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第九話 その1

 エルスト領は、スィフィル大陸の端に位置する領地である。つまり海に面しているという事なのだが、にもかかわらず産業にも観光資源にも海が利用されていないのは、エルストに属する大陸の外周部分が、険しい山岳地帯になっているからだった。


 その山岳地帯に、とある古代遺跡があった。山を掘り進むようにして造られたそれは、当然既に開拓されているのだが、五年前の大地震によってとある変化が起きたという。


 曰く、金の鉱脈と繋がったとか、大昔に埋められていた財宝が遺跡の内部に落っこちたとか――


 つまるところ、その遺跡には莫大な財宝が眠っているのではないかと、大陸中で密かな噂になっているのであった。



「クエストに行くわよ!」

 朝の廃屋。朝食のクロワッサンを握りしめ、エリザは決意表明するように言った。


「いつもながら急な話でござるな」

 既に朝食を胃袋に収めたカールが、やれやれといった風に応答する。


「急ではないわ。いや急だけど。でもお金を貯めないといけないのは元々だし、それに失った100万Gの補填にはクエストしかないのよ!」

「フム……しっかりと降って湧いた大金を失った人の感情になっているでござるな」


 交渉の末、この廃屋は土地ごと二人の所有物になった。ここの元の持ち主がすぐに現金が必要だった事、廃屋の取り壊しにも費用が掛かる事、まず買い手を探す事から始めないといけない事といった要素が重なって、二人は100万Gという破格の値段でここを手に入れる事が出来た。


 ただし、破格とはいえ100万Gは100万G。ぽんっと一括で支払ってしまう事は、有り金をはたく事に等しい。日々カツカツの二人がそれを支払ってしまえば、手元に残るお金は僅かなもの。拾ったも同然の100万Gとはいえ、一度手にしてしまえば喪失感は否めないのであった。


「しかしながらエリザ氏。こないだ酒場クエストを見てみたところ、100万Gを補填出来そうなクエストは無かったと存じ上げるでござるが」

「それは私にも分かってるわ。あんたの中で一緒に見たしね。……だから今日は、酒場ではなくギルドに行くわよ」

「…………。……正気でござるか?」

「正気でござるわよ」


 そう言って、エリザは潰れたクロワッサンを口に放り込んだ。



 冒険者ギルド――


 町の中央に建つこの施設は、『冒険者』と通称される、クエストを生業とする者のための施設だ。主な業務はクエストの求人と斡旋で、その他にもパーソナルカードの発行やレベル申請といった業務も取り扱っている。言うなれば、冒険者がクエストを行うために必要な業務全てを執り行っている施設……それが冒険者ギルドだった。


「要するに拙者たち冒険者のための施設というわけでござるな」

「……まぁ、それはそうなんだけど…………冒険者って単語、今初めて聞いたような気がするわ」

「今まで口にする機会が無かったが故でござろう。あれこれ考えたところで、結局拙者らのような者は冒険者と呼称するのが一番収まりが良いのでござる」

「よく分からないけど、何らかの葛藤があったみたいね……」


 そんな取り留めの無い会話をしながら、二人はギルドのクエストボードに向かった。


「フム……やはり拙者たちが受けられそうなものは無いでござるな」


 ギルドのクエストは酒場のものよりも難易度が高く、ジョブ指定やレベル制限が設けられている場合が多い。駆け出しの低レベル低スキルランクの冒険者が受注したところで、無駄に命を落とすだけだからだ。


 ただ、その分報酬は高く、一度のクエストで先日のミューズの実験協力に匹敵する報酬を得る事も出来る。それなりの労力は伴うが、一攫千金を狙えるのがギルドクエストだった。


 ただし前述の通り、一攫千金を狙うにもまずはそれに見合う資格がいる。レベル1の開拓者とプリンセスでは、とてもギルドクエストのお眼鏡には適わないのであった。


「やはり拙者らには酒場クエストが――」

「あったわ」

「ファッ?」

「ほら、これ」

 エリザがその依頼書を指さす。


 エルストの山岳地帯に造られた、スロイエ遺跡の探索の護衛。報酬額は他のものと比べるとささやかだが、それにプラスして要相談とあるので、何らかの色が付くのだろうと推察された。


 特筆すべきはその受注条件で、まずレベルは不問。

 そしてなんと、開拓者を募集していた。


「ギルドクエストなのにレベル問わずというところが非常に怪しみを感じるのでござるが……」

「今時開拓者になる人なんていないから、レベルで縛ると永遠に見つからないからじゃない?」

「開拓者募集の時点でそもそも妙なんだよなぁ……開拓者の拙者が言うのもなんでござるが」

「まぁとりあえず依頼主に会ってみましょう。やるかどうかはその時考えればいいわ」

「さもありなん。ではまず依頼主とコンタクトを……」


 二人の視線が、依頼書の端に書かれた依頼主の名前に向く。


「……ん?」

「……ム?」


 そこに書いてあった名前は、二人に覚えがあるものだった。

 異口同音に、二人はその名前を口にした。


「「ノエル・エーヴェル……?」」

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