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第七話 その2

 さて。


 転生もののチート能力と違って、追放もののチート能力には若干の制限がある。


 それは、性能が限定的である事だ。転生チートは分かりやすく戦闘向きである場合が多いが、追放チートはまず戦闘に向かない場合が多い。そんじょそこらに能力の的である魔物が溢れている異世界では、戦闘向きのチート能力ならすぐに周知のものとなってしまう。そうなれば当然見下されたり追放されたりするといった事は起こらないので、追放チートが成り立たなくなってしまうのだ(※あまりにも強すぎて魔物を瞬殺し過ぎるが故に、その強さが誰の目にも留まらないという例もあるが)。


 それを踏まえた上で、追放チートにはどのようなものが適しているのかと言うと、


(フム……ここはやはり『鑑定スキル』が王道でござろうか)


 鑑定スキル。RPGなんかでは、拾得アイテムの判別等に用いられる能力だ。そうする事により呪いを回避したり、売却額が上がったりする。地味ではあるが、ダンジョン探索系のRPGでは不可欠の能力と言っていいだろう。


 無論、それではただの便利スキルなので、追放チートでは味付けをする必要がある。例えば『鑑定した武器を完璧に使いこなす事が出来る』や『鑑定した物のグレードを数段階引き上げる』のような、モブが驚き追放した人が後悔するような要素を付け足す必要があるのだ。


(あるいは必要となる場面が限られる『蘇生スキル』や、もしくはスローライフに寄せて育成系のスキルも良いでござるな。どんな土壌でも種を育てられるスキルとか、どんな植物の種でもレアなフルーツを実らせる事の出来るスキル等…………夢は広がる一方でござるなwwwドゥフフwww)


 自分の未来に想いを馳せ、カールは内心で草を生やすのであった。


 さて。


 チート能力の内容はさて置き、追放チートには不可欠なものがある。


 それは、チート能力に気付くためのトリガーだ。追放チートでは、チート能力の気付き方が物語の進路を決定付けると言っても過言ではない。それほどまでに、トリガーとなる要素は重要なものなのである。


 ではそれは何かと言うと…………まぁぶっちゃけて言えば、美少女ヒロインの存在である。大別すると困っているヒロインか自分を助けてくれるヒロインかの2つに分かれるが、確定事項としてはどちらも美少女であるという事だ。これはもう覆しようの無い確定された事象であり、もしトリガーが美少女ヒロインでなくジジイとかオッサンとかだったら、その作者はインターネット掲示板で言うところのただの逆張りレスKOJIKIでしかない。例え主人公がキモオタニートという最初から逆張りしているような作品であっても、それに関してはお約束を果たす以外の選択肢は無いのである。


(フム……しかしそうなるとエリザ氏が敗北ヒロインという事になってしまうでござるな)


 チート能力に気付くトリガーとなるヒロインと暴力ヒロインとでは、ヒロイン係数に言うまでも無いほどの大きな差がある。もし前者がちゃんと王道を踏襲しているのなら、エリザはその他の女性キャラ程度にまで格下げとなってしまうだろう。いくら金髪ポニテとはいえ、暴力ヒロインでは追放チートのヒロインには到底敵わないのである。


(…………。まぁ、それも致し方なし。将来的に拙者は何故か美少女しかいない孤児院を経営する事になるやもしれぬ身、エリザ氏には申し訳ないが廃屋住まいを続けるわけにはいかないのでござる…………フヒヒwww)


 最後に欲望の草を生やしつつ、カールは心の中でエリザに謝罪した。


 もっとも――カールが追放チート系主人公ではない事は、前回の話で確定しているのだが。



 カールが向かった先は、エルストの町から徒歩30分ほどの場所。見上げるほどの高さの石の壁に囲われた、廃墟となった遺跡だった。


「ここが通称『迷いの遺跡』でござるか……」


 その由来は、非常に入り組んだ迷路のような構造にある。既に天井が無く、今や壁だけで構成されたこの『迷いの遺跡』は、さながら昔に流行したアトラクション、巨大迷路のようだった。


 そんな、地図でも無ければアイドルのバスツアーで取り残された客の如く永遠に彷徨い続ける事になるほどの(※都市伝説です)迷宮っぷりだが、カールには『地図作成』という固有スキルがある。そのスキルの詳細は過去の話を見てもらうとして、端的に言えばカールはこの世界全ての地図を頭に表示する事が出来るので、どんな迷宮であろうとも迷う事は無いのである。


 そんな場所にカールがやってきた理由は、ここなら何かイベントが起きそうである事に加え、ここには魔物が生息していない……つまりここがノーエンカウントエリアだからだった。無機質な石造りの遺跡には餌となる動植物は無く、屋根が無いので雨は凌げず、そして前述の通り非常に迷いやすいので、こんなところに生息する理由が魔物には無いのである。


(いくら『求)イベント』とはいえ、魔物は危ないでござるからな……)


 死にかけの状態からヒロインに助けられるという展開は追放チートでは王道だが、もしヒロインに出会えなかったり、そもそも追放チートではなかった場合の事を考えると、魔物が生息する場所に足を踏み入れるのはリスクが高過ぎる。カールは最雑魚モンスターであるバニット系を倒すどころか、逃げる事さえも困難なほど、ステータスが低いのだ。


 そして実際はそもそも追放チートではないので、カールの選択は正しかった。


「まずはイベントが発生しやすいよう、適当に迷って見せるとするでござる」


 カールは地図を表示しないまま、遺跡に足を踏み入れた。


 魔物が生息していない事もあってか、遺跡の中は静かだった。カールの耳に届くのは、石造りの床を叩く自身の足音と、青天井から微かに聴こえる鳥の鳴き声だけだった。


 特にイベントも無いまま、しばらく歩いていると――


「……ム?」


 袋小路のような行き止まり。

 石の壁を背に、白銀の甲冑が座っていた。


(まっ……マジで来たぁぁぁ!)


 兜がフルフェイスなので容姿は分からないが、パッと見あれはどう見ても気を失って壁にもたれかかっている、今現在窮地に陥っている美少女ヒロインだった。


(やはりこの作品は追放チート……!)


 窮地に陥ったヒロインを助けるために、チート能力に気付く……追放チートの王道ルートに乗った事を、カールは確信した。


「然らば早速ご尊顔を……」


 瀕死っぽい人に対してはあまりにも不謹慎な弾んだ足取りで近付き、カールは兜のバイザーを上げた。


「もしもし、大事無いでござ――」

「ム、ムムゥ……(しわがれた声)」

「――――」


 カールはそっとバイザーを下ろした。


 バイザーの下にあったのは、老齢の男性の顔だった。


 それは美少女ヒロインかどうかと訊かれたら間違いなくNOであり、王道か否かと訊かれたら、逆張りにも程があると言わざるを得ない。


 まぁ、要するに――美少女ヒロインではなく老戦士が壁にもたれて気を失っていた。


「…………。いや、きっと全く関係無い人物なのでござろう」


 ヒロインと出会う前に、イベントを起こしてはいけないというルールは無い。だいたいの追放チートものでは追放後すぐにヒロインと出会う事になるが、その前に1つ2つのイベントがあってもいいはずなのだ。


 故にここで老人が出てくる事は、必ずしも追放チートの否定になるとは限らないのである。


「さて…………美少女ではないとはいえ、見捨てていいというものでもなし」


 目の前の事象をそう解釈した後、カールはバイザーをノックしてもしもしと老人に声をかけた。


「……ム? 婆さんや、もう朝かのう……?」

「何もかも違うでござるが、気が付いたようでござるな」

「……ム? 貴殿は……」


 老戦士はバイザーを上げ、カールの顔をまじまじと見つめる。老眼なのか、ピントを合わせるように顔を前後させながら。


「……はて、どちら様ですかな?」

「通りすがりの者でござる。なんかぶっ倒れてたから声をかけた次第」

「……おお、そうでしたか。いやはや、寄る年波には……どっこらしょ」


 甲冑をガシャガシャ鳴らしながら、老騎士が立ち上がる。頭の高さはカールと同じくらいだった。


「某はダニエルと申す者。どうやらご心配をおかけしたようですな」

「(某……)拙者はカール・ケーニヒでござる。なにゆえ倒れていたのでござるか?」

「(拙者……)お恥ずかしながら道に迷ってしまいましての。帰り道はご存知でないですかな?」

「それなら熟知しているでござる」


 カールはオリジン・マップを立ち上げ、頭の中に遺跡の地図を表示した。


「あそこを右に曲がった後2つ目の十字路を左に曲がり、3つ先の道を右に曲がってすぐ次の道を左に曲がってその後ずっと真っ直ぐ歩いた先のT字路を左に曲がり、そこからの道を右、左と交互に計6回曲がれば出口でござる」

「おお……わざわざ案内してくれるとは、ありがたい申し出ですじゃ……ゴホッゴホッ」


 とても具合が悪そうに(わざとらしく)、ダニエルは咳き込んで見せた。


「…………」


 カールはまだこの遺跡で目的を果たしていないが、しかし老人をここに捨て置くわけにはいかなかった。そんな事をすれば主人公係数に大きくマイナス補正がかかり、チート能力を得る資格を失ってしまうからだ。困っている人は絶対に見捨てられないというキャラでなければ、チート能力は与えられないのだ。


「……じゃあついてくるでござる」


 カールを先頭に、二人は歩き出した。

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