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第四話 その6

「ところであとどれくらい残ってるの?」


 水分を補給したおかげで、カールとエリザの体調は八割方回復していた。ちなみにエリザの使い終わったカップは再び氷の壁の一部となり、カールのカップは水と同様に彼の腹に収まった。


「ここまで終わってるわ」


 ミューズは遺跡の地図を広げて、通路に指で線を引いた。その線が示すものは、三人のすぐ傍にある氷の壁だ。


「半分も終わってないのね……」


 氷の壁は、向こうから進んで3分の1ほどの位置にあった。残り3分の2、遺跡の外にまで捜索が及ぶなら、その範囲は更に広くなる。


「場合によっては数日に及ぶかもしれないわね」

「手持ちのお金でも三人分の宿泊費にはならない事も無いけど…………クエスト失敗して報酬が貰えなかったら、本当に歩いて帰る羽目になるわよ」


 この世界にはATMのようなものは今のところ存在しないので、手持ちのお金が尽きたら無一文になってしまうのだ。


「いいんじゃない、だったら野宿で。水はあるし、寝床は氷でコテージを作ればいい。むしろ宿屋よりも快適まであるわね。食べ物は…………無人島なんだから何かしらあるわよね」

「…………」

「…………」


 カールとエリザは、それぞれ左右に視線を逸らした。


「……ま、まぁ、今日中に終わらせればいいだけの話よ。そうすればご飯の心配なんて要らないのよ」

「然り。さすれば空腹に耐えかね、毒キノコを食して悶え苦しむなどという憂き目には合わずに――ンンッ、ゲフッゲフッ。なんでもないでござる」


 危うく口を滑らせるところだった。九割方口に出してしまったような気もするが、危うく口を滑らせるところだった。


「だったら今度、毒キノコから毒を消し去る魔法を教えてあげてもいいわよ。ちょうど本当に毒が消えたのかどうかを調べるための実食をする人を探していたのよ」

「人を実験台にしてるとその内マジで捕まるでござるよ。まぁそもそも拙者、魔力はカケラも持ち合わせていないのでござるが」


 カールのMPはきっちり0である。成長率も0なので、MPに関して言えばカールはロー〇シアの王子だった。


「あら、そうなの。かと言って、とても戦士職には見えないけど」


 しかしながら身体能力に関しては、ムーン〇ルクの王女(犬)未満である。ロー〇シアの王子の魔力とムー〇ブルクの王女(犬)未満の身体能力を併せ持つカールは、言うなればクソ弱くしたサ〇ルトリアの王子のようなものだった(=どうしようもない)。


「カールくんは何をしている人なの?」

「フム……一部の人種にとって、美容院で言われたらもう二度とそこには行かなくなる質問でござるな」


 お客が1000円カットに流れる原因の1割くらいは、美容師のそういった無神経な質問にあるのではないだろうか、いやある(断言)。


「しかしながら今の拙者は無職に非ず。拙者は開拓者というジョブに就いているでござる」


 この世界での開拓者というジョブは、一握りの特別な者たちを除けば『開拓者……あっ、ふーん(察し)』みたいな扱いのジョブではあるが、もちろん無職よりはいくらかマシだった。


「……開拓者って、確かオリジン・マップを使用出来る唯一のジョブだったわね。なり手がほとんど存在しないという点では、非常にレアなジョブと言えるわね」

「然り。言うなればSSRジョブというわけでござる」


 もちろんその希少性はSSRという意味ではなく、どう育成しても使い道が無い故に誰も使っていない低レアという意味でのものである。


「ちなみに地図の魔法が存在しないのは開拓者への忖度だと言われているわ。こればかりはシステムの問題のようで、天才の私でさえも地図に関しては複写すら叶わないわ」

「フム……漫画アプリでスクショが取れないみたいな感じでござるか。そう言われるとチートじみていると言えなくもないでござるな」

「まぁ、地図なんて買えばいいだけの話だけど」

「…………」


 ちなみにミューズが持っている地図は、クエストの受諾時に前金と一緒に渡されたものだ。


「さて、じゃあさっさと片付けましょうか。……と、その前に」


 ミューズはさっき出てきた通路に向かい、その入り口を氷の壁で塞いだ。


「ここからの分かれ道はあと24本。犯人がこの遺跡に潜んでいるのであれば、頑張れば今日中には片が付きそうね」


 改めて地図を広げながら、ミューズが言った。


「手分けすれば半分の時間で済むわね。地図の関係で私とミューズ、そしてカールの二手に分かれる事になるけど」

「いやいやエリザ氏。拙者戦闘能力皆無故、エリザ氏かミューズ氏と共に行動せざるを得ないでござる」

「手分けするのはいいけど、私以外に通路を塞げる人いるの?」


 結局、三人一緒に捜索する事になった。


「じゃ、まずはあっちね」


 ミューズを先頭に、そのすぐ後ろをカールとエリザが歩く。


「24本って言っても、そこから先も結構分岐してるのよね」

「適度にお宝でも配置されていればモチベも上がるのでござるが、開拓済み故に期待は出来ないでござるな」


 開拓済みという事は、既に誰かが攻略したという事だ。例え宝箱が配置されていたとしても、それは全て蓋が開いた状態の空の宝箱に他ならない。それ故に、未開封の宝箱があったら要注意だ。それは宝箱ではなく、高確率でミミックなのだ。


「あと揚げ足を取るようでござるがエリザ氏、分かれ道はあと25本でござるよ」

「あぁ、そう」


 そんなやり取りをしつつ、最初の分かれ道へ。


「いや、24本で合ってるわよ?」


 その入り口で、地図に目を落としつつミューズは言った。


「ム……? そうでござったか…………、いや、やっぱり25本でござる」


 カールがオリジン・マップで氷の壁のこちら側を確認すると、確かに25本の道が書かれていた。


「…………。やっぱりどう数えても24本だけど」

「えぇ……ほんとにござるかぁ?」

「数えてみなさい」


 カールはミューズから地図を受け取り、言われた通りに道を数える。


「……ム? ムム……?」


 二人の意見が食い違った原因はすぐに見つかった。


「この地図……オリジン・マップと比べて道が一本少ないでござる」


 カールは二人に見えるように地図を広げ、その場所を指さした。


「オリジン・マップには、この場所に道があるでござる」




 カールが示した場所は、中央通路のちょうど真ん中の位置にあった。


「……壁ね」


 エリザがぽつりと呟く。


 その呟きの通り、そこは通路の側面、即ち壁だった。


「妙でござるな……」

「ふっ……こういう時に取るべき行動は、たった一つよ」


 ミューズはポケットから鉱石改め氷晶を取り出すと、それを頭上に浮かべた。


「撃ち抜きなさい――フローズン・ダイヤモンド!」


 ミューズが銃を模った右手の人差し指を壁に向けると――頭上の氷晶から、それと同等の大きさの氷の弾丸が撃ち出された。


 次の瞬間、壁はけたたましい音を立てて崩れた。


「ふっ、造作も無いわね」


 そして崩れた壁の先には――道があった。


「あぁ、隠し通路になっていたのね。なるほど、だからあの地図には書いてなかったんだ」


 オリジン・マップと違って、市場に出回っている地図は不完全である場合が多い。地図は魔法による複写が出来ないので、量産の手間を少なくするために内容を簡略化、オミットする事が割とあるのだ。


「……妙でござるな」


 隠し通路を前に、カールは首を傾げた。


「妙って、何が気になってるの?」

「ここが隠し通路であるなら、オリジン・マップにはそう記載されているはずでござる。なのに地図上では、ここは普通の通路として書かれているのでござる」

「……その、オリジンなんとかって地図はこっちは見れないから何とも言えないけど、書くほどの事でもないって事なんじゃない?」

「ムゥ……通路を隠すほどの壁が書くほどの事でもないとは考えにくいのでござるが」


 オリジン・マップは市販の地図よりもかなり仔細に書き込まれている。扉の一つ一つまで書いてあるのに、通路を隔てる壁が書かれていないというのはどう考えても不自然だった。


「あるいはこの壁が、この遺跡の地図が完成した後に造られたものだから、かもしれないわね」


 身を屈め、壁の残骸を手に取りながらミューズが言った。


 例えるならそれは、10年前の地図に去年出来たコンビニが載っていないようなものだ。当時に無いものは、当時に作られた地図には載らないのだ。


「それならそれで、通過した時に壁が記入されているはずでござる。地図を消して歩いていたとはいえ、記入は自動的にされるはずでござる」

「え、あんた地図消して歩いてたの?」

「通り抜けるだけなら一直線でござる故。常に表示させておくと意外と鬱陶しいのでござる」


 オリジン・マップを出しっぱなしにしておくという事は、言うなれば眼鏡の片方のレンズに水滴が付いているようなものなのだ。


「あぁ、『地図作成』は自動筆記という話だったわね。なら通りすがったのなら記入されて然るべきか。……ちなみにその地図には、私が作った氷の壁は書いてあるのかしら?」

「書いてないでござる。よほど建築寄りでなければ、基本的に魔法の産物が地図に載る事は無いでござる」


 地図作成により記入されるのは、存在するものであれば何でもかんでもというわけではない。それが地図に記すに足るものだと判断された場合にのみ、スキルが働いてオリジン・マップに記入される。例えば氷の壁のような、一時的にしか存在しないようなものは必要無しと判断されて地図には記入されないのである。


「それがどうかしたのでござるか?」

「要するに、この壁は私の氷の壁と似たようなものだという事よ。誰かが隠れたくて、あるいは誰かが何かを隠したくて、一時的にこの道を隠した」

「……ホホゥ。それはつまり…………、……どういう事でござるか?」

「この壁は本当に、『地図作成』にとっては書くほどの事でもなかったという事よ」


 瓦礫を放り投げ、ミューズは先に進んだ。




 崩れた壁の先の通路は、意外なほど早く終着を迎えた。


「え、短っ。もう終わり?」

「ここだけ何故か異様に短いのでござる。それ故に、地図に書かれてなくとも不自然な空間とはならなかったのでござろう」


 正確な地図を持っているカールだけは、この短さも予定調和だった。


「それにしても暗いわね……」


 この通路の最奥にして唯一の部屋は、照明が独立しているのか真っ暗だった。


「明かりが無いなら私が用意するけど?」

「いや、それには及ばぬでござる」


 カールは暗闇の中を地図を頼りに、手探りで照明のスイッチを探す。地図の上ではかなりの広さ――ちょっとしたコンサートホールほどの大きさの部屋だが、明かりのスイッチは入り口付近と相場が決まっているのだ。


「ム、これでござるな」


 パチン、と照明のスイッチを入れる。


 するとバババッと、天井に設置された白色灯が点灯した。


「――――」


 全容が明らかになった、隠された通路の最奥の部屋。カールとエリザは言葉を失い、ミューズは興味深そうにそれを眺めていた。


 部屋の中央に、ゴーレムが立っていた。


 ゴーレムである。その名詞からは巨大な人型の自立人形というイメージが浮かぶが、眼前のそれは今現在動いていない以外はまさにその通りだった。


 素材は石。色は緑。外見には目立った損傷は見られず、ドーム状の頭部の一つモノアイは天井ほどの高さから眼下を眺めている。ゴーレム自体はかなり昔のもののようで、今のところ動く気配は無かった。


「ん、なるほど。この遺跡の天井が高い理由はこれだったのね」


 ここはいわゆる格納庫だった。異様に短い通路はダンジョンではなく出撃用の通路で、有事の際はここからゴーレムが発進するのだ。もっとも、今現在はその機能は失われているらしく、通路が塞がれるという事があっても何の反応も示さなかった。


「ム……? あれはもしや……」


 そしてゴーレムの他に、この部屋にはもう一つ目立つものがあった。


「お宝でござる!」


 ゴーレムの股下の先に、宝箱が置いてあった。


 カールのテンションが上がった!


「……開拓済みだからお宝には期待出来ないって言ってなかった?」

「フッ……セオリーを理解していないでござるな、エリザ氏。ボスモンスターの先の宝箱というものは、無条件で良い物が入っていると相場が決まっているのでござるよ」


 カールは何も宝箱を見たら自動的にテンションが上がるというわけではない。ボスが守っている(ように見える)宝箱は中身が保証されているからこそ、カールはこうしてテンションを上げているのであった。


「ふぅん……まぁいいけど、って事はあのゴーレムと戦うの?」


 エリザが視線でゴーレムを指す。全高は二階建ての家屋ほどの、巨大なストーンゴーレムだ。そんなものに生身で挑もうものなら、その顛末は踏み潰されてペラッペラになるか蹴り飛ばされて人型の穴を壁に開けるかのどちらかだろう。真面目な作品ならR18Gである。


「…………。あれは動かないのではないでござろうか」

「動かないならボスじゃなくてオブジェだし、だったら宝箱の中身はロクでもないものなんじゃないの?」

「…………」


 完全論破された瞬間だった。


「そもそもこのクエストは宝箱にもゴーレムにも用は無いでしょう? まさかゴーレムが秘宝を盗むわけないし。……わけないわよね?」


 エリザがミューズに尋ねる。


「強盗ならともかく今回のはコソ泥だから、このサイズのゴーレムには無理でしょうね」


 何より、このサイズのゴーレムは遺跡を出入り出来ない。この遺跡は通路はやたらと大きいが、出入り口は普通の遺跡のサイズなのだ。


「じゃあここには用は無いわね。さっさと通路のしらみつぶしに戻るわよ」

「えぇー……それでもやっぱり気になるでござる。万が一という事もあり得るでござる。万が一、ここを開拓した者が動かないゴーレムに恐れをなして宝箱を開けないまま立ち去ったというのであれば、あの中身は期待出来るかどうかはともかく健在である可能性があるでござる」

「だったら今度プライベートで来なさい。私たちにはそれほど時間に余裕が無いのよ。動くかもしれないゴーレムをどうにかする方法を考える滞在費は、今の私の財布には無いわ」


 寝床はともかく無人島での食べ物に期待が出来ない以上、日数を掛ける事は帰れないどころか生存すら危ぶまれる。クエストとは関係無い事に付き合っている金銭的余裕は無いのだ。


「ムググ……それを言われると手の打ちようが無いでござる」


 完全論破された瞬間だった(二回目)。


「いいえ、あの宝箱は開けるわ」


 無事完全論破されて決着がついた話を、ミューズが引っくり返した。


「……理由を聞いてもいいかしら?」

「もちろん、あの宝箱の中に良い物が入っているからよ」


 確信めいた様子で、ミューズは答えた。


「フッ、さすがはレベル70の女史。物の価値というものを深く理解していると見える」

「カール黙って。私の話を聞いてなおそう言うという事は、諸々の問題をどうにかする方法があるという事かしら?」

「ええ、もちろん。私に作戦があるわ」


 ミューズは二人に作戦を伝えた。


「拙者が真っ直ぐ宝箱に向かう……でござるか?」

「そうよ」

「…………それだけでござるか?」

「そうよ」


 本当にそれだけだった。ミューズが伝えた作戦は、地の文でぼかす必要が無いくらい簡潔な一言だった。


「フム……レベル70の魔術師がそう言うのなら、きっとあのゴーレムは動かないという事なのでござろうな」


 お宝に目が眩み若干判断力が失われたカールは、さしたる疑いを持つ事も無く納得した。


「それじゃ、ちゃっちゃと行って取ってくるでござる」


 カールは戦闘機のパイロットがキャノピーから外に向けてやるような二本の指をこめかみでピッとやる仕種をした後、遊歩道を歩くかのように、ゴーレムの股下をさながらアーチを潜るかのような気分で歩みを進めた。


 ――ゴゴゴゴゴ!


 そして数歩進んだところで、ゴーレムが動き出した!


「ファッ!? は、話が違うでござる!」


 ゴーレムは一つ目(モノアイ)をビコーンと光らせて、眼下のカールを視界に捉えた。


「イ、イヤ、まだこれがアトラクションである可能性も捨てきれないでござる……!」


 希望的観測を胸に、カールは更に足を進める。


 ――ギチッ、ギチチチチ!


 ゴーレムの腰と右の肩と肘の部分が、石の擦れる音と共に駆動する。


「これは――地上にいる敵に対する右フックの予備動作のように見えるのでござるが、本当に真っ直ぐ宝箱に向かって大丈夫なのでござるか!?」

「問題無いわ。もし疑わしいのであれば、私にあなたを罠に掛ける動機があるのかどうかを考えなさい」

「拙者清廉潔白品行方正故、問題無く直進するでござる」


 何の罪も無いカールは歩みを進めた。


 ゴーレムの拳がカールめがけて振り下ろされた!


「おファッ!? もしや人は生きているだけで罪という事でござるか!?」


 カールは咄嗟に頭を抱えて蹲り、カリスマガードの姿勢を取った。


 ゴーレムの下段フックがカールを殴打する――その寸前、衝撃音と共にその拳はカールの手前でぴたりと止まった。


「……ム? ……これは」


 カールは恐る恐る目を開く。


 目前まで迫りつつも、急停止するように動きを止めたゴーレムの拳。よく目を凝らすと、拳と自分の間に透明な板のようなものを発見した。


「問題無いと言ったわ」


 その声に振り向くと、あの氷晶がカールの傍で浮いていた。


 それを見て、カールは何が起きたのかを理解した。


 カールとゴーレムの拳の間にあったのは、氷の壁……いや、盾と呼ぶべきか。氷晶から生み出された氷の盾が、ゴーレムの攻撃を防いでいた。


「次が来るわ。さっさと進みなさい」


 見上げると、ゴーレムは次の行動の予備動作に入っていた。


「フッ、フヒッ……!」


 カールは立ち上がり、ダッシュで宝箱へと足を進めた。


 ――ギギ、ゴゴゴゴゴ……!


 その間も、ゴーレムの猛攻は続く。


 カールを轢き潰そうと、足を払う。上から押し潰そうと、拳を振り下ろす。腰の石斧を装備し、カールに斬りかかる。反対側の腰の石の玉を、カールめがけて投擲する。


 その悉くを、氷の盾は阻み、無効化していた。


「ふっ……初めての実戦であるにも関わらず完璧な所作ね!」

「……ん? 今聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど……」


 ゴーレムの攻撃を寸前で浴びながら、やがてカールは宝箱の元に到着した。


「ボス奥の宝箱がミミックであってはならないという理論に基づき、即開封するでござる!」


 カールは宝箱を開けた!


「ム……これは」


 片手で掴める程度の大きさの、赤く透き通った球体。緩衝剤に包まれて、それが宝箱の中に入っていた。


「非常にそれっぽい形の、これは紛れも無く秘宝でござるな!」


 カールは秘宝を手に入れた!


「ドゥフフwwwこの輝きは間違いなく億の値が――」


 ――ガガ……《警告します。すぐにそれを戻してください》ガガッ……


 ノイズ混じりの合成音声(お姉さんタイプ)が、ゴーレムの頭部から聞こえた。


「ファッ!? なんか喋ったでござるが!?」

「ただの防衛機構よ。それより驚いてそれを落とさないようにね」

「よ、ようがす……ひとまず後生大事に抱えるでござる」


 カールは秘宝を抱え込んだ。


 ――ガガッ……《抵抗確認。これより自爆シーケンスに移行します》ガガッ……


「おファッ!? なんか自爆するとか言ってるでござるが!?」

「ふむん……おそらくその秘宝を何が何でも離さないという風な姿勢が、防衛機構の次のステージのトリガーになったみたいね」

「次のステージで!? 普通は第二種装備とかリミッター解除とかを経てから自爆というのがセオリーでござるが!」


 欠陥を隠して搭載された新型エンジンがスピードの出し過ぎで暴走するでもない限り、自爆というものは通常この早さではしないものなのだ。


「その辺の事はよく知らないけど、とりあえずそれ抱えたまま隅っこの方に行ってなさい」

「隅っこ……? それはなにゆえに」

「そこにいると巻き込まれる故に、よ」


 ――ガガッ……《自爆まで、残り30秒》ガガッ……


「隅っこに逃げたくらいで爆風から逃れられるとは思えないのでござるが……!」


 疑いを抱きつつも、カールは言われた通りに部屋の隅に向かって駆け出した。


 対するゴーレムは、もはや動く必要は無い。カウントダウンを待つだけで目的は達成される。仮に爆発の規模が遺跡を破壊するほどのものであるならば、例え標的が爆発から逃れたとしても水圧が代わりに葬ってくれる。確実な引き分けを見込んでいるからこそ、ゴーレムはカウントダウンを発するだけに留まっているのだ。


 ――ガガッ……《自爆まで、残り25秒》ガガッ……


 ゴーレムは直立不動のまま、自爆までのカウントを読み上げ――片膝をついた。


「おや……? ゴーレムの様子が……」


 正確には片膝をついたのではなく、ゴーレムの右脚の膝から下が切断されていた。


 そしてそのすぐ傍には、浮遊する透明の刃。先ほどまで氷の盾を生成していた氷晶が、今度は氷の刃を生成していた。


「解体せよ――フローズン・ダイヤモンドッ!」


 ミューズの力ある言葉(※ただの掛け声)に呼応して、氷の刃が舞い踊る。石で出来たゴーレムの体を、バターでも切るかのように切断し、ブロックを切り分けるように細断していく。


 ガガッ……《ジジ……ジバクマデ、ノコリ》――ブツッ。


 最後に頭部に刃を突き立てると、ゴーレムの全ての機能が停止した。


「お、おお……3面のボスがこんなにもあっさりと」


 カールが部屋の隅で、戦慄混じりの感嘆の声を上げる。ちなみにカールの言うところの一面のボスは動く甲冑で、二面のボスは灰色熊である。


「適正レベルは20といったところかしらね」


 戻ってきた氷晶をキャッチし、ポケットに収める。


 もはや確認するまでもなく、完膚なきまでにゴーレムは破壊され尽くしていた。


 パーティー(厳密にはパーティーを組んでいるのはカールとエリザだけだが)はゴーレムを倒した! 0の経験値を得て、0Gを手に入れた!


「それが出来るなら最初からやればよかったんじゃない?」

「意地の悪い仕掛けの警戒よ。盗られるくらいなら破壊してしまえという思想の持ち主は少なくない。宝箱の中身を乙女の日記帳に置き換えてみたら分かりやすいんじゃないかしら?」

「…………そうね」


 日記を二日で書くのをやめたエリザには全くピンと来ない話だった。


「まぁ、そんな類のものは何も無かったけど」

「おーいエリザ氏、ミューズ氏~!」


 部屋の隅からカールが戻ってきた。


「お疲れ様。例のブツは?」

「ここに」


 カールはお宝をミューズに渡した。


「……ふむふむ。なるほど、これは……」


 お宝の外見や手触りを確認しては、得心がいったようにミューズが頷く。


「どうでござるか? もしそれが件の秘宝でないなら、それの処遇は拙者に一任して頂ければ幸いでござるが」

「……まぁ、依頼の品ではあるわね」

「そうでござるか……」


 カールがしょんぼりした。


「ともあれ、これでクエストは完了ね。それじゃあ帰りましょうか」

「あら、犯人は捜さなくていいの? 動機とかに興味ありそうだったけど。いや、もちろん帰るに越した事は無いけど」


 クエスト外の趣味の範疇に付き合わされたくはもちろん無いが、ミューズがそれをあっさりと放棄した事がエリザは少し気になった。疲れたとか、急に面倒になったとか、そもそも大して興味は無かったとか、そういった理由で投げ出すのは別段珍しい事でもないが。


「えぇ、そうね。だから帰るのよ」


 ミューズの声は、どこか楽しげに弾んでいた。

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