第八話 その5
酒場『金蠕虫亭』――
「やはり食事と言ったら酒場でござるな」
カールはいつもの酒場にやってきた。
『ご飯屋さんに入ったのは何年ぶりでしょうか』
『普段どういう食生活してんのよ……』
体の中に、エリザとリーシャの霊魂を入れて。
『普段ですか? お店の廃棄商品を外のゴ……円柱状の箱の中からこっそりと』
『あ、やっぱりいいわ言わなくて』
「フム……やはりここはいつもので」
体内での耳を覆いたくなるような話をよそに、カールはメニューを見る事無くウエイトレスを呼んだ。
「注文を頼むでござる」
そう言ってパチン、と指を鳴らす。
「…………。……………………。……すいませーん」
カールが大きく手を振ると、その動作に気付いたウエイトレスがやってきた。
「はい、ご注文どうぞー」
「いつものを頼むでござる」
「……は?」
「拙者がいつも注文しているものを1セット」
「…………。えっと……ハイ。……ご注文を」
「モルゲヨッソの唐揚げ定食を1セット」
「かしこまりました。少々お待ちください」
これまで一切目を合わせる事無く、ウエイトレスは去って行った。
『……これが普段カールが見てる景色なのね』
『愛想ゼロのウエイトレスって初めて見ました……』
これ以上無いくらいの塩対応をされるカールに、二人は同情を禁じ得なかった。
(フム…………やはりあの冷たさはたまらんでござるなwwwフヒヒwww)
無論カールはそんな事など露ほども気にしない鋼のメンタルの持ち主なので、あの冷たい態度にむしろ興奮していた(メンタルと言うより性癖の問題のような気もするが)。
やがてウエイトレスのマニュアル通りの応対と共に、テーブルの上に料理が並べられた。
「モルゲヨッソの唐揚げに、ご飯、スープ、サラダ。このボリュームで700Gは実にコスパに優れていると言えるでござるな」
丼サイズの椀に盛られたホカホカのご飯に、オニオンたっぷりのスープに瑞々しいサラダ。特に山盛りの唐揚げは、元の世界の都心部なら1100円くらいはしそうなほどだった。
「では……いただくでござる」
パチン、と割り箸を割って、カールは食事に取りかかった。
「ハムッ……モムモム、モッチャモッチャ……。ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! ズッ、ズズゥゥッ。バリバリシャクシャク、ハフハフ、ズズッ。パリッ、モッチャモッチャ。ゴクゴク……ッブフィ~。……アムッ、モムモムモム、ズズズッ……ハフハフ、ハフッ!! バリバリ……パリッ、モッチャモッチャ。……フム、やはりここの唐揚げは絶品でござるな」
満足そうに一息つき、口の端に付いた食べかすをペロリと舐め取る。
『食べ方が汚すぎる……』
『うえぇ……』
そんなグロ文章を超至近距離で見せられた二人は、当然の如くドン引きしていた。
「時に味覚は共有していないのでござるか?」
『共有してないみたいね。最高に幸運な事に』
味覚を共有するという事は、言い換えれば口の中を共有するという事だ。それは更に言うならディープなヴェーゼをしているという風にも捉えられるのだが、カールとのそれは想像するだにR18Gなのでこの話はここまでにしておく事にする。
その後、ものの数分で料理はカールの胃袋に収まった。
『うぷっ……しばらく唐揚げは食べられないわ……』
「ゲフッ……この食事は二人のためでもあるのでござる。拙者の体を万全にしておく事は、拙者の体に居候している二人にとってもメリット足り得るのでござるよ……ゲフッ」
『とりあえず耳元でゲフるのはやめてください……』
「フム……これがいわゆるASMRというやつにござるな」
『言葉の意味は分からないけどたぶん絶対に違うと思うわ……』
カールは支払いを済ませた後、クエストボードに向かった。
「さて、なにか楽して大金稼げるクエストはないものか……」
『そんな美味しい話、そうそう転がってなんていませんよ』
『誰が何を言っているのかしら……』
ボードに貼り付けられた依頼書を眺めていくと、とある依頼書が目に留まった。
「ム……これは」
捜索クエスト。
リーシャ・クロエールという人物を捜しています。出身はソーン領。年齢は16。細身の少女で、賭博施設や路地裏によく出没します。詳しい話はラビット金融にて。
という文面の依頼書が、リーシャ・クロエールの顔写真付きで掲載されていた。
『どう見てもこれ、あなたよね……?』
『……私ですねこれは。なんて事、いつの間に写真なんか……』
「よもやクエストに出されるほどとは……もはや指名手配でござるな」
『まぁ、300万Gですし』
悪びれた風もなく、リーシャは言った。
「フム……しかしこれでは踏み倒すのは不可能でござるな。顔写真付きでクエストに出すほどとなれば、彼らは地の果てまで追いかけてくるでござろう」
『……真に遺憾ですけど、そのようですね』
悔しそうにリーシャは言った。
『……まぁでも、道を踏み外さずに済んだと前向きに捉える事にします。いくら汚い手段で背負わされた借金だとしても、踏み倒すのは気が引けますしね』
「突っ込みどころの多いセリフでござるな……」
とりあえず反省がゼロだという事だけは分かった。
『しかしこう言ってはなんですが……どれも報酬ショボいですね』
「酒場クエストでござるからな。日雇いのアルバイトと大差無いのでござる」
例えば遺跡の調査や猫捜しのように、酒場で受けられるクエストは危険度が少ない分報酬も少なめなのである。たまに不死身の鎧に追いかけ回されたり大熊に遭遇したりといった割に合わない事も起こるが。
『こういうの見るとやっぱり思うんですよね。もっと楽に大金を稼ぐ方法があるのにって』
「稼げてないんだよなぁ……」
『お二人とも知ってますか? 払い戻しの倍率が2倍より大きければ、負け分の金額を賭けていけばいずれは勝てるんですよ』
『勝ててないから今こうなってるんじゃないの……?』
「次負けた時の600万Gはどこから持ってくるつもりなのでござろうか……」
『300万Gが何とかなりそうなんですから、600万Gだって何とかなりますよ』
「…………」
酷いポジティブを見た二人であった。




