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第五話 その3

 壁や天井の穴から差し込む光だけが光源の城内は、当然の如く薄暗かった。


「フム……ウンともスンとも言わないでござるな(カチカチ)」


 照明のスイッチは全くの無反応だった。これまでの地下遺跡や海底遺跡と違い、この城はこんな状態になるまで外的要因に晒されていたので、ライフライン等の設備がズタズタになってしまっていた。


「ほら、暗いですしやっぱり帰りましょうよ。いくらヴァンパイアがいないって言っても、暗い所を歩くのだって危険なんですから」

「確かに足元が不明な場所を歩くのは非常に危険でござる。が、しかしながらそれは既に対策済みでござる」


 カールはリュックをゴソゴソと漁り、筒状の物を取り出した。


「懐中電灯~(ピシャシャシャシャーン!)(てってけてってってーてってー)」


 例のSEとエフェクト(旧バージョン)と共に(イメージ映像)、カールは懐中電灯を掲げた。


「なんとこれは、電鉱石で光を発する懐中電灯なのでござる!」

「へー、そんなのあるんだ」


 小春が不思議そうに、懐中電灯をまじまじと眺める。


「しかもこの懐中電灯、なんと従来のものと使用感が変わらないのでござる!(カチカチ)(明滅)」

「え、マジで? すごい、ちょっと貸して!」


 小春は懐中電灯を受け取ると、カールと同じようにカチカチし始めた。


「わっ、すごい本当だ! へー、異世界にもあるんだ……!」


 懐中電灯に大はしゃぎの小春。


「……あの、何をしているんですか?」


 そんな様子を、マリィは訝しげな表情で眺めていた。


 異世界人であるカールと小春にとっては謎鉱石仕掛けの懐中電灯はオーパーツじみたものだが、現地人のマリィには普通の懐中電灯の何が彼らをはしゃがせるのか全く意味不明だった。


「異文化に触れているのでござるよ」

「はぁ……」


 その返しも意味が分からなかったので、マリィはとりあえず気にしない事にした。


 ともあれ懐中電灯を手にした事により、暗闇の不安は解消された。


 懐中電灯を手にしたカールを先頭に、三人は城内の探索を開始した。


「うわ、階段がすごい事になってる」


 入口から少し歩いた先の、玉座の間に続く通路の左右に設置された階段。片方は中腹辺りで崩れ落ち、もう片方は同じく中腹辺りが崩落した天井の瓦礫で塞がれていた。


「ここまでボロボロだと地図はあまり役に立ちそうにないでござるな」


 オリジン・マップに記されている地図はここが万全な状態でのものであり、ここまで変わり果てているとほとんど使い物にならなかった。例えば二階に上がるには、オリジン・マップ上では左右の階段でそのまま上がれるが、実際は崩落や障害物でその階段は使えなくなっている。そうなると今度は外の階段を使って別の入り口から城内に入る必要があるのだが、その階段も使えるかどうかは分からない。


 ここまで来ると、もはや最初から地図を作り直した方がいいレベルだった。


「これは…………どうやって二階に上がればいいのかな?」


 使い物にならなくなった階段を眺めつつ、小春が言った。昔のRPG特有の「え、別にここ飛び越えたら通れるやん」みたいな事の無い、何をどうやってもこのままでは絶対に通れないような崩れっぷりだった。


「フム……ここの階段が使えないとなると外の階段を使う必要があるのでござるが、そちらも使えるかどうか定かではないでござる」


 そう言いながら、カールが懐中電灯を周囲に巡らせる。ここがRPGのダンジョンだとすると、上に行ける何かしらのギミック(どこかしらを攻撃して、途中で崩れた階段に架け橋を設置する等)があるのが定石なので、そういったものを探すために。


「……ム?」


 そんな風にして天井を……ちょうどどこからの光も当たらず、暗がり状態となっている天井の角に光を当てると、一見しただけではよく分からないモノを発見した。


「…………。……――ファッ!?」


 目を凝らしてじっくり眺めていると、不意にそれの正体が分かってカールは甲高めの悲鳴を上げた。


「と、どうしたのカールさん、顔に何か飛んできた?」

「……あれを」


 カールが光と視線でソレを指す。


 果たしてそこには――天井に逆さにぶら下がった、蝙蝠の群体があった。


「うっ……割と気持ち悪いね、直に見ると」

「人によってはグロ注意でござるな」


 元は都会っ子である二人は、蝙蝠を直接見るのは初めてだった。初めてそれを見た感想は、眉間に皺を寄せつつそんなセリフを口にするようなものだった。


「そんなに気持ち悪いものですかね……?」


 自然の多い異世界育ちのマリィは、そんな二人の感想に首を傾げるのであった。


「……でも蝙蝠がいるって事は、やっぱりヴァンパイアがいるって事なんじゃないですか?」


 蝙蝠とヴァンパイアの関係性は、今更説明するような事でもないだろう。ヴァンパイアが動物を使役する時、それはほぼ100%蝙蝠であるくらい、蝙蝠とヴァンパイアは密接な関係にあるのだ。


「そうでござるか? このような場所ではエネミーや背景オブジェクトとして頻繁に見かけるでござるが」

「そーそー。別に普通だよね、こういう場所に蝙蝠がいるのって」

「まぁ、それは……」


 民家の屋根裏に住み着く事もあるくらいなので、蝙蝠がこういった場所にいる事は自然な事ではあるのだ。


「案ずる事は無いでござる。仮にアレがヴァンパイアなら、拙者たちは既に襲われているでござる。そうでないという事は、アレはヴァンパイアではないか、あるいはヴァンパイアにこちらを害する意志が無いかのどちらかなのでござる」


 現段階で三人が無事という事は、何もしなければ何事も無いという事なのだ。


「…………そうですか」


 納得したような、そうでないような、曖昧な表情を浮かべるマリィ。


 三人はひとまず二階に上がる事は諦め、先に進んだ。




「ここは……玉座でござるな」


 進んだ先は、往々にして一般的な城の最奥部とされる、玉座の間だった。中央には玉座へ伸びる赤いカーペット、両脇を兵士が固め、部屋の一番奥には煌びやかな装飾の施された玉座が鎮座する。そこに座るは国の最高権力者、即ち王様であり、謁見を求める市民や枢機卿とかと日々話とかをしているのだ。


 という、たぶんそんな感じの部屋である。実際はどうだか分からない。謁見って具体的にどういう話をしているのかとか、枢機卿って実際何する人なのとか、RPGでしか玉座の間を見た事の無い我々にとってはあまり用途の見えてこない部屋だった。


 そしてこの城の今現在の玉座の間の様子は、他の場所と同様に酷い事になっていた。玉座は経年劣化により背もたれが消失し、赤いカーペットは腐ったように変色している。唯一他と違うのは天井や壁に穴が空いていない事で、そのおかげでここは他の場所よりも視界が悪かった。


「ここも撮影を?」

「もちろん。ちょっと待っててね」


 スマホを手に、小春は玉座の間をうろちょろし出した。スマホにはバックライト機能があるので、この程度の暗闇は撮影するのに何の支障も無かった。


「結局あの子は何をやってるんです?」

「まぁ……取材みたいなものでござるよ」


 小春が撮影を続けている間、カールは手持ち無沙汰に辺りを懐中電灯で照らす。


 そうして何気なく天井を照らすと――また蝙蝠がいた。


「――――」


 カールはすぐに懐中電灯を下げ、見なかった事にした。


(……さて。クエストは順調でござるな)


 城内ではまだ魔物に遭遇していないので、城の探索自体はすこぶる順調だった。小春の動画撮影が目的とはいえ、名目上は古城の調査クエストなので、城の探索及び調査はしっかりとやる必要がある。


 城は今のところ現在進行形の崩壊は見られず、よほど無茶な事とフラグ建設をしない限りは崩れる心配は無いだろう。あとは、こちらがマリィがヴァンパイアだと気付いている事に気付かれなければ、つつがなく撮影とクエストは終了となる。


「そういえば如何にもダンジョンという風情なのに、魔物の姿が見当たらないでござるな」

「言われてみればそうですね。……もしかしたらこの城に住み着いている強力な魔物を恐れて、他の魔物は近付かなくなっているのかもしれませんね」

「ハハ……恐ろしい話でござるなそれはwwwフヒヒwww」


 危うく墓穴を掘りかけたが、草を生やして誤魔化した。


「お待たせ。じゃあ二階に行こうか」

「ようがす。然らばまずは一旦外に出るでござる」


 城内の階段はあの有様だったので、二階に上がるには外回りの兵士が使う外階段を使う必要がある。もちろん、今現在も使えるかどうかは未知数だが。


 三人は元来た道を引き返して、城の外へ。


 その途中、スマホを見ながら二人の少し後ろを歩いていた小春が、何かを発見した。


「ねぇ、ちょっと……」


 城の出口のすぐ近く、その左手側を小春が指さす。


「あっち、なんか変なんだけど……」

「ム……? あそこはただの暗がりでござるが……」


 朽ちる前の地図上でも、小春の指した先には通路と外への出口しかない。そんな場所に起こる変化と言えば、崩落で通れなくなるくらいのものだが……


「あの辺りになんか、空洞? があるんだよね」

「空洞? はて……」


 カールの地図にはそのような記載は無い。それでも空洞があるとすれば、例えば地盤沈下で地面に大穴が開いたとかそういうので、そうだとするならそれほど気にするような事ではない。せいぜいクエストでの報告事項が1つ増えるくらいだ。


「うん。人が通れるくらいの穴で、地下に続く階段があるよ」

「――――」


 もし小春の言う通りなら、それは自然現象で開いた穴ではない。何者かが何らかの目的で造った、この城における未開拓の地という事になる。


「これは…………臨時収入の予感!」


 そして未開拓の地であるという事は、地図を作れば開拓ボーナスが貰えるという事だ。ちょうど小ロロンド遺跡の調査に毛が生えたような報酬では割に合わないと思っていたところだったので、これは嬉しい誤算だった。


「や、やめておいた方がいいんじゃないですか? なんかすごく危険な感じがしますし」

「目の前に落ちてる銭袋を拾わない手は無いでござるよwwwフヒヒwww」

「――――」


 カールの目は既に『$』になっていた。


 故にカールは、マリィの態度の変化に気付けずにいた。


「……ここでござるか」


 小春の指した場所へ足を向けると、それはすぐに見つかった。床と見分けがつかないくらい巧妙にカモフラージュされていたが、穴を塞ぐ板の下に地下への階段があった。


 すぐに見つける事が出来たのは、開拓者の固有スキル『地図作成』のおかげだった。歩いた場所とその一定範囲内が自動的にマッピングされるという特性により、板一枚下の足元の下の空間がマッピングされ、そこに気付く事が出来たのだ。


 カールはその場に膝をついて板を外し、懐中電灯で中を照らした。そこにあったのは地下へと続く階段と、微かな熱気と妙な匂いだった。


「フム…………どうやら普通のダンジョンではなさそうでござるな」


 立ち上がって膝の砂埃を払った後、カールは後ろの二人に向き直った。


「駄目ですよそれは。そんな事をしちゃったらもう……こうするしかありません」


 その時カールが見た光景は――小春の後ろから組みつき、剣を小春の首元に当てるマリィの――端的に言えば、小春を人質に取ったマリィの姿だった。

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