表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/197

第八話 その5

「さて、まだ時間があるでござるな」


 酒場を出て、視線を空に移す。

 日はまだ高く、夕方まではまだ時間があった。


『暇ならその辺ぶらぶらしてください。どこに何があるのか知っておきたいので』

『……本当にこの町に住むつもりなの?』

『廃屋でも水が通ってるというのは、私のような人間にとっては住みやすい町なんですよ』

『……なんだか私もあなたのような人間だと言われているような気がしてならないわね』

 廃屋住まいのエリザは眉をひそめた。


(正直そう大差無いような気もするでござるが……)


 遊びたいがために大騒ぎを起こしたエリザも大概なのであった。


「まぁ、であれば適当に――」


 カールはそう呟きつつ歩き出し――石に躓いてすっ転んだ。


「ブギュホッ!?」

『なにやってんのよ……』

「グフゥ……よもや2021年にもなってこんな古典的なコケ方をするとは……」


 ぼやきつつ、のろのろと立ち上がる。

 そして砂を落とそうと服を叩いたところ、ベチャリとした感触が手のひらに伝わった。


「……?」


 不思議に思い手のひらを見ると、泥がベッチャリと付着していた。


「えぇ……」


 視線を転んだ場所に移す。打ち水か何かをしたばかりなのか、地面の中でそこだけ濡れて砂が泥と化していた。


 そしてカールの服には、その地面と同じ色の染みが広がっていた。


「……これは一旦帰還せざるを得ない案件でござるな」

『……まぁ、仕方ないわね。服に汚れを付けたまま歩き回るわけにはいかないし』

『じゃあ一回帰って着替えた後、再出発ですね』


 予定を変更し、カールは帰路に着いた。


『…………。……え、着替え?』



「さて、ついでにひとっ風呂浴びるでござるかな」


 家に着いたカールは、部屋から着替えを取って浴室に向かった。


『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

「ム……? 何か問題でも?」

『問題でも? ……じゃないわよ! この状態で入浴するつもり!?』

「ハハ、まさか。……ちゃんと服は脱ぐでござるよ?」

『脱ぐ事が問題なのよ! 何のためにミューズの家でトイレに行くのを阻止したと思ってるの!』

「フム…………思い出したら行きたくなってきたでござるな」


 食後という事もあり、カールの便意は出そうと思えば出せるくらいには迫っていた。


『それは夕方まで我慢してくださいね。マジで』

「しかしどのみち着替えはせねばならぬ故、脱ぐ事に変わりはないでござるが……」

『そ、それはそうだけど……』

「そっちサイドで目を閉じる事は出来ないのでござるか?」

『……無理ね。今はあんたの見ているものが否応無しに見えている状態よ』

「フム……否応無しにとな?」


 カールは少し考え込んだ後、エリザに尋ねた。


「という事は拙者がさっき引っ掴んだ替えのパンツの柄も?」

『ばっちり見えてたわよ!』


 その光景は、軽いトラウマとして今も鮮明にエリザの記憶に焼き付いていた。


『……ところでなんですか、パンツに描かれてたあの妙なイラストは?』

「ム……? 摩周霧江ちゃんがどうかしたでござるか?」


 そのパンツは、カールが異世界転生した時に玉吉えろはちゃんのシャツと共に着用していたものだった。


『いや、どうかしてるのはそのパンツなんですけど……』

「……?」


 この世界には、下着に美少女イラストをプリントする文化はまだ無いのであった。


『まぁ、そういうわけだから入浴は無しで。着替えも目を閉じてお願いするわ』

「ようがす」


 カールは目を閉じて、着替えを開始した。


「自分の体ゆえ、視界ゼロでも容易いでござるな」


 目を瞑りながら、するすると服を脱いでいくカール。

 そして上の脱衣に取り掛かったところで――


 ――カシャン。


 シャツを脱ぐ時に眼鏡を引っ掛かけてしまい、床に落としてしまった。


「おっと眼鏡が――」

『――!?』


 カールは反射的に目を開け、眼鏡の落ちた場所を確認するために視線を下に向け――


「――フゴッ!?」


 視線を下に向けようと傾きかけた顔面を、カールの両手が顎を押さえて押し留めた。


「え、何これは……」


 顔を押し上げつつ、困惑するカール。

 その様子は傍目には、自分で自分の顔を押し上げながらその状態に困惑するというわけの分からない事になっているのだが……


『あ、危なかった……』

「こ、これはひょっとしてエリザ氏の仕業なのでござるか……!?」


 それもそのはず。この動作は、カールの意思とは無関係に行われていた。


『あんたが全裸の状態で目を開けて下を見ようとしたからよ!』


 カールの両腕は、エリザの意思で動いていた。全裸の状態で視線を下に向けようとしたカールを、エリザが体の一部を乗っ取る形で阻止したのだった。


「そ、それでこのように拙者の体を…………もはや疑いようも無く一心同体でござるなこれはwwwドゥフフwww」


 状況を理解したカールは、すぐさま感情を困惑から堪能に切り替えて草を生やした。


『くっ、頑として否定しづらい状態だけど…………一生もののトラウマを回避出来るならその誹りも甘んじて受けるわ』

「ところでこのままだと服を着れないのでござるが……もしやエリザ氏が着させてくれるのでござるかwww? ムホホwww」


 調子に乗って更に草を生やすカール。


『くっ……なんて事。言われるままにカールに服を着させるか、この手でカールの眼球を破壊した後体のコントロールを戻すかの二択しかないなんて……!』

「閉眼の厳守を約束する故、体の操作権をこちらに戻していただきたく」

『あら、そう』


 カールが目を閉じたのを確認した後、エリザは体のコントロールを手放した。


(体を自由に乗っ取れるという事は、生殺与奪の権利を有しているも同義……!)


 余計な草を生やさず、カールは大人しく着替える事にした。


『ところでエリザさん。動かせるのは腕だけですか?』

『どうかしら……腕がいけるなら足もいける気がするけど』

『じゃあカールさんの足を乗っ取ってひたすら走らせるというのも?』

「え、何それは……」

『…………。そうね……パーティーメンバーが怠惰の塊みたいな体というのは見栄えが悪いわよね……』


 エリザはこの後の予定について真剣に考え始めた。


(自らの意思とは関係無く、足が勝手に……)


 なんとなく足が勝手に後退して高所から落下する自分の姿が脳裏に浮かび、カールは心の中でうわらばするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ