエリザは、先ほどのカールの発言について話していた。


「まずお宝の存在でござるが……これはそろそろエリザ氏にも分かっていただきたいでござるな」

「なによ、それ」

「ある事象に対し、それが有効となる確率が低ければ低いほど、それは100%に近付く。今回の件で言えば、お宝の存在が眉唾であればあるほど、お宝が存在する確率は100%に近付く……というわけでござる」


 それはサブカルを齧った事のある者なら誰もが知るところの、いわゆる『お約束』というやつである。無い物が本当に無い、無理な事が本当に無理であってどうするという、それは物語を盛り上げるために必要なファクターだった。もちろんそれは創作物の話であって、現実では無理なものは概ね無理で終わるのだが、異世界転生なんて半分フィクションのようなものなので、ここでもお約束は機能するだろうとカールは確信していた。


「……聞く限りだと全く意味が分からないけど、それはひとまずいいわ。どうせ話にならないでしょうし。それより問題はもう1つの方よ。今の私たちではスロイエ遺跡の探索どころか辿り着く事さえ難しいという問題はどうなってるのよ」

「それは簡単でござる。実は執事のダニエル氏は、とてつもない実力の持ち主なのでござる」


 ダニエルは何の変哲も無い剣で、瞬く間に遺跡の壁を寸断して見せた。例えそれが実力の底だったとしても、相当の手練れである事は間違い無いだろう。


「ふぅん……」


 そうカールは説明したが、しかしエリザの目にはいくらかの疑わしさが残っていた。


「……拙者の話を信じていないようでござるな?」

「いや、それは疑ってないけど…………そこまで強いなら護衛なんていらなくない?」

「…………。……フム、確かにそれは一理あるでござるな」


 確かにそれほど強いなら、護衛など必要とはしないはずだ。募集するのは開拓者一人でいい。

 ダニエルがそれだけ強いのだとすると、クエストの募集要項に疑問が残った。


「ちょっと訊いてみるでござる。……もし、ノエル氏」

「さぁ、到着しましたわ。それでは手続きをお願いします」


 話している内に、いつの間にかギルドに着いていた。

 そしていつの間にか、受付の前にいた。


「パーソナルカードの提示をお願いします」

「アッハイ」


 受付の女に言われるまま、パーソナルカードを差し出すカール。


「…………はい。カール・ケーニヒ様と、そのパーティーのエリザ・フィル・ドミナリア様。お二人のクエスト受注、承りました」


 カールとエリザのパーソナルカードに、ノエルの依頼が現在進行中のクエストとして記録された。


「それで、お話とはなんですの?」

「クッソ強いダニエル氏がいるのに護衛を必要とする理由は?」

「遺跡の探索にダニエルは同行しないからですわ」

「…………。あの、今回のクエストでござるが――」


 カールが受付の方に向き直る。


 しかしそこに受付の女の姿は無く、その代わりに昼休憩の旨と時間が記載された札が立っていた。

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