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第七話 その1

 ゆったりと雲が流れる青い空。時折吹く風は草を鳴らし、汗の浮かぶ肌を乾かす。

 夏の日差しは未だ厳しく、一歩を踏み出すたびに汗が吹き出るようだった。


「ブフ……ブフィ~……」

 そんな夏の空の下を、カールは一人で歩いていた。


 カールが歩いているのは、エルストの町から伸びる街道だった。それはここに転生したての頃に、町に向かうために歩いた道だ。


 その道を、カールは今度は町から離れるように歩いていた。食料の入ったリュックを背負い、戦闘能力皆無であるにもかかわらず、魔物が出るかもしれない場所をたった一人で。


 何故カールがそんな事になっているのかと言うと――


「拙者、パーティーから追放されてしまったでござる……」


 それは、カールがパーティーから追放されたからだった。



 とある日の、朝食終わりの一時――


「拙者を追放してほしいでござる」

 突然カールが、そんな事を言い出した。


「……はぁ?」

 カールの申し出に、怪訝な顔と声を返すエリザ。


「いきなりなにを――あたたっ」


 ほんの少し体を動かしただけで、エリザは体中の痛みに表情を歪めた。その痛みは打撲と筋肉痛によるもので、それはつい先日まで行われていた、地獄と化した合宿の後遺症だった。


 それはともかく、普段から言動の怪しいカールであるが、今回のこれは殊更意味不明だった。


「……ちゃんと説明なさい」

「拙者昨晩、この作品は実は転生チートではなく追放チートではないのかと推測したのでござる。よって拙者がチートスキルを得るために、エリザ氏には拙者を追放していただきたいのでござる」

「…………」


 ちゃんと説明されても全く分からなかった。


「……小春、説明よろしく」

 なのでエリザは、カールと同郷である小春に説明を求めた。


「うん……たまたまボクが遊びに来ててよかったね、ホント」

 小春がいなければ、一生話が進まないところだった。


 小春は佇まいを直して、説明を始めた。


「まず転生チートについて説明するよ。転生チートってのは、対象人物が異世界に転生する事で、チート能力と呼ばれる超強力な能力をほぼ無償で得るってやつ。だいたいの作品ではそのチート能力で異世界の超強い敵を簡単に倒したりして、異世界の住人に一目置かれたりモテたりするって展開になるね。一応ボクも異世界チートに分類されるのかな。女の子だからなのか別にモテたりしてないけど」


 端的に言えば、転生チートは『異世界に転生したらすごい力を得た』というものだ。


 ちなみに小春がチート能力持ちの特典にあやかれていないのは、小春が女の子だからではなく主人公ではないが故なのだが、そんな事情はもちろん小春の知るところではなかった。


「それに対して追放チートってのは、対象人物は最初からチート能力を持ってるんだけど、近しい人や場合によっては当人もそれに気付かないまま、役立たずって事で仲間内から追放される。で、追放された後になって実はチート能力を持ってる事が判明して、そこからは転生チートとだいたい同じ流れになるね。転生チート作品との違いは、追放した人たちを見返す事がメインになってるところかな。だいたいの作品では追放した人たちがその能力に気付かなかった事で悔しがったり、場合によっては痛い目を見たりしているね」


 端的に言えば、追放チートは『元々持っていたけど追放されるまで誰も気付かなかった』というものだ。


 そしてカールは、自分が異世界に転生してもチートスキルが得られなかったのは、実は既に持っているからではないかと考えたのであった。


「…………。それはともかく、カールは自分が追放チートだと主張しているわけね?」

「数行に渡るボクの説明がそれはともかくで流されている……」

「拙者の最初の台詞を復唱しただけでござるな」

「あんたたちの世界の話はややこし過ぎるのよっ!」


 昨今のサブカルは細分化が著しいのである。


 それはともかく、追放チートにおけるチート能力の発現条件は『気付く』事であり、そして気付くためには現在身を置いているコミュニティから追放される必要がある。追放チートの本質は自分を見下し軽んじた者を見返す事なので、追放という形で屈辱を受ける必要があるのだ。


「というわけで、エリザ氏には拙者を追放していただきたいのでござる。それなりの罵倒を添えて、ゴミを捨てるような感覚で行うのがベストでござるな。さすれば然る後、チート能力を得た拙者が再びエリザ氏の前に現れ、そのチート能力を以てエリザ氏に拙者を追放した事を深く後悔させる……という流れになるでござる」

「だいぶ私嫌な役回りじゃない?」

「あくまで形式的にでござる。実際に拙者がチート能力を得た際はもちろん仕返しなどは考えず、お願いすればその力をエリザ氏に貸してあげる事もやぶさかでないでござるよ」

「もう既に調子に乗ってるわね」

「最初から態度悪いとカタルシス薄まるから謙虚にいた方がいいよ」

「おっと、それもそうでござるな。然らば……コホン」


 カールは無意識にふんぞり返っていた体を、謙虚な好青年の角度に戻す。


「というわけでよろしく頼むでござる。拙者の素晴らしき異世界転生ライフのために」

「いや、そもそも開拓者のあんたに居なくなられると私が困るんだけど……」


 たまに作者も忘れるが、エリザの目的は新地開拓を果たして家に帰る事だ。いくらカールがいろいろと(主にビジュアル面で)アレであっても、開拓者である以上エリザにとっては必要な存在なのである。


「そこを曲げて頼むでござる! チート能力が見つかったら必ず帰ってくるでござる故!」


 カールがDOGEZAをして懇願する。それを見てエリザは、隙あらばKOJIKIをするような人のDOGEZAにどれほどの価値があるのだろうかと思わずにはいられなかった。


「……分かったわよ」


 エリザは観念して、カールを見下すように見据えて言葉を紡いだ。


「もうあなたのような役立たずを置いておくのは我慢がならないわ。見た目はアレだし、不潔だし、喋り方もなんかおかしいし。あなたに対する生理的嫌悪感は限界値を超えました。よって、あなたにはパーティーから外れてもらいます。もうあなたは必要無いわ、さっさと消えなさい」

「なんか代わりの開拓者が見つかったら実際に言われそうなセリフでござるが…………分かったでござる。今まで世話になったでござるな、エリザ氏……」


 そう言い残してカールは、あらかじめ用意しておいたリュックを背負って、廃屋から出て行った。



 という運びで、カールはパーティーを追放されたのであった。


「さて……まずは拙者がチート能力に気付くきっかけとなる出来事が起こり得る場所へと足を運ぶでござる。さすれば拙者にも遂にチート能力が……フヒヒwww」


 要するに何かイベントが起きそうな場所へと、草を生やしつつカールは足を向けるのであった。



 カールが去った後。


「あ」

「どうしたの小春?」

「いや……別に大した事じゃないんだけど。追放型のチート能力者ってほとんどが転生者じゃなくて現地の人だなぁって思って」

「そうなの? いやよく知らないけど」

「そもそも異世界転生ってのがチート能力を得るためのイベントだし。追放というイベントでチート能力が発現するなら、異世界転生というイベントはやる必要が無いんだよね」


 異世界転生してチート能力を得た後、追放されるまでそれに気付かないという展開も無しではないが、そうすると見下されパートが長く続いて読者離れを起こしてしまう可能性がある。娯楽の幅が広い昨今では、ストレスになるようないわゆる『溜め回』の話数は、なるべく少なくしなければすぐに読者にそっぽを向かれてしまうのだ(※固定ファン多数の長寿作品除く)。


「……つまりどういう事?」

「カールさんが追放されたところで、チート能力は発現しないだろうって事」


 そもそも後付けで能力を得る転生チートと違い、追放チートは生まれ持った能力なので、生まれが物理と科学の世界であるカールが剣と魔法の世界のチート能力など持っているはずが無いのである。


「それは…………大変ね。いや大変でもないか」

「うん……一瞬大変かと思ったけど、実際そうでもないね。どうせ食料尽きたら帰ってくるだろうし」


 よく考えたらあまり大した事ではなかったので、二人はそれきりカールの事を考えるのをやめたのであった。

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